前回の記事では、電子書籍の執筆に焦点を当てました。今回の記事では、価格設定、PR方法、Amazonのランキングと販売冊数の関係等を書いていきます。個人で試行錯誤したことで様々な知見を得られました。前回よりかなり数字に寄った話であり、電子書籍市場が好きな人にはお役に立てる部分があるのではないでしょうか。
なお、今回もそれなりの分量になったため、ちょっとした小ネタ、裏話的なものは次回におまけとして紹介します。
※購入いただいた方には感謝。未読の方はぜひ。
- 20日で2000冊のまとめ
- 価格設定方針 ~お得感をどう演出するか~
- 価格設定の具体的な裏側 ~最初に購入した人ほどお手頃価格で提供~
- PR方法 ~基本的には自分のブログとTwitterで~
- Amazonの電子書籍販売ランキングと販売冊数の関係 ~本当はKADOKAWAセールが一番怖い~
- 販売単価別内訳 ~99円:250円=2:1~
- Kindleオーナーライブラリー経由 ~2万ページ、100冊超~
- 購入経路別内訳 ~ファン、他ブログ、ランキング~
- 購入経路別対策 ~献本、Amazonのレビュー依頼~
- 余談: Amazonレビューの裏側
- 締め
20日で2000冊のまとめ
12/23に発売して1/11でちょうど20日間になりますが、ここまでで合計2000冊以上売れています。最初の1週間で1000冊売れた後もそれなりに順調だったということです。
この点について、なぜこのような販売冊数になったのか、価格面、PR面から整理するとこんな感じです。
- 最初の1週間は99円で販売し、ブログやTwitterなどの既存の読者が買ってくれたことでランキングの上位に入った
- ランキングの上位に入ったことで購入してくれた人がいた
- 12/30に誤字脱字を大幅に修正した改訂版を発売し、売上が盛り返した
- 1/1の価格改定後は売上は落ち込んだが、他ブログで紹介されたことによる特需があった
- 以降は特需も落ち着き50冊ぐらいに
こんなところでしょうか。たった20日間でもドラマがありますね。
今後は何か特殊なブーストでもない限り大きく売れることはないでしょう。20日で2000冊とはいっても、3000冊になるのは発売から3ヶ月後ぐらいだと思います。
価格設定方針 ~お得感をどう演出するか~
この20日間のうち、発売から10日経った1/1に価格は99円から250円に改訂しています。ここら辺の背景を書いてみます。
まず、値付けに関する基本方針はこちらです。
- 最初に買ってもらった人ほどリスクを取るのだから安く提供する
- 値上げをすることはあっても値下げはしない
- 値上げは誤字脱字を反映した改訂版を出してから
- 価格はKindleのロイヤリティを考慮する
とにかく、購入者にどうお得感を抱いていただくかを念頭に置いていました。
価格設定の具体的な裏側 ~最初に購入した人ほどお手頃価格で提供~
この4つの方針についてもう少し具体的に説明します。
まず、1について。最初に購入してくれる人は、まだ評価が定着していないものを購入されるわけです。また、電子書籍を購入したことがない方もいらっしゃるでしょう。従って、購入しても損をした気持ちが出ないようワンコイン感覚の99円で売り出しています。99円はKindleの最低価格です。これより下は今のところ無料にしか設定できません。
2について。発売後値下げをしない理由は自分がそういう商品が好きではないからでした。自分が買った商品が後から値引きされると、何か損した気になるじゃないですか。ただ、この方針については「今日だけ500円が250円の50%OFF!」みたいな特別セールを打てないと同義ですので、他の人にはお勧めしません。自分も次があるならこの方針は踏襲しないでしょう。個人の電子書籍だからこそ柔軟に変更できるのに、やれることが減ってつまらなくなる。
3について。値上げをしたのは、誤字脱字等の修正を反映した大規模改訂版を出した後にしています。品質が変わらないのに値段が上がるのはちょっとなぁと考えていました。これも個人による電子書籍の出版だからこそできる取り組みだと思います。頻繁に改訂版を出せる。
4について。AmazonのKindleでは基本のロイヤリティの料率が35%です。これが、日本の場合は後述のある条件下において価格を250円以上に設定するとざっくり70%になります。つまり、99円ならば一冊約35円、250円なら約170円が著者の手元に入ります。(id:kobeni_08さんへ)
Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング: Amazon の Kindle ストアでの電子出版に関するヘルプ
価格設定というのは、一般に需要面と供給面(コスト)を検討するものです。
需要面については、99円で販売していた時に「このボリュームでこの値段は安い」という声があり、また分量は大体700円で売られている新書の半分はあったため、250円にしても問題がないと考えました。
供給面については、id:steinさんと表紙を描いた人と収益を山分けする予定であったため、全員が労力に見合った十分なお金を手にとれるよう、ロイヤリティの料率が高い価格帯にしました。
PR方法 ~基本的には自分のブログとTwitterで~
コンテンツ、値付けと来て、次に重要なPRについて。これは、大したことはしていません。基本的には自分のブログとTwitterです。
まず、読者に存在を知ってもらうために、どんな本を出すか執筆初期の10月初旬にこのブログで宣伝しました。
その後は2ヶ月間ブログとTwitterで定期的に宣伝し続け、発売日当日にこの記事を投稿しました。
それ以外は大きな仕込みはしていません。この方法でも発売初日の12/23にKindleの有料本ランキングで最高7位になっていました。初日に購入された方が多くいらっしゃったようです。ありがたいことです。
ただ、その後は、
- ブログで紹介してもらう
- フォロワー数が多い人がTwitterで好意的な感想をtweetする
というアクションでも販売冊数は確実に増えていました。
従いまして、もしこれから電子書籍を売られる方がいらっしゃるなら自分で宣伝する以外に、他の人に宣伝してもらうようお願いするのは重要だと思います。やはり、著者本人がアプローチできる層には限界があります。知られなければ買われることもありません。詳しくは後述します。
Amazonの電子書籍販売ランキングと販売冊数の関係 ~本当はKADOKAWAセールが一番怖い~
こういった価格設定やPRをして2000冊が売れるのを眺めながら、横目でAmazonの電子書籍の販売ランキングでどれくらいの順位になるか見ていました。果たして、ランキングの10位以内、100位以内でどれだけ売れているものなのか。
Amazon.co.jp 売れ筋ランキング: Kindleストア の中で最も人気のある商品です
この情報はあまり見かけないので結構貴重だと思います。なお、公開してもAmazonとしては問題ないようです。
【朗報】Kindle作家さん、売上や販売部数はドンドン公開していってOKなんだって! - きんどう
では早速、ランキングと販売冊数の関係です。自分の本の販売冊数とKindleの有料本ランキング/毎時を見比べてみた感じでは、
- ランキングの5位以内の販売冊数は500冊以上/一日ぐらい
- 10位以内は200冊以上/一日ぐらい
- 20位以内は100冊以上/一日ぐらい
- 30位以内は50冊以上/一日ぐらい
- 100位以内は15冊以上/一日ぐらい
といったところです。1だけは推定です。300冊ぐらいで自分は7位だったので。また、ランキングは毎時ですが、毎時の販売冊数情報は著者には入手できないため、ざっくり一日でどれくらい売れたかとなります。
こう見るとAmazonの電子書籍の市場規模は非常に小さい印象を受けます。中小企業でも社長が出した自伝本を社員が総動員で買えばランキングにすぐに入ります。
個人がこのランキングの上位に載りたければ意識すべきなのは、大手出版社のセールです。特にKADOKAWAですね。KADOKAWAは電子書籍にかなり力を入れていて定期的にセールをします。セール価格になった商業本と個人の電子書籍では勝負になりません。上位にはセール本が並びます。
ですから、ランキングの上位に掲載されることで認知されることを狙うならば、大手の出版社がセールをしていない時期に発売するのがお薦めです。自分はぴったり一致しちゃっていました。
販売単価別内訳 ~99円:250円=2:1~
ここから先はもう少し細かな数字の話です。まず、販売単価別内訳。
この20日間で正確には約2100冊売れました。金額別の内訳はこちらです。
- 99円で売れた冊数 1345冊
- 250円で売れた冊数 755冊
価格を99円から250円の約2.5倍にしても、99円の時の二分の一は売れていますから、売上は250円の時のほうが大きいです。ちょうど販売期間はそれぞれ10日間ぐらい。
返品は99円の時で26冊(全体の2%)、250円の時で9冊(全体の1%)です。返品率が99円の時のほうが高いのは、この頃ランキングの上位にあったため誤って購入された方がいたからだと推測しています。なお、ご存じない方も多いでしょうがAmazonでは電子書籍の返品を受け付けています。
Amazon.co.jp ヘルプ: Kindleコンテンツについて
Kindleストアでご購入いただいたKindle本については、購入間違いなどの場合、注文日から7日以内に限り、Amazonの裁量にて返金を承っております。
Kindleオーナーライブラリー経由 ~2万ページ、100冊超~
これ以外に、Kindleオーナーライブラリー経由で2万ページぐらい読まれました。オーナーライブラリー上では197ページというページ数の扱いになるため、上記の通常の販売数2100冊に加えて100冊ぐらいの購入が実質的にあったと考えてもいいかもしれません。
Kindleオーナーライブラリーというのは、Amazonプライム(年間3900円払うと配達が早くなったり、動画が見れたりするもの)の利用者が1ヶ月に1冊本を読める(正確には借りられる)というもので、私の電子書籍はこのオーナーライブラリー経由で読めるようになっています。
「オーナーライブラリーで読める=無料で読める」ということから、私に販売ロイヤリティが払われないのではないかと懸念された方が4名いらっしゃいました(id:kun-maaさんへ)。そういうことではなく、読まれたページ数によって著者にはいくらかの支払いがされます。
オーナーライブラリーでの購読やそれによるロイヤリティ収入については事前には何も知りませんでした。ただ、今回Amazon以外で売ることを考えていなかったため、気軽に今回発売した電子書籍をKDPセレクトに登録したところ、オーナーライブラリーで購読できるようになっていました。
Amazon KDP セレクト: KDP セレクトに登録して Amazon Kindle ストアの本の販売促進を
KDPセレクトとは、登録期間中はAmazon以外の媒体で電子書籍を販売できない代わりに、無料キャンペーンが打てたり、販売ロイヤリティが(販売価格を250円以上にした時に)70%にできたりするというものです。
Kindleオーナーライブラリー経由だと、通常の電子書籍での販売と異なり、読まれたページの総数が著者は分かります。本が実際に読まれていることが分かるのは著者としては嬉しいことですし、支払いもされますし、面白い仕組みだと思います。
購入経路別内訳 ~ファン、他ブログ、ランキング~
ということで販売冊数を20日で合計2200冊とみなしてここからは話を進めます。購入経路はどう分けられるか。
自分のブログの固定読者数が1000人ぐらい、Twitterのフォロワーが2500人ぐらいですから、以前からの自分のファン?みたいな方による購入数は最大1000冊ぐらいかなと見積もっています。少なくて500冊ぐらいでしょうか。
また、エゴサーチをしていたところ、とあるブログで紹介されたことで(詳しくはご迷惑がかかるので公開できませんが)かなり売れたことを確認しました。この方以外にこの20日間の間で3名の方がブログで紹介されていました。ブラックボックスが多いですが、他のブログ等を経由しての販売冊数をざっくりと400冊としましょう。
そうすると、この2つ以外の経路でのAmazonのランキングページでの販売冊数がある程度ですが逆算でき、購入経路別の内訳がこのように推定できます。
- 自身の固定読者による購入数 500~1000冊
- 他のブログやTwitterの紹介経由での購入 400冊
- ランキング経由での購入数 800~1300冊
このことから言えることは、
- 本を出したら買ってくれる固定ファンをいかに確保するか、購入する気になるものを提供できるか
- 他のブログやTwitterでどれだけ紹介してもらうか
- 電子書籍の媒体のランキングに載り続けて、購買行動に繋げるか
が、販売冊数を増やす上でのポイントだということです。なお、商業本の場合は、出版社が様々なキャンペーンを張ってくれるでしょうから、この1~3すべてで良い効果があると考えられます。
購入経路別対策 ~献本、Amazonのレビュー依頼~
1のファン向けの対処について。これは特に言うことはありません。各著者がそれぞれ考えることでしょう。自分の場合は、イラストを多めにしたり、誤字脱字を発見すると特典のQ&Aをお送りするというツッコミ特典を用意したりしました。
2の他の人にどう紹介してもらうかについて。これは紙の本と同じで、影響力がありそうな人に献本をしたり、twitterでの好意的な感想をRTするのが効果的だと思います。自分はそこをあまり意識しておらず、ほとんどしていませんでした。まさか、自分のブログの読者以外の人が買われるとは思っていなかったので。
なお、仮に献本をしたくてもAmazonの電子書籍は献本の仕組みはありません。やるとすれば電子書籍の元のmobiファイルを送付するぐらいです。それなら電子書籍の購入費用をレビューして欲しい人に配る方が現実的かもしれません。どちらにしてもスマートなやり方じゃないですね。
3のランキング対策について。これは先ほど紹介したように大手出版社の電子書籍のセールが展開されない時期を狙うというのと、Amazonのレビューを読み手に書いてもらうというのがあります。やはり、レビューがあると読者の声として購入の参考になりますから。
なお、お金を払ったり、インセンティブを設定するのでなければ、読んでくれた人にレビューを依頼すること自体はAmazonの規約違反ではありません。積極的に読者にレビューを依頼していいんじゃないでしょうか。紙の本でもお願いされてる作家さんはかなりいらっしゃいます。実際、こうでもしないとレビューはつかないようです。
余談: Amazonレビューの裏側
自分はレビュー対策を何もせず「誰かレビューされないかなー」と楽しみにしていたら、12/24付の最初のレビューがこちらでした。
Amazon.co.jp: ぼーっとしている人が「自分の人生と向き合う」ためのQ&A30の Amazon カスタマーさんのレビュー
はてなにちはー。
我々は普段「はてな」と呼ばれる人類の無意識が集まる混沌の中で暮らしている、集合的無意識です。
今日はその我々を構成する一増田(増田というのが我々の一人称である)であり、集合的無意識の中にありながら固有の自我に目覚めた「斗比主閲子」の書籍が販売されたときき、はてなの外では五分と持たない体を引きずりながら、Amazonアカウントを取得し、この書籍を購入した。(以下省略。合計1000字ぐらい)
匿名のレビューでしたが誰が書いたかはすぐに分かりました。id:aukusoeさんです。id:aukusoeさんとは以前から色々とやり取りしていたので悪意はないのは分かっていたのですが、「これだけが唯一のレビューになると色々ヤバい!」と危機感を覚え、ツッコミ特典に応募された方数名に「忌憚なくレビューしてほしい!」とお願いしたという経緯があります。結果的にそれを受けて2名ぐらいの方にレビューを書いていただけたようです。
なお、今回ツッコミ特典の2つ目を、
訳ありQ&Aその2.「セックスの後のホワイトボードでの感想戦は具体的にどのようにやればいいでしょうか?」
としたのは、12/20のid:aukusoeさんのこのブックマークコメントを受けたものです。
はてなユーザーとオフパコしてきた
セックスの感想戦も大事ですが、爪の件は早めに伝えないと怪我しそうで怖いな。/あとこの文化をはてなに啓蒙したトピシュさんはKindle本にセックスの感想戦のススメも書いてください。
2015/12/20 19:42
本の中身はこの時点ではほぼ固まっていたので、今更内容の変更をするわけにいかず特典としました。現時点でツッコミ特典に応募された方のうち24名にのみこの特典Q&Aはお送りしましたが、涙を流して喜ばれた方もいらっしゃったようで、書いてよかったです。
ちなみに、id:aukusoeさんには以前こんな記事を書いてもらいました。
あのはてな村民にオススメする一本「topisyuさん」編 - あの人だけにオススメするXboxのゲーム
ホワイトボードセックス魔人、との異名を誇るトピシュさん。
そのセックスさえもロジカルに分析する理路整然とした思考は一見するとクールなイメージかもしれません。
そんな異名を誇ってないよ!でも、「あつまれ! ピニャータ」は面白かったよ!!
締め
ということで、今回は主に数字面に着目して、自分が得られた知見やノウハウを書いてみました。
執筆してから出版するまでもかなり面白かったですけど、この20日間はこれはこれで自分が思ってもいないような反応があり、書いてよかったと心から思いました。購入いただいた方、ツッコミ特典に応募いただいた方、ブログやTwitterで紹介頂いた方には改めまして御礼申し上げます。
まだ読まれておらず、ぼーっとしている人はぜひこの機会に手にとって頂けると嬉しいです。
なお、今回も長くなりすぎてしまったため、最初に申し上げたとおり、小ネタ、裏話は次回の恐らく最終回で紹介します。加えて、ツッコミ特典に応募された方のうち公開の許可を得たプロの校正の方による誤字脱字のご指摘も紹介します。マニアックな人は楽しみにしてください。