斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

マスメディアが第二の"ジャニーズ性加害事件"に加担しないためにできる簡単なこと

ジャニーズ事務所が外部専門家に依頼していた、創業者による性加害問題の調査報告書を読みました。

外部専門家による再発防止特別チームに関する調査結果について | ジャニーズ事務所 | Johnny & Associates

50本ぐらいしか、この手の調査報告書を読んでいませんが、読んだ感想は、「調査報告書として最上級にしっかりしている」です。

その理由は、

  1. 外部専門家から提出された当日に公表している
  2. ヒアリング対象が広範囲
  3. 被害者の証言が非常に具体的で、事務所に不利なものが掲載されている
  4. 原因分析、対応策が必要以上に網羅的 ※後述
  5. 対応策が現経営陣・株主にとってかなり厳しい

というものです。

外部専門家といっても、会社に起用されているわけで、この手の第三者調査は何だかんだで物足りない部分があるのですが、今回の報告書はまったく手を緩めたものではありませんでした。

再発防止策、全部やる!?

だって、取締役から従業員のマネージャーまで、上から下まで全役職員の無知、無為無策を批判してるんですよ。対応策に、ジャニーズ事務所の100%株主で現社長の辞任が書いてあるんですよ。会社のガバナンス体制に0点をつけていて、実質的に、ジャニーズ事務所は全面刷新しないとダメだって書いてある調査報告書です。

これを受領当日に社外に公表しているということは、書いてある再発防止策は全部やるということなんだろうなと私は受け止めました。ビッグモーターの調査報告書は、作成日6月26日で、開示日7月18日です。凄い覚悟。

私は普段テレビは見ないし、音楽も聞かず、ジャニーズの所属の人をほとんど知らず、ずいぶん昔にライブが凄いって聞いて観に行ってみたいなって思ったぐらいの(結局行ってない)人間ですが、ジャニーズに興味がある人は日本でたくさんいるはずだから、チェックリストを用意して今後どこまで対応しているか確認していくといいかと思います。

ただし、調査報告書を読む際は、性加害の中身があまりに酷いので、事務所側がしっかり注意喚起しているように、

【閲覧注意】本調査報告書には、調査における必要上、性加害に関する詳細な表現が記載されてます。

人によってはフラッシュバックを引き起こす可能性も考慮して読むことをおすすめします。

私は、自分の数十年前のいじめ被害を一瞬思い出しました。調査に応じた23人だけじゃなく、最低でも数百人の被害者がいたという証言が複数あったということで、それを想像するだけで、苦しくなる人はいるはず。

マスメディアの沈黙が被害を拡大

調査報告書としては被害の具体性に目がいくのですが、他にも異例な箇所がありました。それは、一部の週刊誌を除き、多くのマスメディアが何もしなかったことが被害を拡大させたと書いてある点です。

具体的には、次のように事件の背景を推定しています。

このように、ジャニーズ事務所は、ジャニー氏の性加害についてマスメディアからの批判を受けることがないことから、当該性加害の実態を調査することをはじめとして自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない。その結果、ジャニー氏による性加害も継続されることになり、その被害が拡大し、さらに多くの被害者を出すこととなったと考えられる。

※太字はtopisyu

この調査報告書はジャニーズ事務所の依頼に基づき、ジャニーズ事務所の問題にいかに対応するかを目指して作成されたわけで、メディア側の問題点に触れる必要はありません。

なのに、調査報告書にはしっかりマスメディア側がこの加害に加担していたことを触れた上で、再発防止策の中にも、マスメディア側への批判と対応まで書いてあります。

ジャニーズ事務所は、テレビ局をはじめとするメディアに対して所属タレントを出演させることによりそのビジネスが成り立っているところ、メディアはその取引関係先において人権侵害が行われていないか十分な精査をする必要があるが、今回のジャニー氏による性加害は文藝春秋との訴訟等により当然にメディアが認識していた内容であり、人権デュー・ディリジェンスの対象となるべき事案であった。そのため、メディアは取引関係の中でその影響力を行使することにより人権侵害を即時にやめさせるべきであったし、また、そうすることができたはずであった。

※太字はtopisyu

どうしてこうなったかと言えばすぐに思いつくものですけど、ある一企業に起用された外部専門家が書く調査報告書としては、かなり目線が高いものです。こんな調査報告書はそうそうありません。ビッグモーターの調査報告書での、損害保険会社の扱いと大違いです。

マスメディアの再発防止策は、芸能事務所への人権DD実施依頼と人権侵害をしていないことの表明

ここまで名指しされていることに、さすがに大手のテレビ局も無視できなかったようで、NHKと在京キー5局が声明文を公表しています。

ジャニーズ性加害問題 NHKと民放キー局の声明そろう マスメディアに対する指摘「重く受け止め」言葉並ぶ【各局全文】 | ORICON NEWS

ただ、読んでみると分かりますが、定型文というか、他人事感が溢れています。調査報告書に書いてある、人権デューディリジェンス(人権DD)に触れているのはテレビ東京だけです。

また、再発防止特別チームの報告書は、メディアの関わりについても言及しています。テレビ東京はこうした指摘を重く受け止め、人権デューデリジェンスの考え方に基づき、自社はもちろん、取引先についても、人権重視の姿勢を徹底するよう今後も行動して参ります。

マスメディアが、自分事として、第二のジャニーズ性加害事件に加担しなくなければ、調査報告書にあるように、取引先の芸能事務所が人権侵害を行っていないか人権DDを実施依頼することです。その上で、所属タレントへの人権侵害をしていないことを契約で表明させればいい。反社と取引していないのを表明させるのと同じことです。簡単なこと。

「今の事務所を辞めると次の事務所には入りにくい」「移籍したら本名の芸名を使えない」とか、まさかないと思いますけど、本当にあったら人権侵害ですよね。同業他社への転職は職業選択の自由だし、本名使用禁止って『千と千尋の神隠し』かって。

残念ながら、この件がこれだけ大きくなったのは、海外メディアであるBBCの報道がきっかけです。今年の8月4日に、来日した国連の「ビジネスと人権」作業部会がこの件に触れたのも大きかった。最終報告書の提出は来年6月。

UN experts say Japan has made strides on business and human rights, but must tackle systemic challenges | OHCHR

日本のマスメディアの皆様におかれましては、来年6月を待たずに、ジャニーズに限らない芸能事務所含む取引先との関係を見直し、同様の事例(あるならば)を今からでも忖度なく報道するのがメディアの矜持だと思うのは私だけでしょうか。