斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

日産の持ち分(43% = 約1.6兆円)に毛が生えた程度しか時価総額のないルノー(2.4兆円)が日産を統合する云々語るのはちゃんちゃらおかしい

去年のカルロス・ゴーンさんの逮捕から、ちょくちょくカルロス・ゴーンさんには触れて来ましたが、

日産のカルロス・ゴーン逮捕より、会社ぐるみと考えられる有価証券報告書虚偽記載が気になる - 斗比主閲子の姑日記

カルロス・ゴーンが保釈後に家族で公園を訪れたのを、家族も撮影して「ノーコメント」というコメントを取るマスコミ - 斗比主閲子の姑日記

今日の話は、この逮捕の背景にある陰謀だ何だと言われている、ルノーによる日産の統合についてです。

renault

最近、またルノーが統合を提案しているという報道が出たり、

ルノー、日産に統合再提案 日産は拒否へ :日本経済新聞

日仏首脳会談の中でも話題に出たりしています。

日仏首脳が会談、日産・ルノー連合やゴーン被告の捜査巡り協議 - ロイター

ルノーが日産の株を最初に取得したのは1999年のこと。その後、ルノーが日産の圧倒的筆頭株主(現在43%)に君臨し、ほとんど親会社みたいに振る舞っているのは周知の通りです。ルノーが残りの株式も取得して、日産を完全に支配下に収めようとしている考えがあるのもこれまで何度も取りざたされてきました。

だから、日産をほぼ支配しているルノーが日産を統合しようとしているのに日産の日本の経営陣が反対して、カルロス・ゴーンさんを逮捕させたというストーリーについては、割とスムーズに受け取っている人は多いんじゃないかと思います。

ただ、私はルノーによる日産の統合というのは以前から釈然としていなくて、一連の報道での、特に日経の報道と日産のリリースについて、物凄く不満をもって眺めていました。それは、

ルノーが日産を統合したら、どれだけ日産を成長させられるか

の説明がほとんどされていないことです。もう少し具体的に言えば、

どれだけ成長できるから、どのくらいの株価でルノーが日産株を評価するか

が説明されていません。

というのも、知っている人は知っていると思いますけど、ルノーは日産より小さな会社で、日産より儲かっていなくて、利益の半分ぐらいを日産に依存している会社です。

仏ルノー、18年は利益・売上高減少 日産の利益貢献46%減 - ロイター

ルノーの利益に対する日産の寄与は15億1000万ユーロ。一時利益の計上で日産の業績が拡大した17年から46%減少した。

売上高は2.3%減の574億2000万ユーロ。営業利益は6.3%減の36億1000万ユーロ。純利益は33億ユーロで、前年の53億1000万ユーロを下回った。

売上高574億ユーロは7.2兆円ですね。一方の日産の売上高は12兆円ぐらいです。ルノーの時価総額は2.4兆円ぐらいで、ルノーによる日産の持ち分は日産の時価総額4兆円の43%ですから約1.6兆円なので、日産株がないルノーの時価総額は2.4-1.6=0.8兆円ぐらいしかありません。

だから、株価の推移を見ていても、ルノーの株価は日産の株価とかなり相関している。特に2008年ぐらいからはそうですね。日産が他の自動車メーカーと比べて成長していないという話も出るけど、ルノーはもっと話になっていない。2000年からルノーの株を持ち続けても2019年の現在でほとんど利益が出ていない状態です。この間に日産の株価は増えてますから、ルノー単体だとマイナスに寄与しているわけです。ルノーのこれまでの経営陣に経営手腕はないということ。

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※グラフはGoogle financeから

日産の保有持ち分を除いたルノーの時価総額の0.8兆円というのは、国内自動車メーカーだとマツダぐらいです。

マツダ(株)【7261】:株式/株価 - Yahoo!ファイナンス

マツダが日産を経営統合すると言っていたら、不思議な感じがしますよね。別にやっちゃいけないわけじゃないけど、どうやってやるのか、何を実現したいのかは気になる。それが、ルノーと日産の件ではほとんどまともに分析されないまま、さも統合ありきで議論が進んでいます。

ルノーが日産の43%を保有しているということは、日産には他にも57%の株主がいるわけです。そして、日産は上場会社で、お金があれば気軽に買える銘柄です。

ルノーは日産を統合したいなら、ルノーと日産が一緒になったらどれだけ良い効果があるかを日産の投資家や株式市場に対して説明するべきだし、日産側は日産側で、ルノーから打診を受けてるなら他にもっと良い候補がいないかを探るべきです。観測気球みたいに、統合する統合しないという話がYes or Noみたいに報道されるのはおかしい。

カルロス・ゴーンさんは自身の無罪を主張するビデオの中で、

ゴーン前会長【無罪主張ビデオ全文・前編】「私は無実です」「これは『陰謀』『謀略』『中傷』」 (1/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

アライアンスの次のステップ、統合、すなわち合併に向けて進むということが、ある人たちには確かな驚異を与え、それがゆくゆくは日産の独立性を脅かすかもしれないと恐れたのです。

(中略)

日産の業績が振るわず、大きく低下しています。

この2年で3回の業績の修正があり、何度も不祥事(検査問題)がありました。

会社が多くの難題に直面しているからということで問題なのではありません。

起きた問題への対処の仕方が会社の信頼を損なっているのです。

こんな風に、日産とルノーの統合に驚異を持っている人がいるとか日産の業績が振るっていないとかを語っていますが、日産どころではなく、もっと成長していルノーとの統合を検討していること自体が経営者としてセンスがないと私なんかは思います。日産の成長を本当に考えているなら、ルノーとの提携関係なんて切ってしまって、他にもっと良い提携相手がいないかを検討しても全然おかしくない。その話が日産の経営陣の中でできない状況があるとすれば、それこそ陰謀めいたものがあるように思います。

とにもかくにも、このように私は考えているため、日産とルノーの統合報道は毎度不愉快に感じている次第です。説明がないため、私の目に、ルノーは、色々問題抱えてるけど、親の縁故を伝手にして、あの手この手で結婚を無理強いしてくる没落貴族のお坊ちゃんに見えています。

追記: id:Edge_Walker 細かいので省きましたが、合併・株式移転などの組織再編では特別決議が必要になりますから、必要な議決権は過半ではなく2/3で、ルノー単体では決められません。また、TOBは、それこそルノーが他の株主に仕掛けるわけで、ルノーが決められるものではありません。だから、ルノーは統合したければ、他の株主を説得するために成長ストーリーを提案するか、高い値段の提示が必要になるわけです。これが資本の論理です。この説明なしに、統合云々語るのがちゃんちゃらおかしいわけです