斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

サーモン、K-POP、ピアノ、パイナップル……日本産水産物だけじゃない中国の経済制裁

東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出に対して、中国が日本産の水産物の禁輸措置を行っています。2022年水準で871億円で、半分強がホタテです。

中国、日本産水産物の輸入を全面停止(中国、日本) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

2021年以降、日本にとって中国は世界1位の農林水産物・食品の輸出相手国となっている。農林水産省によれば、2022年の日本から中国への農林水産物・食品の輸出額は前年比25.1%増の2,782億円で、全体の20.8%を占めた。中国向け輸出額のうち水産物は871億円、品目別ではホタテ貝が467億円、なまこ(調製)が79億円、かつお・まぐろ類が40億円となっている。

ちなみに、中国以外の国だと、JETROのニュースを見る限り、こんな反応です。

ALPS処理水の処分に伴う輸出等の対策に関する特別相談窓口および各国・地域の動向について | 農林水産物・食品の輸出支援ポータル - ジェトロ

  • 否定的:香港、マカオ
  • 肯定的:アメリカ、メキシコ
  • 中立:サウジアラビア、シンガポール、マレーシア、ロシア、UAE、タイ

単純なトリチウムの放出という観点だと、世界中の原子力発電所が何らかの形で放出しているので(特にフランスが飛びぬけている)、まずは中立で調査結果を見てからという国が多いのは理解できるところです。

駐中日本大使館から

一方で、すぐさま禁輸措置をした中国が異例なことが分かります。ロシアでさえ、中立なのに。

この前も、北朝鮮による軍事偵察衛星の打ち上げを受けた、アメリカや日本の要請で開かれた国連安保理で、北朝鮮が関係ない日本の処理水放出の話をし始め、それに中国が相乗りしてきたことからも、中国は海洋放出を政治的に扱っていることが伺えます。

処理水放出 国連安保理で中国・北朝鮮が批判 日本は反論 | NHK | 国連安全保障理事会

経済大国になった中国は、アメリカがいつもやっているように、自国の政治的な利益を得るために今回みたいな経済制裁をよくやってきているのはご存じのとおりです。

中国の経済制裁について、私は詳しい方だと思っていたのですが、調べてみたら半分ぐらいしか知りませんでした。この記事では、私が調べた中国の経済制裁を紹介していきます。全部知っていたら相当の中国経済制裁マニアだと思う。

※一気に日本でのシェアが増えた台湾産パイナップル。本当に芯まで食べられます。

その前に、中国政府の禁輸措置に対して、「想定外」としている日本の政治家・官僚の人がいたみたいですけど、中国のやり方を知っている人からすれば普通に「想定内」ですよね。たぶん、中国政府を非難するために、意図的に「想定外」という言葉を使っているんでしょう。政治家で、「想定内」って言ってる人がいたら、相当政治センスがない。

中国の全面禁輸「想定外」 政治問題化する処理水放出…不信募る日本 [福島第一原発の処理水問題]:朝日新聞デジタル

あと、処理水放出について、東京電力が外国政府の禁輸措置への補償を行うとしています。対中国だと絶対金額で871億円、実際は国内で流通させたとしての実損失が数百億円ぐらいだとして、どちらにしても、東京電力の財務体力的には賄えると思います。最初はそれを記事にしようと思いましたが、「問題なく賄える」というのが簡単に想定できたので、記事にするのを止めました。

ALPS処理水放出に伴い風評被害が発生した場合の賠償のご案内|東京電力

ということで、以下本題。中国とアメリカの間のものは多すぎるので除外してます。

2010年 尖閣諸島問題→日本製品不買運動

今でも記憶に新しいと思いますが、日本政府が沖縄県の尖閣諸島のうち三島を民間から購入したことを受けて、中国政府によって日本製品の不買運動が起こされました。

反日デモ、中国事業に影響広がる 不買運動も懸念 - 日本経済新聞

2010年 中国人民主活動家へのノーベル賞授与→ノルウェー産サーモンの輸入規制

投獄中の中国人民主活動家で獄中の劉暁波さんにノーベル賞を授与したことを受けて、中国政府はノルウェー産サーモンを輸入規制しました。劉暁波さんはその後、獄中で死去。

ノルウェー、サケの対中輸出激減 - 日本経済新聞

2012年 南沙諸島問題→フィリピン産バナナの輸入制限

これも記憶に新しいはず。日本でのフィリピン産バナナの流通量がめちゃくちゃ増えました。

南シナ海問題、フィリピンバナナにとばっちり - 日本経済新聞

2016年 ダライ・ラマのモンゴル訪問→モンゴル産鉱物輸入停止

チベットのダライ・ラマ14世がモンゴルを訪問したことを受け、中国はモンゴル産鉱物を輸入停止しました。

中国、モンゴルとの交流中止 ダライ・ラマ訪問に対抗措置 - 日本経済新聞

ちなみに、ダライ・ラマが訪問した国は、その後中国からの何らかの経済制裁があるようで、これを、ダライ・ラマ効果と言うそうです。

ダライ・ラマ効果を払拭した英中「黄金」の朝貢外交|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

2016年 THAAD配備→韓流規制

これも記憶に新しいはず。韓国でTHAADを配備したら、中国政府がK-POP含めて韓国製品の不買運動をしました。韓国での影響は大きく、現在まで続く対中感情の悪化に繋がりました。

中国が「韓流規制」THAAD配備に報復か - 日本経済新聞

2019年 ファーウェイ副会長拘束→カナダ産菜種の輸入規制

これも覚えている人は多いんじゃないでしょうか。通信製品大手のファーウェイの副会長がカナダで拘束されたことを受けて、カナダ産菜種の輸入規制が行われました。

中国、カナダ産菜種の輸入急減 米中対立の余波 - 日本経済新聞

ちなみに、豚肉に添加物の問題があるとして、豚肉の輸入停止も行われました。

中国、カナダからの食肉輸入を一時停止 - 日本経済新聞

2020年 新型コロナウイルスの発生源調査要請→豪州産大麦、ワイン、牛肉、石炭等を輸入規制

2019年までのオーストラリアと中国の関係は蜜月だったんですが、新型コロナウイルスの発生源調査を求めるオーストラリアに対し、中国は大麦、ワイン、牛肉、石炭等への輸入規制を次々と行っていきました。

豪、中国をWTO提訴へ 大麦に続きワインでも - 日本経済新聞

2020年 要人訪台→チェコ製ピアノを輸入規制

チェコの上院議長らが台湾を訪問したことを受けて、チェコ製ピアノの輸入規制が行われました。知らなかった。

中国でチェコ製ピアノ発注取り消しの動き 訪台報復か - 日本経済新聞

2021年 台湾産パイナップル輸入停止

これも覚えている人は多いはず。蔡英文総統への圧力の一環。

中国、台湾産パイナップル輸入停止 3月1日から - 日本経済新聞

2021年 台湾と外交強化→リトアニア産農産物輸入規制

リトアニアが台湾と外交関係を強化したことを受けて、リトアニアの農産物に輸入規制をしたそうです。これは知らなかった。

中国、台湾接近に圧力 リトアニアの輸入規制 - 日本経済新聞

中国、リトアニア産牛肉の輸入停止 台湾問題で報復か - 日本経済新聞

2023年 台湾副総統の訪米→台湾産マンゴー輸入停止

台湾産マンゴーに害虫が検出されたとして、今年の8月21日から台湾産マンゴーの輸入停止をしました。どうやら、台湾副総裁が訪米したことを受けた模様。

中国、台湾産マンゴー輸入停止 頼清徳副総統の訪米に反発か - 日本経済新聞

締め

あくまで、私が調べた限りなので他にもあるかもしれません。もっと、詳しく知りたい人は、次の記事が詳しいです。

中国の経済制裁:その特徴と有効性 | 公益財団法人日本国際フォーラム

China plays the sanctions game, anticipating a bad US habit | PIIE

最後に、私のスタンスを書くと、私自身は処理水放出に対して現時点では科学的な観点で"安全"だと納得しています。チキさんのSessionの特集で、専門家の人たちが政府の科学コミュニケーションの下手さを清々しいぐらい総叩きする一方で、処理の仕方自体は問題ないという見解を口を揃えて言っていたので、逆に"安心"できました。

www.tbsradio.jp

ただ、将来の"安全"性を危惧する人や、"安心"できない人がいるのは理解しているし、別にそれを否定したいとは思いません。

一方、中国政府のように、国内でのメディア規制で、いかようにも国民を操れる国が行う、政治的なリアクションは「想定内」だとしても非常に憂鬱です。だって、科学コミュニケーションをしようにも、コミュニケーションが成立しませんから。

中国、「処理水放出心配ない」の投稿削除か 投石事件も - 日本経済新聞