斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

小説『かがみの孤城』がとても良かった。不登校が中心にあるファンタジー

今年の2月に辻村深月さんの『鍵のない夢を見る』という20代~30代の女性が主人公のモヤモヤエピソード集みたいな小説を読んで面白かったので、レビューを書いてお勧めがないかを質問したところ、

泥ママ、ストーカー、DV、育児ノイローゼ……辻村深月さんの『鍵のない夢を見る』は分かりやすいスッキリさがない、モヤッとしたところが面白い小説でした - 斗比主閲子の姑日記

以下のようなコメントをいただけました。

id:koharu12345

こんにちは。いつも楽しく読ませていただいてまふ。

辻村深月、全部読んだわけではありませんが、「スロウハイツの神様」「ぼくのメジャースプーン」「かがみの孤城」あたりをおすすめします。
基本的に若者が主人公の物語ばかりなので、たしかにアラフォーが読むと、登場人物にあまり共感できなかったりします。(私もアラフォーです)

この中の『かがみの孤城』を読んでみて結果的にはとても面白くて、またまた辻村深月さんの小説をレビューする次第です。ちなみに、『かがみの孤城』の登場人物には私はそこそこ共感というか、立場の共通点を思いながら読みました。この辺も記事の中では書きます。

かがみの孤城

※主人公の女の子と、孤城で出会う狼面の少女。 

ストーリーの前半部分は少し触れますが、全体を通してのネタバレはしていません。

ちなみに、今になってAmazonのレビューを見たら、400弱もレビューがあるのに、4.5ぐらいの評価でした。普通、どんな面白い小説でも評価はなんだかんだで分かれて星4ぐらいで落ち着くはずなので、このレビュー数でこの点数は凄まじい状況と言えます。つまり、私のレビューなんか読むまでもなく、かなり多くの人が楽しめるのは確実ですので、レビューは好きな人だけ読んでください。

ざっくりしたあらすじ

どんな話かというと、不登校の中学一年生の女の子"こころ"が学校に行きたくなくて自室にいたら、突然鏡が光って鏡の先の城にワープして、

そこにいた狼のお面の女の子から「期限は一年間で、朝9時~夕方5時まで、それぞれの自宅の鏡から来られるこの城で、ある鍵を見つけられたら、見つけた人間は一人だけ、何でも願いを一つかなえてもらえる」と言われ、

他にも事情有りげな中学生男女6人と一緒にその城で鍵を探しながら過ごす……という話です。

要は、『ナルニア国物語』みたいな感じです。『ナルニア国物語』みたいというのは私が言い出したのではなく、小説の中でもネタみたいに触れられています。

『ナルニア国物語』を思い出した。

家のクローゼットが別の世界への入口になる、有名なあのファンタジー。憧れないわけがない。

p.38より

このシーンははじめて鏡経由で城に行ったけどビビって戻ってきちゃった夜の、"こころ"の心の声です。全体で554ページある中で超序盤のシーン。

私も子どもの頃にここではないどこかに行くという話は好きだったので、あえて『ナルニア国物語』という名作を引っ張ってくるあたり、序盤も序盤でのこのたとえは、否が応でも期待値が上がりました。

期待値が上がっていいことはあまりないのだけれど、『ナルニア国物語』とは物語の方向性は違うものの、その期待値を超える楽しさを得られたのだから、まあ、面白かったわけです。

何が面白いか

だいたい10数ページに一回ぐらいは声に出して「やばい、面白い」と言っていて、後半1/3は「うわー、面白い」とずっと言ってて、思わずTwitterに投稿しちゃったぐらいなんですが、

私にとって何が面白かったかというと、大きくは、①中学生男女7人のそれぞれのキャラクターがまさにあるあるな感じで深堀りされているところと、②主人公の"こころ"が孤城での他の子どもとの交流を通じてリアルでの人間関係を徐々に徐々に変えていくところと、③膨大な伏線の回収と、そんな感じでした。

①は多少思わせぶりなところがあるんですが、中学生男女7人がそれぞれ事情を抱えているんですね。で、中にはいじめに遭っている子もいて、主人公の"こころ"が受けたものは、本当にあるあるな仲間はずれ。

私も小学生の頃にいじめに遭ったというのはこれまで何度か書いてきた通りで、聲の形を読んだときと同じぐらい、"こころ"が受けた体験はリアルに想像ができました。 

いじめた側がいじめられる『聲の形』 - 斗比主閲子の姑日記

私は共感力が低いので、共感はしないけれど、リアリティには下手にうるさくなっちゃっているにも関わらず、『かがみの孤城』での描写は、"こころ"の心理描写含めて、まったく違和感がありませんでした。そういう意味では、まだまだいじめに思うところがある人や共感力が強すぎる人にはキツい描写があるはずです。注意。

②は、作品自体がざっと1年間の物語で、城の中とリアルとが交互に展開していく作りなんですけど、強烈な解決が一気になされるというのではなくて、城とリアルでの生活が、それぞれが相互に影響しあって、一進一退と思いきや少しずつ変化していくのを丁寧に描いているのが良かった。

③は、最初から最後までずっと伏線だらけなので、ミステリー好きな人は楽しめるはず。「あれ?」と思ったところは後ですべて回収されていくので、とても気持ちが良い。

子どもと一緒に読みたい願望が刺激された

この作品を読んでいて何回か泣いたわけですが、泣きながら思ったのは、この私の感情を子どもたちに伝えたいなということです。私の子どもたちに読んでもらって、どう思ったかを一緒に語り合いたくなった。

さすがに私もアラフォーで、中学生の頃の数十年前の感覚を今でも自分が持てているとは思っていませんが、中学生の男女7名の、それぞれが抱えた事情や課題感というのは、直感的にすべて、ほんとうにすべて、納得感があるものでした。

その意味で、「自分が同じ状況だったらどうする?」「この登場人物の発言はちょっとキツいよね」「私も同じようなこと経験したことあるよ」みたいに、作中の中学生の子どもたち視点に立って、まさにこの作中の子どもたちと近い世代の我が子と内容をシェアできたら何て楽しいのだろうと思ってしまったわけです。親子が繊細なトピックについて語り合う下地つくりになってくれる作品だと思ったと。

うちの子どもたちはタイトルを見てちょっと興味を持った感じでしたが今のところは読んではいないので、別に強制するつもりもないしできません。ただ、いつか何かあって子どもが読んで、子どもが何か私と話したいと思ってくれたら、よく話を聞いて、私の子どもの頃のエピソードも共有しながらお喋りできたらいいなと思いました。作品のテーマにも共通する。

この部分は、未見の人は読まれてからだと理解しやすいかもです。

締め

ある意味、今流行りの異世界転生みたいな側面もあって、「もし今の私が孤城に飛ばされたら、長い仕事人生で身につけてしまった『初対面の人とも、共通点を一気に把握して適切な距離感でコミュニケーションを行う』力によって、たぶん、1日ぐらいで鍵は見つけられるだろうな」と夢想なんかもしました。

それなりに社会人の仮面を被って仕事をしているフリをしている私が、こんな異世界転生無双を夢想しているぐらいなのだから、本当に楽しかったということがうかがえます。

これで、『鍵のない夢を見る』と合わせて二回連続で面白かったので、辻村深月さんの他の作品も読むつもりです。楽しみ。

そういえば、ここまで書いて思い出したんですが、うちの子どもは、辻村深月さんのドラえもんの小説は読んでました。「映画とほとんどおんなじだったよ」という感想だけだった。

小説「映画 ドラえもん のび太の月面探査記」

小説「映画 ドラえもん のび太の月面探査記」

 

以前に、漫画から小説、ゲームから小説というルートも、本を読むというのに結構ありじゃないかと紹介しましたけど、辻村深月さんのディーブな世界観に子どもを引きずり込ませるために、子どもがドラえもん好きなら、この『月面探査記』のをさり気なく紹介するのはいいんじゃないでしょうか。

絵本・漫画読みの子どもの次のスモールステップとしての児童文庫(ジュニア空想科学読本、星のカービィ、若おかみは小学生、IQ探偵ムーなどなど) - 斗比主閲子の姑日記

以上、『かがみの孤城』のレビューでした。

あー、楽しい時間だった。紹介してくれた方、そして、辻村深月さんには感謝。