日本学術会議と違って明確に政府に任命権がある、内閣官房参与や政府の新型コロナウイルス感染対策分科会の委員が多数名を連ねている『コロナ専門家有志の会』が東京オリンピック・パラリンピックへの提言を出していました。
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に伴う新型コロナウイルス感染拡大リスクに関する提言|コロナ専門家有志の会
政府がしっかり人選した方々が出された提言ですから、私は現在の日本政府を信じているので、同様にこの提言もしっかり読まないといけないと思い、熟読しました。
文章も分かりやすいし、スライドも伝えたいことがコンパクトにまとまっていたので、未読の人はぜひ目を通してみてください。たぶん、医療の専門家ではなく、ネットでの広報のプロを起用しているはずです。とても分かりやすい。
私が興味深かったスライドを3つ紹介します。
1つ目は日本とイギリスの人口10万人あたりの新規感染者数推移を比較したもの。イギリスはワクチン接種率が30%から43.9%まで上がっていても、感染者数がここまで増加しているとは知りませんでした。イギリスの新規感染者のうち9割ぐらいが後述するデルタ株に感染しているらしい。
2つ目は日本での実効再生産数のグラフ。ものの見事にイベントがあるとスパイクしてますね。オリ・パラは2週間も続くから、イベントが大規模である以上、何も影響がないなんてないよなーと思う。
3つ目は、五輪を開催したときにデルタ株の影響を分析したもの。イギリスでも猛威を奮うデルタ株の影響を考慮したときのグラフの伸びが凄い。これ、右側のグラフをしっかり上まで載せたらどこまで行くんだろう……?
これ以外のスライドもメッセージがとても分かりやすいので、長い文章を読むのが苦手な人はスライドだけでも専門家のみなさんが言いたいことが十分伝わるはずです。
次のスライドなんかは誰でも思いつく話ですよね。
まさか、政府を含めた主催者がこんな当たり前のことを認識していないのか、わざわざ専門家が指摘しないといけないことなのかと、ちょっと馬鹿にしすぎなんじゃないかと思うぐらいです。
まあ、特に菅首相は、安倍政権下の官房長官時代に、アベノミクスといって金融政策・財政政策で市中にお金をじゃぶじゃぶ流しつつ、一方で消費税を増税しちゃうという、アクセルとブレーキを同時に使って、結局相殺させるという神がかりな政策を横で見てきたのですから、
オリパラ開くよ、でも、静かに盛り上がってねという一見すると矛盾するメッセージを出すのも、総合的・俯瞰的にみればおかしなことではないのでしょう。
スライドの最後の方は、五輪が開催される前提で、感染拡大リスクを軽減するための政府・大会主催者への提言がされています。
1つ目のスライドは政府への提言。経済的支援の強調と、感染拡大したときの準備をしてねというもの。
2つ目のスライドも政府への提言で、開催直前・開催中でも強い対策を行うこと。たぶん、オリンピック期間中に緊急事態宣言を出すのは恥だと日本政府は考えるだろうことを想定して釘刺ししてる。
3つ目のスライドは大会主催者に対するもの。規模の縮小と無観客の推奨。客を入れるにしても基準を厳しくすること。
4つ目も大会主催者向けで、対策と観戦スタイルのアナウンス。
以上、ざっと抜粋してみました。
たぶん、これらを見て、人によっては「開催する前提で提言がされているのはしょせん御用学者」「最後まで開催拒否を貫いてほしい」と考える人もいるでしょう。
私は、この規模のイベントの開催までもはや1ヶ月程度しかない中で、学校の運動会や文化祭のように「やっぱやめます」なんて判断がされるはずがないと考えているので、専門家の皆さんが開催を前提とした提言を取りまとめられることには違和感はありません。そもそも、専門家の皆さんには五輪開催を判断する権限は一切ないのですから。
単に開催に反対し続けて、大規模な対策が手薄で五輪が開催されて、感染者数が増大するなんてことになれば、専門家であるからこそ悔やみきれないものでしょうし。
常識的に考えれば、提言のうち無観客試合にするのは経済的な打撃は大したことないですし、割と実行しやすいと思うんですが、私の予想だときっと普通に観客は入れちゃうんじゃないかなと考えています。
というのも、もともとこの東京五輪は、東日本大震災からの復興を世界にアピールすると言っていたのが、途中から、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして行われることになっちゃったので、無観客だと絵面として打ち勝った感じが損なわれちゃいますから。
絵面は大事ですからね。絵面さえ良ければ支持は得られるものです。
良い絵面をオリンピック期間中にバンバン流せば、政権への支持率も回復して、五輪後に予定されている衆議院選挙も勝てるでしょうし。
そういう意味では、今のところ五輪開催に批判的な報道をしている各種メディアが、どこまで五輪を抑制的に報道するかは注目しています。専門家のみなさんもメディア向けに提言しているように。
オリンピック・パラリンピックの際の感染対策を涵養する報道様式についての要望書|コロナ専門家有志の会
1. 人流を抑制するための報道の工夫
「パブリック・ビューイングで熱狂する観衆」や、「地元出身の選手の活躍を皆で集まって応援する人々」、さらには「沿道でマラソンを応援する観衆」といった映像や記事は、現代ではオリパラの報道を構成する要素になっています。しかし、こうした慣習化した報道は、人々に感染症対策のうえで脆弱な行動を喚起しかねず、今回は避けられなければなりません。
2. 自宅での応援スタイルの涵養と普及
上と関連しますが、感染症対策との両立を考えれば、今回のオリパラが実施されるならば「メディア<だけを通じて経験する>イベント」に留める必要があります。そのためには、競技を見守る人々が、一体感も感じつつもそれぞれの自宅にとどまって応援するような報道を実現せねばなりません。
ハロウィンの渋谷のDJポリスの報道みたいな馬鹿騒ぎは、どのメディアもしないんじゃないかなと期待しています。