先日の『天気の子』に続いてエンタメ特集ということで、今日は、「種村有菜さんと絵が酷似」として白泉社が謝罪した、花とゆめの読切作品『ロマンスとバトル』のレビューです。
経緯をざっくり書くと、今年6/20に発売された花とゆめ14号について、読切作品が他の漫画家さんの絵柄に似ているとして話題になり、結果的に7/5に出版社である白泉社が謝罪をしたというものです。
お詫び
花とゆめ14号の読みきり作品に関して、多くの読者の皆様から、主人公の女性キャラクターが既存の先生の絵柄に非常に似ているとのご指摘を頂戴しました。
該当作品の絵柄は、編集部が率先して先生の絵柄に近しい方向へと誘導した結果のものであり、本来なら掲載を中止しなければならない程、酷似していたにも関わらず、雑誌に掲載するという過ちをおかしてしまいました。
それほど話題になるというのだから読んでみようと思ったところ、電子版はその読切だけ掲載していないという状況でしたが、ヨドバシカメラではネットで普通に販売していたので7月中旬に購入しました。
話題になっていたので、花とゆめの14号を買った。子どもが既に興味を持ってる。
— 斗比主閲子 (@topisyu) July 20, 2019
発禁になってるのは電子版だけで、紙版は普通に売ってた。 pic.twitter.com/SncXy995Vl
ちなみに、今ではヨドバシカメラでも紙版は入手できませんが、メルカリであれば売り買いされています。
※雑誌本体が400円なのに切り抜きだけで400円を超える値段で売り買いされるようになっている
それで、肝心の作品自体ですが、面白かったですよ。
少女漫画の主人公が少年漫画の世界に異世界転生してしまったという設定を活かして、キャラだけではなく背景も当然ながら描き分けているし、ギャグもメタメタで良い。
例えば、不良っぽいキャラが捨て猫を拾う姿にキュンとしてしまうやつとか。
画面にめちゃくちゃ花生えちゃう…!で笑ってしまいました。「とても面白い」ということを、ネットで、大草原とか、草不可避と表現することは一般的になりつつあるけれど、花生えるという単語は初めて見たかもしれない。
異世界転生のきっかけになった遅刻遅刻~でトラックに轢かれるのは、『ゾンビランドサガ』でもやられたことですね。
あとは、絵柄が酷似しているとされている少女漫画キャラですけど、
この辺の凛々しい顔つきなんかはとても良い。
作者の宇和野宙(うわのそら)さんはこれがデビュー作ということもあり、連載に繋がる感じはしませんでしたけど、絵柄もギャグも私はとても好きでした。
同じく良い評判は検索するとかなりあって、花とゆめ 男子会!?らじお | インターネットラジオステーション<音泉> でも、声優の下野紘さん、島崎信長さんともに、「めっちゃ好きです」「ほんと面白かった」と絶賛していました。私も主人公の男キャラが細谷佳正さんが喋っているように聴こえた派。
作品のレビューは以上です。宇和野宙さんの今後の作品も楽しみにしています。このペンネームも実にいいですね。山止たつひことかみたいに適当につけたっぽいから今後は変わりそうだけど。
絵柄が酷似してたらダメとは思わない
作品のことはこれぐらいにして、本作について出版社が謝罪をし、作品を取り下げるようなことをしたのは理解できませんでした。何しろ、絵をトレースしたわけでもないし、絵柄を真似たパロティなんていうのは、少年少女漫画ではセオリーですから。絵柄に著作権はない。
真似されたとされる種村有菜さんは、
ちょっと驚いています。全く知らない方です…
— 種村有菜 (@arinacchi) June 20, 2019
こういう反応をしていますけど、パロディをする上で元の作者本人に知らしめるなんてのは私はまったくしなくていいと考えています。
二次創作を商業化するということならまだしも、本作はまったくそんな作品ではないわけだし。美内すずえさんから一体どれだけの漫画家が事前に許しを得ているのか。川原泉さんは一体どれだけ謝罪をしているのか。
東村アキコが、キャラがガーンとなる時に目を真っ白にする描写についてガラスの仮面を真似してるんだけど、それを美内すずえ先生に直接謝った時に「ええで、あれラクやろ?」と言われ宝物の言葉にしてるって話めっちゃ好き
— yokomu🌈👭 (@yokomura5404) October 10, 2018
31:57〜https://t.co/60bRp6ztwr#山田玲司のヤングサンデー#東村アキコ pic.twitter.com/VIu7L2UeS0
そういうわけで、出版社が作品を取り下げるのは会社の自由だし、絵柄が酷似しているから問題だと批判するのも自由だと思いますが、私は、この程度の絵柄で問題だとは思いませんし、取り下げる必要もないというスタンスです。
ちなみに、せっかくなので、『花とゆめ』の雑誌に掲載されていた作品を一通り読みました。私の趣向に合いそうな作品は1~2作ぐらいでした。大人がしっかり描かれていないんですよね、『ロマンスとバトル』もそうだけど。
格差恋愛とか禁断の恋という作品が多いものの、その格差によって生じる人生観・価値観の違いをどうやって擦り合わせしていくのか、作中で議論がまったくなされない。そして、キャラクターの思考が一様に浅い。深いキャラと浅いキャラがいるのではなく、底の浅いキャラがわちゃわちゃやって物語を作ってる。
例えば、同じ号にも掲載されていて、最新刊では表紙になっていることからも人気作と思われる作品は、自殺未遂をしていた生徒に、
女子高生の扇言(みこと)は、失恋を苦に自殺しようとしていたところを物理教師の灰葉 仁(はいば じん)(通称・灰仁)に邪魔される。「死ぬ前に俺と恋愛しない?」と先生に告白され!?キケンなつり橋効果LOVE!
教師が付き合おうとするもの。卑怯卑劣。この教師がやるべきことはスクールカウンセラーに繋ぐことで、個人的な恋愛関係を構築することではない。なにが、つり橋効果LOVEだ。
この辺は好みとテーマの問題ですね。私に合わないだけのこと。現実であれば問題があることでもフィクションとしては許されることはありますから、この作品を発売停止にするべきだとは私は主張しません。
もう一つの読切作品である『オトメゲームフォーユー』では母親が不倫をして離婚をしたので恋に臆病になっている女の子が主人公なんですけど、私からすると、今の目の前の男の子との恋愛をどうのこうのする前に、母親のことをどう整理するかがテーマになってほしい。
ただ、そんな作品は『花とゆめ』の読者が求めるものではないでしょうから、私は大人しく、他の漫画を読むことにします。
教師漫画としては雨瀬シオリさんの『ここは今から倫理です。』をお勧めします。教師が安易に生徒に手を出すのではなく、家庭に問題がある(ときにはまったくない)生徒に学校の一教科の教師としてどこまで関わるかを悩みながら対話を続ける。
※作者の雨瀬シオリさんは高校ラグビー漫画の『ALL OUT!!』も描いている
艶のある絵柄もいいんですよね。お勧めです。同じ先生物としては『鈴木先生』ほどは重たくありません。