斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』(全5巻)はとても穏やかに、優しく完結した

昨日の記事で、「私の漫画の話が特に好き」というコメントをもらったので、今日は漫画レビューです。とりあげるのは、鶴谷香央理さんの『メタモルフォーゼの縁側』(全5巻)です。ちょうど今年の1月に第5巻が発売され完結しました。

この作品は2019年にこのマンガがすごい!オンナ編で第一位を取った作品で、同じくランクインしていた『凪のお暇』と同じく、それから2年間読み続けてきた作品の一つです。

Twitterでは確か紹介した記憶がありましたが、ブログでは読んでいることを書いていなかったようなので、この際にブログで紹介します。

どんなストーリーか?

『メタモルフォーゼの縁側』は女子高校生の佐山うららと、75歳の女性の市野井雪とのBLコミックを介した交流を描いた作品です。

※縁側でのBL交流です。

1巻から5巻まで、ちょっとしたイベントはありますが、基本的に大事件というのは起きません。強いて言えば、同人イベントに参加するというのは作中では一大決心として扱われているぐらいです。

基本的にこの二人の交流が中心で、うららのほうでは進学や友人の恋愛話、雪のほうでは健康の衰えやアメリカに住む娘との交流がそれぞれ描かれています。

理不尽な言動に巻き込まれたり、波乱万丈な展開になったりはしません。最初から最後までそれほど心にざわめきがなく読めるはずです。

うららの両親が離婚していて、うららが母親と一緒に暮らしているという設定も、別にそういうものだからとして描いているだけで、父親とは母親とともに会っていますし、何の問題にも発展しません。優しい世界です。

作品のテーマは?

BLで高校生と後期高齢者が繋がるというのは面白い設定ですよね。これを丁寧に扱うだけで普通に面白い。『メタモルフォーゼの縁側』はただそれだけではない。

私が受け取った『メタモルフォーゼの縁側』のテーマは、「人は変化をするもの」です。

メタモルフォーゼは変身という意味ですから、女子高生であっても、後期高齢者であっても変化の途上にある者同士がたまたま縁あって知り合ったということで、『メタモルフォーゼの縁側』というタイトルを付けたんじゃないかと私は理解しています。

通常、変化というと若い子の専売特許だと思いますよね。でも、作品の中では、よほど女子高生のうららのほうが保守的な人間に見えます。保守的というか、周囲含めた変化についていけず、ついていけない自分をどう捉えたらいいか分からない様子。一方で、雪は夫を数年間に亡くして以来、生活自体に大きな変化はないものの、思い立ったものにはチャレンジする性格です。最終巻での判断も凄い。

そのため、女子高校生が後期高齢者のお婆ちゃんをBL世界に一方的に引っ張り込んでいくという話にはなりません。BLの世界に前のめりで嵌まり込んでいくお婆ちゃんと一緒に、自分もBLの世界を楽しんでいいんだとうららが自信を深める感じです。相乗効果というか。

だから、『メタモルフォーゼの縁側』は若い人に勇気を与えるところが多分にある作品だと思います。人には言いにくい自分の大切なものを、何のてらいもなく、老人がぶっち切ってハマっていくというのはなかなかに爽快です。

我が家の話と私の読み方

ちなみに私はアラフォーで、私の姑は市野井雪と同じぐらいの年齢で、二人ともBLはそこそこたしなみます。よしながふみの最新作が出ると必ず私がシェアするようにしています。

私は本当にBLは嗜む程度です。姑は萩尾望都の『ポーの一族』から嗜み始めており古参っぽさをたまににおわせてきます。

ですので、私たちの関係はちょっと『メタモルフォーゼの縁側』っぽさはないわけではないですが(私の子どもはまだBLを嗜む気配はありません)、姑は美魔女で、記憶も身体もかなりしっかりしているため、市野井雪と比較したらたぶん嫌がると思います。まだ「女を捨ててない」って公言しているぐらいなので。

そんなこともあり(どんなわけだか)、『メタモルフォーゼの縁側』は姑とはシェアしていません。直接BLを扱った作品でもないですしね。

私のほうがどちらかというとマインド的には市野井雪に近いところがあり、作品を読んでいました。年齢は75歳なんてことはありませんが、仕事はほどほどに、子育てもほぼほぼ目処が立っていますから、なんというか、雪のように若い人に軽度な良い影響を気付かずに与えられるというのは、上手く運べばいい話だよなと思って読んでいました。

悪い人間は出てこないし、イベントも急激なものではないから、読んでいてとても安心感がありました。

第5巻では、うららと雪がともにハマっているBL作品に対して、

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※第5巻p.92より

「どうしてこんなに どこまでも優しいものを作ったの」と評していますが、それを言うなら、この作品もとても優しさに溢れた作品だと私は感じています。だから、どの巻も気持ちよく、穏やかに読むことができました。

締め

ということで、『メタモルフォーゼの縁側』のレビューでした。

Newtypeのサイトでかなりの話を読めるので、気になったら読んでみてください。

メタモルフォーゼの縁側 - Webで漫画が無料で読める!コミックNewtype

読んで気持ちが落ち着く漫画です。お勧めです。

※最後まで縁側