マイケル・サンデルさんの『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(現代は『The Tyranny of Merit』)を読んでいます。
その人の能力が高いのは環境によるところが大きいのに、能力が高い(とされる)人間は自分の能力を自分の努力による成果であり、能力の低い人は努力をしていない怠け者として見下すみたいな、そういう話を丁寧に書きつつ、
では、そういう能力主義的な価値観に陥った社会をどう変えていくといいのかという政策提言が紹介されている本です。面白そうなところをかいつまんで読んでいます。
今のところ面白かったのは、エリートが貧困層や労働者階級以上に学歴の低い人を差別するというアメリカやヨーロッパの研究や、オバマ元アメリカ大統領の発言は能力主義を助長していることとかですかね。
“Here in America, you can make it if you try. That’s what we’re fighting for.” —President Obama
— Barack Obama (@BarackObama) November 6, 2012
※tryすればできるってことは、tryできることが前提になっているってこと。環境が整わないとtryするのは大変
内容はアメリカによりすぎていますが、富の格差の観点で民主国家の中で格差の拡大をリードしているアメリカですから、他山の石として学びがあります。低出生率なら韓国、富の格差ならアメリカが日本を先行くモデル国。
それで、本の中で世界不平等レポートというものが紹介されていました。世界中の国々での、所得上位1%・10%、下位50%で、全体の所得の何%を占めているかという統計をサクッと見ることができます。
日本はどんなものかなと見ていたら、上位10%の所得の人が全体の43%を手にしているということでした。1980年を起点にするとだいたいアメリカと同じ傾向で上昇しています。それを追いかけるように韓国、中国も同じぐらいの数字になっている。
※Share - WID - World Inequality Database
ちなみに、上位1%の人の占める割合は、アメリカがダントツで20%ぐらいで世界全体と同じぐらいで、中国、韓国、日本と、日本はまだこれらの国の中ではましな方です。それでも、上位1%で11.6%を占める。
このグラフを眺めながら、日本も同様に、民主的な国家とされる国で、富の差が教育格差に通じ、次の富の格差に繋がるというスパイラルが起きているのは常識になっているのですから、やはり、資産課税を強化し、高所得者層には高税率にするものだなといつものように考えていました。
あとは、マイケル・サンデルさんの本には低所得者層に対する賃金補助が紹介されていたんですけど、これと同じことを先週金曜日に立憲民主党代表の枝野さんが荻上チキさんのSessionで話していました。
【音声配信】特集「立憲民主党・枝野代表に問う!~政権奪取の想いと政権構想」▼2021年6月18日(金)放送分(TBSラジオ「Session」平日15時半~)
枝野さんは、消費税減税は高所得者にとっても不動産取得時の減税になってしまうし、実行は野党(自民党)の拒否で簡単ではなく、低所得者層にお金を配るほうが容易にできると言っていたので、ぜひ、日本でも低所得者層への賃金補助がされるといいなとも先週末は考えていました。
いずれにしても、マイケル・サンデルさんの『実力も運のうち 能力主義は正義か?』は事実の確認だけでなく、何ができるかの対処まで様々議論されているので、世を憂うだけで終わるんじゃないのがとてもいいです。よろしければ読んでみてください。
では、今日はこんなところで。以下、n=1の余談です。
余談
子育てをしていると、我が子らがいかに恵まれた環境にいるかを思い知らされます。
所得が低い、シングルで子育てしている親の子どもたちは学力が相対的に低いことが多く、また、学力以外のチャンスも手にする機会が少ないというのはよく見聞きします。
いわゆる偏差値の高い学校に通う子どもの親たちの多くは身なりがちゃんとしています。話をしてみても、職業はあきらかにホワイトカラーです。
しょせん、小学校~高校で勉強する内容なんて、子どもの成長に応じた教育を提供できる人間に課金すればそこそこ何とかなるものです。運動も音楽も料理も語学も美術も、お金をかければそこそこは上達します。
せめて子どもらには、彼ら彼女らが恵まれており、周囲の子も多くが同様に恵まれており、日本に限らず他の国でも勉強ができない子どもは必ずしも環境に恵まれていないことや、給与は高くない人々によって我々の暮らしが維持できていることなどは折に触れて伝えることは忘れないようにしたいと思います。