時々、Amazonの家庭教育本のランキングを見て、面白そうな育児書は片っ端から読むのですが、今回紹介する本は大体2歳~10歳ぐらいまでの子供に基本的な生活習慣を習得させるという観点で、今まで読んだ中で一番お勧めできる本です。
家庭で無理なく楽しくできる生活・学習課題46―自閉症の子どものためのABA基本プログラム (学研のヒューマンケアブックス)
- 作者: 井上雅彦
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2008/10
- メディア: 単行本
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本当にお勧めなんですが、表紙が少しまじめなのと(絵がない)、タイトルに"自閉症の子どものため"とあるので、子供が自閉症でなければ、手に取らない人のほうが多いかもしれません。
自分が読んだ限りでは、この本の内容は自閉症でない子供の子育てでも十分応用できる内容だと思います。この記事ではそういったところを紹介できればと考えています。
なお、自分はこの分野の専門家ではありませんから、書いている内容は素人の自分が読んだ理解に基づくものであり、自分の言葉で整理したものである点はご容赦ください。
本の概要
合計で200ページ弱あり、内容は2章に分かれます。
- 1章はABA(応用行動分析)に基づいてどうやって子供に学習させるかの考え方の紹介
- 2章は46の生活習慣・行動を具体的にどうやって子供に学習させるかの紹介
となります。
著者は、井上雅彦さん。本の発行当時、鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学講座教授。専門家が書いている本ですが、特に2章はとても平易な言葉で説明されています。
行動分析というのは心理学の一体系だそうで、
発達障がい児の治療・教育としては、日本でも40年ぐらいの歴史があるもののようです。
CiNii 論文 - 応用行動分析のもう1つの流れ : 地域社会に根ざした教育方法
子供の行動を前後に分けて整理しよう!
ここから本の内容に入っていきます。
誤解を恐れず言えば、この本で書かれていることは、子供の学習プロセスを細分化して、取り組みやすい環境を作ったり、少しずつクリアーさせていくということです。
例えば、子供がどうして問題行動をするのか、どうして学習できたのかを分析するツールとして、ABC分析というのが紹介されています。子供の行動(Behavior)について事前の出来事(Attendent)と結果(Consequence)を分けて考えるというものです。
子供が奇声をあげたとしても(Behavior)、実は問題が難しいから奇声をあげているのか、親が見てくれないから注目させるために奇声をあげているのか、事前の出来事(Attendent)は異なりますよね。当然対処法も異なっておかしくないけれど、親からすると、つい「黙って!」「静かにしなさい!」と怒っちゃう。問題が難しいから奇声をあげている子からするとそれは解決にならないし、親の注目を集めたい子供からすると奇声をあげれば注目を集めると学習してしまう。
学習環境であったり、得られる(正負の)インセンティブであったりで、子供の学習への取り組み方は異なります。そういうことを子供一人一人について分析して、その子にあった学習プログラムを組み立てようというのがこの本で書かれている基本的な発想です。
名人芸をなくし、誰でも指導できるようにする
こういう風に子供の行動を分析して何がいいかといえば名人芸の領域をなくせることですよね。明示的になっていれば(子供に生活習慣を仕込む手順がその子供に対して標準化されていれば)、普段子供を見る時間が少ない人間でも子供に学習させるのが可能になる。仕事に忙しい父親/母親でもスムーズに取り組める。
本書でもこのように書かれています。
また今まで特定の指導者による「名人芸」や「子どもとの相性」などとして処理されてきたものを、環境設定の仕方、課題の出し方やほめ方、ヒントの出し方やタイミングなどの具体的な環境調整や行動に置き換えて記録したり、分析することで、その指導技術を他の指導者とも共有できるようになるのです。(P13より)
こういう発想は、仕事で管理職をしている人からすると大いに理解できるのではないでしょうか。杜氏に逃げられてデータ管理で酒造りをしている旭酒造のケースと同じです。行動分析が利用されているソーシャルゲームも同じ。
タスクは細分化し、ハイタッチやトークンを使って成功体験を積む
実際に学習させる段階では、子供の能力に応じてタスクを細分化することや、トークンを使ったほめ方についても触れられています。
タスクの細分化とは、例えば手洗いをこれぐらい分けます。
- 洗面所に行く
- 蛇口をひねる
- 手を水でぬらす
- ハンドソープを一回押す
- 両手をこする
- 蛇口をひねる
- 水で流す
- 蛇口を閉める
- タオルで手を拭く
- 洗面所から戻る
本文ではスモール・ステップとして紹介されている考え方です。子供ができなければ作業工程を細分化し、その一工程ずつ学ばせるというものです。細分化することで、何に問題を感じているかも分かりやすい。例えば蛇口が子供からすると操作しにくい位置にあるから実は手洗いが嫌いだとか分かる。トイレの便座が冷たいからトイレに座りたくないとか。
そうして細分化して、できた時にほめます。ほめるタイミングについても説明があり(原則できた直後)、ほめ方としてトークンエコノミーが紹介されています。トークンエコノミーというと難解に聞こえますが、「よく頑張ったから駒を一個進めるね」というものですね。モノボリーやすごろくみたいなもの。
我が家ではシールを使ったりホワイトボードを利用して子供向けにトークンの演出をしています。子供が小さいうちは、以下のような紙を用意し、子供が頑張ったらシールを貼らせています。
※画像はFREE Potty Training Charts | Potty Training Conceptsより
もちろん、トークンだけではなく、言葉で伝えたり、ハイタッチや頭をなでるといった方法の有効性についても説明があります。
珠玉の46課題
ここまでの内容が1章で書かれていることで、2章からは個別の課題について、どのように取り組むのか具体的に説明があります。1章もいいんですが、2章も素晴らしい。
生活スキルということでトイレや歯磨きという基礎的なものから、コミュニケーションスキルとして模倣をどうやって覚えさせるか、運動スキルとしてなわとびの方法や、認知/学習スキルとしてひらがなの読み方など、基本は未就学児向けであるものの、金銭管理や買い物といった応用編まで取り上げられています。
それぞれ大体2ページ~4ページで学習方法について説明があります。片付けを覚えさせるためには玩具は最初は一つの大きな箱に入れさせるとか、縄跳びの前運動としてのフラフープの紹介とか、もう至れりつくせりの細やかさです。
基本の本としてはこれで十分だと思うのですが、会話等のコミュニケーションの学習に特化した続編や、小学校高学年向けのものもあります。
家庭で無理なく楽しくできるコミュニケーション課題30 (学研のヒューマンケアブックス)
- 作者: 井上雅彦,藤坂龍司
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2010/04/28
- メディア: 単行本
- 購入: 8人 クリック: 35回
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家庭で無理なく楽しくできる生活・自立課題36 (学研のヒューマンケアブックス)
- 作者: 井上雅彦
- 出版社/メーカー: 学研教育出版
- 発売日: 2011/09/13
- メディア: 単行本
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本の紹介は以上です。
締め
この本で救われたのは、育児の軸ができたことなんですよね。子供が問題なくできることもあればできないこともあって、それは一人一人でバラバラ。そうすると複数人子育てにおいて、一人目の成功体験が活かせない部分も出てくるわけです。そもそも上の子の学習プロセスについてはっきり覚えているわけではないのに、更に違う対処が求められる。辛い。子育てはなるようになるといっても、発達が遅い子もいますしね。
そんなときに、子供の学習ステップを細分化すればいいとか、その子の学習プロセスを分析してみるという発想は、不明確に見えた育児をクリアーにしてくれました。本文で触れたとおり、分析ができ、指導方法が子供ごととしても標準化されていれば家庭内でのノウハウの共有も容易です。
ただ、学習工程を時系列でチェックしたり、細分化したり、子供が喜ぶ行為を記録するというのは、かなり仕事っぽいですよね。自分はそういうの大好きですけど、心の余裕も必要だし、全員が全員できるものでもないでしょうし。
本書を完璧にこなそうとする人や、にっちもさっちもいかない人は、必要に応じて専門家の指導を仰ぐとよろしいんじゃないかと思います。
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