斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

東京私立中学御三家のSAPIXシェア5割、東京公立中高一貫校のenaシェア55%

以前に中学受験の記事を書きました。

なぜ「中学受験は親の受験」と言われるのか - 斗比主閲子の姑日記

日本の中学受験についてほぼ書き切ったつもりでしたが、一つ書き忘れていたことがありました。それは、公立の中高一貫校、特に東京の公立中高一貫校でも塾に通っている児童の割合が高いという現象です。

東京は高偏差値帯の私立中学でSAPIXが5割ぐらいの合格者数を出していることは有名ですが、実は公立中高一貫校ではさらに異常事態になっているんですよね。株式会社学究社が運営するena(エナ)という塾が一人勝ちしています。2022年度受験では占有率55%です。

2022 ena 合格実績

合格実績 | 公式・進学塾のena|中学・高校受験を中心に大学受験まで対応より

公立中高一貫校は、どこの地域でも報告書(通知表とは別のもの)で一定(大体20-30%)の評価をしつつも、おおよそ適性検査という試験で評価しています。適性検査は私立の試験問題と異なり、思考力が試されるものとされています。試験問題を見れば分かりますが、私立とは別物です。

参考解答例閲覧&出題例|公立中高一貫校適性検査対策テスト

そうすると、私立中高一貫校みたいに札束での殴り合いみたいなことにならず、学校での素行が良く、考える力がある子どもが、塾に通わずとも合格しそうですが、その状況が、少なくとも東京では成り立っていません。

最初に紹介した通り、enaという塾で勉強した子どものシェアが年々高くなっているのです。

私が公開資料から確認出来た限りでは2014年度のシェアは25%でしたが、2022年度の数値は冒頭に紹介した通り55%にまで到達しています。

ena 2014 合格実績

2014年度の合格実績(決算説明資料)より

学究社の中期経営計画を見ると、さらにシェアを伸ばすことを計画しており、計画通り行けば2025年度には1135人=全体の2/3のシェアに到達することになります。実質的に東京都の公立中高一貫校受験はenaにハックされた状態になることでしょう。

ena 合格実績 計画

中期経営計画より

ちなみに、enaが独占しているといっても他の塾も存在していますから、東京都の公立中高一貫校の合格者のうち9割がどこかの塾に通っています。

enaの一人勝ち。『東京都公立中高一貫校受検ならena一択』の理由

通常、適性検査自体はそれほど長期間の対策は必要なものではないため、小5や小6から塾に通い出しても問題ないものの、小6の1年間の塾代等々は100万円にも及びます。

enaの授業料・教材費・合宿・日特・模試・春夏冬講習費! 4年生~6年生かかった総額を公開! - 都立中高一貫校のはてなブログ

一般に公立中高一貫校はお金のない世帯でも入れるというイメージがあります。ただ、実態はまったくそんなことにはなっていないということです。貧困世帯でこの費用を支払える家庭がどれだけあるのでしょうか。

私立の中高一貫校が学習塾に独占されている中、お金がなくても通える公立の中高一貫校をもっと増やしてほしいという要望はあるものの、東京のように公立でも塾のシェアが高い地域では、人数を増やしても所得が低い世帯の子どもは合格できません。

私は、試験の点数で合否が決まるのは、お金をかけるとさらに差がつく、経験での評価よりかはまだマシだと考えていますけど、日本の首都の東京の公立中学校の受験がこんな状況になっているのは悲惨だなと思います。

生徒の潜在力重視の大学入試制度で「スペック競争」が激化 韓国:朝日新聞GLOBE+

この件に限らず日本で所得格差が教育格差に繋がる状態を根本的にどうにかするためには、中国のように学習塾自体を規制してしまうか、

中国で学習塾の規制強まる 習近平政権のねらいは? | 中国 | NHKニュース

または、マイケル・サンデルさんがアメリカを例にして言っているような、くじ引き制度を導入するのが良いでしょうか。

ただ、どちらも日本では現実的には大勢にはならないでしょう。日本はまだ中国やアメリカ、そして韓国ほど極端な状態にはなっていないから、国民全体の問題意識は乏しく、そこに政治的リソースをかけようという話にはならない。

個人的には、成人の低所得者向けにリカレント教育の補助金を今以上にジャブジャブ供給するのがいいと考えています。日本では生産者人口が今後急激に減少することは分かっていますから、大人になっても勉強してもらうことにお金を使うのは、日本の生産性を維持・向上するために合理的な選択で、通りやすいんじゃないかなって発想です。

というところで、中学受験について書き忘れていた話でした。

今日はこんなところです。ではでは!