斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読み聞かせして、質問攻めに会う

日本では読み聞かせというと、おおよそ未就学児向けに行われることが多いですが、我が家では小学校に入っても読み聞かせは続けていました。

読み聞かせで読んだ本は、ハリー・ポッターシリーズが私が不愉快だったということでよく覚えていますが(主人公のために事件が起こる展開が苦痛)、それ以外に印象的だったのは、イギリス在住の作家ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』があります。何が印象的かというと、子どもから質問攻めされたからです。

※無料お試し版が太っ腹で、1/3まで読めます。ぜひご家庭で試してみてください。質問攻めに会うはず

このブログでも紹介したことがありますが、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、元底辺中学校に子どもが通うことになった親目線で書かれた、子どもの成長物語兼イギリス社会の観察記です。ブレイディみかこさんの歯に衣着せぬ物言いがめちゃくちゃ楽しくて、超お勧めの作品。

具体的にどんなところで質問攻めに会うかというと、冒頭の概要紹介で以下太字にしたところは普通に質問されました。

彼はカトリックの中学校に進学せず、「元底辺中学校」に入学したからである。

そこはもはや、緑に囲まれたピーター・ラビットが出てきそうな上品なミドルクラスの学校ではなく、殺伐とした英国社会を反映するリアルな学校だった。いじめもレイシズムも喧嘩もあるし、眉毛のないコワモテのお兄ちゃんやケバい化粧で場末のバーのママみたいになったお姉ちゃんたちもいる。

これは11歳の子どもにとっては大きな変化だ。大丈夫なのだろうかと心配になった。

ようやくわたしの出る幕がきたのだと思った。

とはいえ、まるで社会の分断を写したような事件について聞かされるたび、差別や格差で複雑化したトリッキーな友人関係について相談されるたび、わたしは彼の悩みについて何の答えも持っていないことに気づかされるのだった。

「底辺中学ってどういうところ?」「ミドルクラスって?」「レイシズムって?」「場末のバーのママって?」「社会の分断を写すってどういう意味?」「トリッキーって?」と質問されるわけですね。

これらの単語・概念は、日本の公教育では普通には習いませんから、読み聞かせで聞いている子どもからすると、めちゃくちゃ頭にはてなマークが浮かぶわけです。言葉遣い自体は平易で、文脈から単語の意味は予想はつくけれど、さすがにこれだけ知らない単語が並ぶともう少し手がかりが欲しくなるみたい。

私は別に多読をしてほしくて読み聞かせをしていたわけではないので、質問を受ける度に、時には一緒に考えながら言葉の意味を教えるのは苦痛ではなかったんですが、単に言葉の意味を教えても理解できない単語・概念が多いのは少し骨が折れました。

例えば、「場末のバーのママ」ってどう説明しますか? 小学生に言葉で説明するのはなかなか難易度が高くないですか?? 「繁華街の外れたところにある、もっぱら中年男性が顧客のお酒が飲めるお店で働いている、頭にパーマがかかっていることが多く、化粧が濃い目の中年女性」と仮にスラスラと言えたとして、子どもの頭の中にはまた違う疑問が湧いてくるのは容易に想像ができます。

ミドルクラスや、レイシズムもなかなかに難しい。子ども自身が見聞き、認知することがなかなか難しい概念だから、言葉を説明するだけでなく、子どもの周囲の友人の家庭環境や出生なんかも例に出さないと、腹落ちしにくいところがある。そして、そこに踏み込んでいいのかというのは、かなり躊躇するところもありました。

深く考えずに、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は子ども向けの本ではないと読むのを断念すれば良かっただけですが、我が家の子どもの食いつきがめちゃくちゃ良かったんですよね。たぶん、ちょっと背伸びできる感じがちょうど良かったのかもしれない。

親としても、同じイギリスを舞台にした『ハリーポッターシリーズ』での、決して仲が良かったわけではない妹の息子を、まともな説明も金銭的なフォローもなしに大きくなるまで世話をしたダーズリー家に対する毎度毎度の酷い仕打ちを読まされるのと比べたら、イギリスの階級社会や差別構造を真っ向から取り上げて、必ずしもスカッとするわけではない『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で質問攻めに会う方がよほど楽しかったというのもあります。

(最終的に、ハリーポッターは『呪いの子』まで読み聞かせをしました。苦しかった)

各家庭の方針は色々でしょうが、読み聞かせのプロセスで日本社会を相対的に分析して会話をする良い機会にもなったりるので、ぜひ皆さんのご家庭でも試しに読み聞かせしてみてください。

今日はこんなところです。ではでは!

※帰省して日本で差別を受けるシーンが何度も登場するのがとても良い(親子の会話の題材として)