斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

"担任教諭の学級運営や指導等の言動が…生徒に対するいじめを誘発し,助長した"茨城県取手市立中3年女子自殺の県による調査報告書

今年の3月13日にチェックしていた次の記事について、

中3自殺「いじめ要因」 茨城、来週にも報告書公表 :日本経済新聞

県による調査報告書が公表されていたので読んでみました。

取手市立中学校の生徒の自殺事案に係る調査結果/茨城県

この種の調査でもっとも重要である再発防止策は、今後、第三者委員会がまとめるということなので、それはそれで後で読むつもりです。

ちなみに、市の事案を県が調査しているのは、取手市の教育委員会が初動でやらかしたことによるものなので、調査報告書はその辺も考慮されていて、取手市の教育委員会への批判も含まれているのが興味深いものでした。

ここからは、内容に触れていきます。具体的な描写もあるので、体調が優れない人は読まないほうがいいかもです。

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※取手市は利根川を挟んで千葉県との境目にある、茨城県にある

まず、調査報告書の冒頭では、この件の特徴を、

1 本事案の特徴

本事案は,担任教諭の学級運営や指導等の言動が,クラス内の生徒の関係性に変化をもたらし,本件生徒に対するいじめを誘発し,助長した,という点に大きな特徴がある。行為者は生徒と教員という,全く別の主体であり,かつ,生徒と教員が意図するものは全く別のものであるが,客観的な事実経過の中では,両者は,いわば一体的に,補完し合いながら,本件生徒の心理に影響を与えていったとみることができる。

取手市立中学校の生徒の自殺事案に係る調査結果について(概要版)(p.1)

としています。

確かに、調査報告書を読むと、加害生徒の問題はあるにしても、担任がいじめが起こりやすく、かつ、被害者を追い詰める環境を作ったように見えました。

具体的には5つの事例が紹介されています。

一つ目は、

校則で禁止されている携帯電話を持ち込んだ生徒,写真に写っていた生徒,周囲で見て
いた生徒,というように,関わりの度合いに応じて指導を行うことが,学年教員内では確認されていたが,担任教諭は,周囲で見ていた本件生徒に対しても「同じように悪い」として指導し,Aが今後同じようなことを繰り返さないよう,様子をみてほしいと依頼した。

(同 p.5)

生徒への指導を連帯責任として他の生徒に監視させる。

二つ目は、

私立高校を第一志望とした場合,県立高校は併願できないと指導したことは,学校の取扱いとは異なった誤った指導であった。

私立高校の一校受験でよいかどうかは「今後の生活態度を見て決める」と言ったことにより,本件生徒と母親は,2学期は学校を休むことができないと考えるに至った。

(同 p.5)

受験について不適切な指導をし、いわゆる内申重視であることを伝えた。 

三つ目は、

本件生徒と本件生徒にいじめを行った生徒(A,F)が一緒に行動し,揃って担任教諭の授業に遅刻したことが数回あった。その際,担任教諭は遅刻した3名の生徒全員に教室の前に来るように指示したが,生徒A,Fは指示に従わず,指示に従った本件生徒のみに対してクラスの生徒の前で遅れた理由を言うよう叱責した。一度のみならず二度目以降も同様の指導をした。

(同 p.5) 

指示に従った被害者生徒のみを指導し、他の生徒は指導しない。 

四つ目は、

担任教諭は,指導困難な生徒に対する十分な指導を怠り,それを補完させる(「面倒を見る」)役割を担わせるために,本件生徒の座席を,指導困難な生徒の隣に固定化させた。

この座席は,最後列窓側であり,本件生徒の学習面での不利益があったのみならず,指導困難な生徒の「面倒を見る」役割を担わされたことによる心理的負担は大きいから,担任教諭による配慮が必要であったが,そのような配慮はなされなかった。

(同 p.6) 

指導が困難な生徒を、いじめ被害者生徒に面倒を見させるために席の固定をした。

そして、最後は、自殺の直接のきっかけになったもので、

本件生徒が自殺行為を行った 11 月 10 日,本件生徒は,生徒Aに誘われてFとともに,4階の音楽室の前に飾ってある絵を見に行った(前述のとおり,「いじめ関係性」の中の出来事と説明することが可能である。)。本件生徒は,一足先に3階の教室に戻ろうと階段を下りていたところ,音楽室前に残っていた生徒Aが「壁ドン」をしてガラスを割った。

 本件生徒は,ガラスが割れた現場にはいなかったため,その後複数の教員に対して,自分は関係のないことを訴えたが(生徒Aがいない場では複数の教員らにその旨訴えたが,Aがいる場では沈黙していた),本件生徒の訴えについて教員間で情報が共有されなかった。

担任教諭も,詳細な事実関係を把握しないまま,本件生徒にも連帯責任があるとして指導したほか,ガラスの弁償にも言及した。生徒Aは自分が弁償する旨答えたが,担任教諭はそれぞれの保護者に確認する旨述べた。

(同 p.6)

加害者生徒が行ったことを、被害者生徒が否定しているにも関わらず連帯責任として、事情を確認しなかった。

以上となります。

まあ、かなりヤバい担任の先生だとは分かるんですが、背景事情としては、

当時,学校全体として教員に対する反発などをする生徒への指導に大きな課題を抱えており,そのような陰で本件生徒の変化を十分に捉えられなかった。

 (同 p.5)

というものがあったようです。この辺は第三者委員会の調査報告書待ちですね。生徒に生徒を指導させているところや、生徒の事情を丁寧に聞くことがないところや、生徒の情報が各先生の間で共有されていないところからは、担任の指導力不足だけではなく、学校自体にキャパシティがなかったことが伺えます。

ちなみに、この調査報告書では、前述のやらかしの件で、事件が起きた後に教育委員会の調査が杜撰に行われたことに関連して、

(3) スクールカウンセラーのカウンセリング情報の取扱い

スクールカウンセラーは,生徒に対し,自身に守秘義務があることを伝えて話を聴いたが,面談時に生徒が話した内容について,生徒の同意を得ることなく,教員や市教委の職員との間で情報を共有していた。

(同 p.7) 

こんなことも触れられています。要は、スクールカウンセラーが情報を横流ししたということですね。これも相当にヤバい。

いじめが起きにくい環境があるように、いじめが起きやすい環境があるというのは、荻上チキさんが本でまとめられていますが、

いじめを生む教室 子どもを守るために知っておきたいデータと知識 (PHP新書)

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  • 作者: 荻上チキ
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: Kindle版
 

取手市のこの中学校では、この被害生徒に限らずに他の生徒へのいじめが起きていたり、今後も起きてもおかしくない環境があるように見受けられました。

再発防止策は、非常に意味があるものだと思いますので、繰り返しになりますが、本件の第三者委員会の調査報告書が公開されたら、機会があればブログでまた紹介するつもりです。