斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

30年で所得は倍増・出生率は半減の韓国。急激な金利上昇で住宅ローンが払えず、産休切り上げで働く家庭も

私はここ5年ぐらい韓国を注目しています。

理由は、日本の隣という地理的要因、文化も近く、言語はSOVの順と非常に親しみがある一方で(韓国語の習得は英語・中国語の習得と比べると驚くほど容易です)、1990年から約30年で所得が倍増し、日本を上回り、合計特殊出生率は同期間で1.6から0.8に半減し、日本を下回っているからです。

日本と凄く似ているのに、日本とまったく違うんですよね。一言で言えば、日本より資本主義社会にもっと注力し、経済的な豊かさを得る代わりに、多くの問題も生じているのが韓国です。

一般的には韓国ドラマが話題になっていますよね。私は見ないんですが、私の母親はよく見ていて、たまに実家に帰省すると色々教えてくれます。

過去の記事だと、1年半前に、ソウルの不動産バブルと合計特殊出生率の低さを紹介しました。

韓国ソウルの不動産市況が見るからにバブルで、家計債務が急増していて韓国経済が心配 - 斗比主閲子の姑日記

韓国首都ソウルの合計特殊出生率が過去最低の0.64(全国0.84)に - 斗比主閲子の姑日記

この間に韓国では大統領が変わりましたが、状況は改善するどころか悪化の一途を辿っています。具体的には、GDPに占める家計債務は世界最高を維持し、

韓国の家計債務、GDP比104%…依然として世界1位(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース

昨年の合計特殊出生率は0.81と世界最低を更新しました。

韓国、出生率0.81の袋小路 若者縛る「育児は女性」: 日本経済新聞

家計債務が世界最高で何が問題かというと、家計収入に対して借金の金額が大きすぎるということです。

韓国での家計債務は180兆円です。この半分が住宅ローンです。そして、住宅ローンの8割が変動金利です。不動産バブルに合わせて、韓国国民が住宅ローンを背負っていった結果、家計債務が世界最高(世界の中でもっとも家計が借金を背負った国)になりました。

これだけ住宅ローンを背負うようになれば、当然、子どもの人数は減ります。何しろ、韓国では日本どころではない受験大国で、海外留学も当たり前なので、住宅ローンが増えれば、子どもの一人当たり教育費を変えないとすると、育てる子どもの人数が減るという当たり前の話です。

「韓国は30年で所得が倍増しているのだから、借金が増えても問題ないのでは?」と思うかもですが、借金の増額ペースが所得の増額ペースよりも早いんですよね。収入の伸び以上に借金をするようになっているということです。

さて、こんな状況で、世界でここ半年ちょっとでインフレになり、世界中の中央銀行が政策金利を上げました。日本は思ったよりインフレをしておらず、政策金利を上げなかったこともあり、強烈に円安になったのはご存じのとおりです。

韓国も2021年8月までは0.5%だった政策金利を直近で2.25%まで引き上げました。

韓国中銀、初の0.50%利上げ 23年ぶり物価上昇に対応: 日本経済新聞

ここまで説明すれば勘のいい人は分かりますよね。

政策金利の上昇→変動金利の上昇です。韓国は世界で家計債務がもっとも多い国で、半分が住宅ローンで、そのローンは8割が変動金利ですから、一般家庭のローンの金利支払いが凄まじく増えるわけです。

この辺はロイターの次の記事が詳しいです。

焦点:韓国不動産ブームが利上げで暗転、借金抱えた消費者に重圧 | ロイター

一般市民は既に痛みを味わっている。生後6カ月の子どもを抱え、ソウル中心部に住むジェーン・ジョンさん(36)は、住宅ローンの支払いが膨らんだため厳しい選択を迫られた。

「夫の給料だけでは月々の返済に間に合わなくなったため、私は産休を早めに切り上げて職場復帰せざるを得なかった」とジョンさん。当初は産休を1年3カ月取るつもりだったという。

ジョンさん一家は5億ウォンの住宅ローンを抱えており、月々の返済額は昨年に比べて72万ウォン増えた。ブローカーからは、月間返済額は年末までにさらに増えて400万ウォン近くになりそうだと聞かされている。これは、夫の月給の70%に達する額だ。

金融監督当局の推計では、住宅ローン金利の平均が現在の5─6%から7%に上昇すると、債務不履行に陥る人の数は50万人増えて190万人に達する見通しだ。

5000万円の住宅ローンで、月の返済額が40万円で、月給の7割とすれば、残り17万円で生活する必要があるわけですよね。韓国は未就学児で3万円ぐらい教育費をかけますから、残り14万円。夫婦3人でソウルで水道光熱費食費を考慮すると生活は成り立ちません。産休切り上げも残念ながら合理的です。

話はこれで終わって、何とか借金が返せればいいですが、ロイターが書いている通り、住宅ローンが返せない人は当然激増します。そうなると、住宅を売却せざるを得なくなり、これがきっかけで、不動産バブルが崩壊する可能性があります。売る人間が増えれば不動産価格は減少し、それを見て住宅ローンが重たい人が早く売ろうとして……と、不動産価格の上昇と逆の状態が発生します。

行き過ぎた住宅価格の高騰→不動産バブルが崩壊すること自体は必然だったとしても、バブルの崩壊は強烈な痛みを韓国国民に与えます。日本がここ30年で経験してきたことですね。

仮に、不動産バブルが崩壊しなくても、住宅ローンの負担が重たすぎれば、消費は低迷します。何しろ、ローンの返済以外にお金の余裕がなくなりますから。

このような経済状況下、韓国での教育費負担は今後も変わらないか、もっと増えるでしょうから、私の見立てでは、韓国の少子化はさらに進むと考えています。

話は変わって、数年前に日本でも話題になった『82年、キム・ジヨン』。登場人物の年齢は2022年で見れば、キム・ジヨンは40歳、娘は8歳、夫は43歳です。

2015年当時、小説の中では賃貸生活でしたが、その後のソウルでの不動産バブルからすれば、キム・ジヨンの家庭もローンを背負っている可能性はあります。

娘が8歳というのは韓国ではまさにお金がかかってくるタイミングです。キム・ジヨンは専業主婦で、夫はIT関係。でも、韓国の退職年齢は早い。

「体感定年51歳」韓国で仕事を辞めた人達のその後 | 韓国・北朝鮮 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

とすると、キム・ジヨンも専業主婦から共働きになっている可能性が大いにあります。

フィクションの話ではありますが、韓国の文学・映画・ドラマは社会情勢を反映していることで有名です。今後韓国で悪化すると見込まれる経済環境と出生率は、確実にコンテンツに反映されるはずです。

私は韓国コンテンツをさほど消費してきていませんでしたが、『82年、キム・ジヨン』のその後には非常に興味があるので、今年からは韓国コンテンツを意識的に摂取していくつもりです。

今日はこんなところです。ではでは!