斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

PTAはヤバい先生をクビにする圧力団体ではないし、あってはならない

PTAは、ヤバい先生の人事に口出しする圧力団体として存在意義があるというTweetが話題になっていました。

妻側のTweetはこちらで、

夫側のはてなブックマークコメントはこちら。

PTAのあり方は変わるべきだと思うけれど、無くしてしまうと有事に徒党を組めないので安易に廃止すべきではないという話

これ妻なんですが、PTAがないと何かあった時が大変です。労働組合と一緒でまさかのときの圧力団体は必要です。 いなみにやばい先生は本当にヤバかったです。

2024/03/03 10:44

b.hatena.ne.jp

大切な子どもを通わせている学校で、ヤバい担任に当たったからどうにか対処をしたい、そのためにPTAを圧力団体として使いたいという考え方は、一定程度は理解できます。

ただ、PTAは学校の人事に圧力を掛ける団体ではありません。大抵のPTAは規約上許していないし、過去からの歴史としてもそうあってはならないとされています。

私はPTA省エネ派として、10年ぐらい前からPTAの記事を書いてきましたが、学校人事に介入するPTAのヤバさについては書いてなかったので、この機会に触れておきます。

PTA規約には「学校人事に干渉しない」と書いてある

PTAの規約に詳しい人なら、PTAの規約には大抵学校人事に干渉しないと書いてあるのはご存知だと思います。以下は例。

渋谷区立中幡小学校のPTA規約

横 浜市立矢部小学校PTA規約

枚方市立香里小学校PTA

日本のPTAをフラットに繋げるという目的で2023年1月に設立された、一般社団法人全国PTA連絡協議会が、「PTA規約も時代に合わせたアップデートが必要」として紹介しているPTAの規約の雛形でも、学校人事に干渉しないというのはしっかり書かれているぐらいです。新しい、リベラルなPTA団体でも重要視しているってこと。

PTA規約/会則のアップデート|一般社団法人 全国PTA連絡協議会

PTA活動を取り巻く環境は大きく変化しています。PTA規約も時代にあわせたアップデートが必要です!

方針

  • 学校の人事や管理には干渉しない。
  • 学校とPTAは相互に干渉することなく尊重しあう。
  • 教育問題について研究協議するが、学校の管理や教職員の人事には干渉しない。
  • 校長・教員及び教育委員会の委員と学校問題を討議し、またその活動を助長するために意見を具申し、参考資料を提供するが、学校の管理や教員の人事に干渉しない。

そんなわけで、大抵のPTAで、PTA役員・会員が学校人事に介入すれば、その役員・会員は規約違反をしている状態になります。別に規約違反をしても罰則はないですけどね。

「学校人事に口出しできないPTAは存在意義があるのか?」と思うかもしれませんが、PTAが圧力団体として機能していたことはあります。悪い例として。

PTAが圧力団体として学校人事に口出していた歴史

PTAの歴史に詳しい人は、もともとPTAが学校寄付団体の性質があったことをご存知だと思います。学校に寄付をする学校後援会が母体になったPTAが多くあり、戦後の物不足もあり、PTAが学校の必要なものの費用を支払っていました。

学校教育費が公費として充実してきたことで、この学校寄付団体の性質は薄れ、同時にPTAの存在意義が議論されるようになりました。存在意義が薄れたPTAがやっていたことはいくつかありますが、そのうちの一つに、学校の運営・人事に口出しするというものがありました。

別に私が勝手に言っているのではありません。あの日PがPTAの歴史の中でわざわざ紹介しているのです。

【第1節 社会教育団体としての活動】社会教育団体としての活動 | 日本PTA全国協議会

PTA 廃止論の一つに兵庫県教組によるPTA解散・改組論がある。

昭和44年(1969)10月31日付けの機関誌日本PTAにそれが掲載されているが、これによると、PTA の現状での問題点として、

  • 学級での父母と教師の話し合いが実質的になされていない、
  • 各段階での連合体が文部省・教育委員会と癒着し、教育行政機関化している、
  • 地域ボス役員がPTAの後援会的性格を温存させ、力を保っている、
  • 一部ボスや有力者が人事を含め学校の運営に口出し干渉するほか、進学中心の 間違った教育要求をしている、
  • 地域社会の教育環境作りに立ち上がらない、
  • 父母の教育への願いを政治に反映させる事ができない、

とPTA六つの欠陥として批判し、新たな「父母と教師の会」の設立を訴えている。

※太字はtopisyu

こんな役割をするならPTAは解散したほうがいいという例として、PTAが学校人事に口出しをするというのが挙げられているわけです。

PTAは学校と"協力"する任意団体

今回紹介した夫婦以外にも、「PTAは労働組合のように組織して、学校と対峙する組織だ!」と考えている人は散見しました。例えば、自民党の地方議員さんとか。

私は労働組合の幹部も、PTAの役員も経験しましたが、正直言って組織の成り立ちも位置づけもまったく異なるのに、なんでこの二つの組織を混同しようとする人がいるのかはさっぱり意味が分かりません。

確かに労働組合もPTAも任意団体です。

労働組合は、憲法第28条で、「勤労者の団結する権利および団体交渉その他団体行動をする権利は、これを保障する。」とあるように、労働者の権利として組織することが保障されています。

でも、PTAは特に何の法律でも担保されていません。せいぜい、PTAで共済事業ができるように制定された、2010年のPTA・青少年教育団体共済法に定義が書いてあるぐらいです。

圧力団体としてのPTAを立ち上げることは理論上は可能です。PTAは任意団体ですから、数人の保護者が集まって、「学校人事に圧力を掛けるPTAを設立する!」と規約とかを整備すれば簡単に設立できます。

ただ、そのPTAは今のPTAとはまったく別のものになるはずです。

まず、先生は加入しないでしょう。自分たちの人事に口出しをする外部団体に普通は入らない。だから、PTAじゃなく、PAになる。

さらに、今のPTAのように特権的に学校に住所を置かせてもらうことも、学校の施設を利用したりすることも認めてもらえないでしょう。既存のPTAが学校施設を利用できるのは、学校施設の確保に関する政令の第3条で書かれているように、校長の同意を得ているからです。普通に考えて、学校圧力団体を明示している組織に、学校施設の利用は許可しないでしょう。

学校施設の確保に関する政令 | e-Gov法令検索

第三条 学校施設は、学校が学校教育の目的に使用する場合を除く外、使用してはならない。但し、左の各号の一に該当する場合は、この限りでない。

一 法律又は法律に基く命令の規定に基いて使用する場合
二 管理者又は学校の長の同意を得て使用する場合

既存のPTAに、Teacher(先生)が在籍し、学校設備を利用できているのはPTAが学校の協力団体だからです。

PTAでは学校人事に口出しはできない。保護者が徒党を組むことはできる

だから、既存のPTAを利用して、学校人事に圧力を掛けることはできません。

もしできることがあるとすれば、「〇学年では指導力が不足している先生がいると複数のPTA会員から声が上がっている。学校側としても適切な指導を検討いただきたい」といった程度のことを、PTAの役員会や運営委員会で校長や副校長に伝えるぐらいでしょう。

私はPTA役員を経験しましたが、ヤバい先生への対処はPTA経由ではなく、クラスの親で徒党を組んで対応していました。保護者会で直接先生に釘を刺し、授業見学で校長を見かけたら、「〇〇先生の指導力はちょっと厳しい。〇月〇日にこんなことがあった」と離婚の証拠資料のように、やらかし事例をまとめて手渡ししたりしていました。「この先生は折り合いが悪く、学校に通うこと自体を子どもが拒否しているので、可能であれば来年は我が子の担任から変えて欲しい」と副校長に伝えたこともあります。

ただ、ヤバい先生に圧力を掛けることよりも意識していたことがあります。病む先生や退職する先生をできるだけ減らすことです。

成り手が減り、欠員が増え、精神疾患で休職も過去最多

今の公立小学校に子どもを通わせている親なら、専任教員も含めればヤバい先生に当たったことがない人はいないでしょう。同時に、先生が急に退職したり、病気になったりすることも経験しているはずです。

私はどちらも同じ背景があると考えています。教員の労働環境が劣悪だということです。

皆さんご存じの通り、公立教員の採用倍率は過去最低を続けていて、

今年度の公立教員採用倍率3.4倍と過去最低 小学校は5年連続で | NHK | 教育

精神疾患で休職する公立教員は過去最多で、

精神疾患で休職の公立学校教員 過去最多 初の6000人超 20代が高い増加率 要因は? 教員不足 サポートが課題 | NHK | 教育

小中学校の2割で教員が不足しています。

小中学校の2割で「教員不足」 過度な負担も 教頭・副校長調査 | 毎日新聞

だから、「学校に圧力を掛けてヤバい先生を異動させよう!」と頑張ったところで、その先生は他の学校で教鞭を持つだけですし、代わりに来る先生がヤバい先生でない保障はありません。

一方で、PTAや保護者が頑張って、良い先生の負担を減らすようにして、退職や病気での休職を防ぐことが出来れば、その先生は少なくとも数年は同じ学校で定着してくれる可能性があります。

例えば次のようなことが考えられます。

  • 学校を早く開けなくても良いよう、PTAとして学校と協力して保護者に連絡する
  • 出欠席連絡は電話ではなく、電子的な方法で行う(ことを学校に働きかける)
  • 行事の準備をPTAとして手伝う(PTAの基本だけど、範囲を広げる)
  • 先生も関わるPTAの仕事は先生の参加は任意であることを徹底し、省エネ化する
  • 先生が配布するプリントを電子化して、PTA会員に配布する

こういうのは学校協力団体であるPTAだからこそできることです。

個人としては、良い先生には保護者会や保護者面談や学校見学の時に、「先生のおかげで子どもが楽しく学校に通えています!」「授業の仕方、工夫されていますね!」「ずっとこの学校に居てください!」と、直球でポジティブなフィードバックをしていました。旅行で学校を休む時も、「個人の事情で休みますが、学校に問題があるわけではないですから!」とフォローしたりもしました。

先生って保護者からポジティブなフィードバックを受ける機会があまりないようで、大抵喜ばれました。

締め

公立の小中学校の労働環境が劣悪なのは周知の事実です。子どものためを思って学校圧力団体のようにPTAを活用するのが当たり前になったら、地獄がもっと地獄になるはずです。

私は所属したPTAをだいぶ改革しましたが、基本的に、「先生と保護者が無駄なことをやめて、リソースを子どものために充てること」を意識していたので、PTAを変えることを極端に嫌がる人々を説得できたと思います。

PTAを圧力団体として利用するのではなく、学校と協力して教員の負担を軽減する形で活用するのが、時代に合ったPTAの利用方法だと私は考えています。

※コロナ禍で苦労したPTAは多いと思うけど、代わりにだいぶ省エネ化が進んだはず