ちょっと前に、少年ジャンプはもっとジェンダーフリーになるべきみたいな意見をネットで見かけて、「意見を言うのは自由だけれど、コアなターゲットが男性中心である少年ジャンプでそれを求めるのはちょっと違うのでは?」「今どきの少年ジャンプだと女性が活躍する漫画も結構あるから、昔と比べるとすでにかなり変わってきていると認めていいのでは?」などと思っていました。
私の感覚だと少女漫画にも悪い意味での少女漫画観を引きずっている作品がまだまだあるから、バランスの問題を議論するつもりなら、少女漫画雑誌にもスポットを当てないとよろしくないのに少年ジャンプばかり槍玉に上がるのはちょっとなと思ったのでした。
この話はこれぐらいにして、今日紹介するのは、まさにその少年ジャンプで女性が活躍する、というか、女性が主人公の『アクタージュ』です。
『アクタージュ』は演劇がテーマで、主人公は女子高生です。もうこの設定だけで、これまでの少年ジャンプの漫画じゃないですよね。バトル要素がなさそうだし、アニメ化も難しそう。1年で打ち切りになるんじゃないかという臭いがプンプンする。
私もそう思いながら、ジャンプ+でたまたま転載されていたのを読んでみたら、これが面白かったんですね。試し読みは以下のサイトでできます。
『アクタージュ act-age』|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト
少し面白くてもジャンプ本誌ではきっと生き残れないと思って単行本はチェックしていなかったんですが、既刊8巻で発行部数は200万部ぐらいとなり、ジャンプの掲載順は真ん中ぐらいが多いものの表紙にもなっていました。
「アクタージュ」劇中劇「舞台『羅刹女』」の公式ポスターがジャンプ付録にhttps://t.co/Jz7ByeVgUH pic.twitter.com/Xcj24csagq
— コミックナタリー (@comic_natalie) November 2, 2019
つまり、しっかり売れている漫画と考えていい。
※消防庁とのコラボポスター。火事は特に本作とは関係がない。
だったら化けているかもしれないと思って読んでみたら、ちゃんと少年ジャンプらしい作品に仕上がっていて面白くて既刊の8巻まで全部読んでしまいました。
少年ジャンプらしさというのは人それぞれが思っているものがあるでしょうが、私としては、引き込まれる面白さがあるのは大前提で、次々強敵が現れるとか、強力なライバルが味方になるとか、修行をして強くなるとかそういうのです。『アクタージュ』はこれらを女子高生が演劇でやっている。
周囲のすべてを把握して見られるべき姿を演出する俳優とか、役柄を擬似的に体験してディープダイブして再演する俳優とか、存在感がありすぎる俳優とか、ライバルは男女関係なくて、それぞれキャラが立っている。主人公の女子高生が女の子の皮を被った男の子ということでもなく、しっかり、女子高生をしていて演技で戦っている。
登場人物の中だと私は百城千世子が好きです。8巻の「私の消費期限って後どのくらい?」が良かった。どうでもいいけど私の子どもなら、「消費期限だと安全に消費できる期間だから、この文脈なら賞味期限のほうが正しいのでは?」と突っ込むのが想像がつくシーン。
本当に演劇をやっていた人からすると、テニスの王子様的な感じで受け入れ難いところはあるかもしれないけれど、私からすると、目新しさがあってとても楽しいものでした。
なお、小町要素は皆無です。なさすぎてちょっとキャラが浅い感じがするのは私だけでしょうか(小町話法)。というのは冗談で、絵柄がちょっと線が細い感じがするのと、説明したいことを表現しきれていないのではと思うことはあります。調べてみたら、作画担当の宇佐崎しろさんはまだ21歳で、本作が初連載らしい! それなら10代の男女を描くのに比べ、中年男女の描き方がちょっとどうかと思うのは理解できる。
それでも、面白いんですよね。自分が好きな要素が少なくて、自分のような中年がターゲットの作品ではないのは分かるけれど、面白い。こういう作品を発掘して連載できるのは、さすが少年ジャンプだと思います。凄いよね。
以上、『アクタージュ』の紹介でした。
なお、私の子どもが手の届くところにも置いておきましたが、お気に召さなかったようです。人それぞれ好みは違いますね。
※5-6巻は特に良かった。