斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

特定の情報だけを選んでしまう認知の歪みを解消するために、周りに多様な人を配置する

早稲田大学MBA教授の入山章栄さんの『世界標準の経営理論』をちまちま読んでいます。

世界標準の経営理論

世界標準の経営理論

  • 作者:入山 章栄
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2019/12/12
  • メディア: Kindle版
 

読もうと思ったのは、周囲での評判がよく、また、個人的にも最先端の経営理論を触っておきたいなと思っていたからでした。

平易な文章で、しかも、エビデンスの強度も紹介しつつ最新の研究を紹介してくれているため、大変楽しいです。紙で800ページぐらいの内容を、Kindle版なら2500円で買えるので、お得だと思う。数字はほとんど出てこないから、数学嫌いでも大丈夫。

著者の入山さんはどこから読んでもいいと言っており、確かに41章のそれぞれがほぼ独立しているため、どの章から読んでも特に負担感はありません。

今日紹介するのは、『第20章 認知バイアスの理論 -認知の歪みは、組織で乗り越える』です。

内容をざっくり説明すると、認知の歪みがどういうときに起きがちで、その認知のゆがみをどう解決するかというのを経営学的な観点で紹介したものです。認知の歪み自体は心理学の概念だけど、主に経営学においての研究を紹介している。

で、まず、認知の歪みは個人レベルで、

  • ハロー効果(特性に引っ張られる)
  • 利用可能性バイアス(自分にとって理解しやすいものに引きずられる)
  • 対応バイアス(個人の問題にしちゃう)
  • 代表性バイアス(典型的なものとして過大評価しちゃう)

4つの類型があり、組織レベルとしては、

  • 社会アイデンティティ理論(自分が所属するコミュニティに引っ張られる)
  • 社会分類理論(グルーピングしてまとめちゃう)

2つの類型があることを紹介しています。他にもあるだろうけど、代表的なもの。

認知の歪みというのは、自分の認知に歪みがあること自体に気付きにくいため、たとえ上記のような類型を紹介されたとしてもあんまり役に立たないと思うわけですが、入山さんとしては、「世界標準とまではエビデンスが積み上がっていないけれど結構いいネタがある」という感じで、アテンション・ベースト・ビュー(ABV)という手法を紹介します。

ABVとはざっくり次のようなものです。

一方でABVは「認知のバイアスは、経営者を取り巻く組織構造・人脈・メンバー編成にも強く規定される」と主張するのだ。例えば、組織のメンバー構成である。組織のメンバー構成をうまく組めば、自身の認知バイアスも抑制できるかもしれない、ということだ。

(紙版、p.369)

企業経営の場合は、重要な意思決定をする企業経営者の認知の歪みがないようにするのが大切で、認知の歪みがないようにするには、周りから入ってくる情報が多様になるようにすればよく、だから、組織メンバー構成を意識的に多様に設定する、みたいな話ですね。

議論としては企業経営者に限定していますけど、考え方としては個人が認知の歪みを持たないようにするためにも参考になると私は思いました。

個人が情報収集をし、分析し、判断をするのには限界がありますからね。自分が正しいと思わずに、様々な知見・能力・経験を持つ人の意見を聞く機会があるようであれば、認知の歪みは起きにくいのはたぶんその通り。

ただ、個人に認知の歪みがあるときというのは、そもそも人からの意見に聞く耳を持たないという本人の性質があったりするので、自分が所属している組織を多様な人にする(翻って、多様な人がいる組織に自分の身を置く)というのは、そう簡単なことではないでしょうけど。

一つのやり方として、経営学でも議論されているのは面白いなと思って紹介しました。

なお、多様という観点で、先日の記事とも関係するのだけれど、性別・国籍・人種・年齢での目に見える多様性というのは組織パフォーマンスにはマイナスになる場合があるということも書かれていました。中でグループが別れて仲違いしちゃうことがあると。この解消は難しいと。

一方で、知見・能力・経験・価値観など、内面にある見えにくいものでの多様性は、組織のパフォーマンスにプラスに働きやすいらしい。知と知の組合わせが起きる。

そういう意味では、自分の認知の歪みを解消するために周りに配置する人というのは、自分と違う内面を持っている人のほうが良いかもしれません。本書ではそこまではっきりとは書いていないけど。あと、周りに配置する人というのを、パートナーとか結婚相手と見たら、あんまり違う知見・能力・経験・価値観を持っている人だと共同生活を成り立たせるのがしんどかったりするだろうけど。

以上、入山章栄さんの『世界標準の経営理論』を読みながらつらつら考えていました。最新の経営理論を自分の身近な状況に当てはめて考えるのは楽しいですね。