斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

今どき「母親が自分のためにつくってくれる食事が、一番いいに決まっている」とのたまう校長の高校が約40年間東大合格者数No.1なのだから、東大の女性比率の低さが変わることはない

タイトルは誇張してますが、実際、そんな感じだよなーと思っています。

プレジデントが読むことで有名なPresident Onlineで、開成高校の柳沢校長のほっこりする文章が掲載されていました。特にほっこりした箇所を紹介します。

18歳の一人暮らしは「風呂なし3万円」で十分だ 開成の校長が勧める「最高の育て方」 (4/4) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

今のご家庭は、お父さんが家で食事をすることが少ないこともあり、子ども中心の食事になりがちです。それならなおさら、家から出さなくてはなりません。なぜなら母親が自分のためにつくってくれる食事が、一番いいに決まっているからです。

(中略)

しかし、1人暮らしでパンツを脱ぎ捨てて出かけたら、帰るとそのままの形で部屋にぽつんと残っている。イヤですよね。冬に家に帰れば、暗くて寒い。寒さが身にしみるのです。そんなとき、シチューをつくって待っていてくれる彼女がいたら、「このまま一緒にいようか」となります。結婚が早くなるのです。

母親の食事が一番いいと言いつつ、子どもが家にいれば家事は母親がして当然としつつ、男の子は一人暮らしをすれば家事をしないから彼女に手料理を振る舞ってもらって結婚が早くなる……ということで、家から早く男の子を追い出したほうがいいとしています。

すでに紙屋高雪さんによるツッコミが入っているので、私が細かくやることは避けますが、

「風呂なし3万円」は「最高の育て方」か - 紙屋研究所

今どきこんなことを本に書いて、ネットに掲載しても問題ないと思っているのですから、プレジデントは既定路線としても、柳沢校長が自分の勤めている学校でいかに閉じた価値観で過ごしているのかと思うと、色々と考えるところがあります。

こんなことを言っていて、著書の副題に、

男の子の「自己肯定感」を高める育て方:世界を生き抜く力は思春期に伸びる!

※自己肯定感がバズワードになっている感

「世界を生き抜く力は思春期に伸びる!」「海外の学生に抜かれるのは自己肯定感が低い(意訳)」なんてことを掲げているのは何かの冗談かと思いますよね。世界を生き抜く力というのは、彼女にシチューを作らせて磨くものかと。

この開成高校という学校は、1982年からずっと東京大学への進学者数が日本でNo.1の高校です。

図録▽東大合格者数高校ランキングの推移

私にも開成高校出身の男友達というのは何人かいて、その誰もがジェンダー的に公平で、尊敬できる人たちばかりなので、校長がこんなことを言っているのは開成高校卒業生を貶めるもので、百害あって一利なしかと思います。

……と、書きつつも開成高校の校長がこういうことを言っている背景というのはある程度想像がついていて、恐らくは、現在の開成高校にいる(目指している)生徒の母親が、この柳沢校長が考えるような人が多いからだと考えられます。ターゲット向けに話しているということ。not for you/me。

この辺をもう少し説明すると、東大合格者数上位の学校は男子の中高一貫校が多数を占めていて、

図録▽東大合格者数高校ランキング

その多くを、高宮家の代々木ゼミナール傘下のSAPIXという塾の出身者が占めています。

【2019年度】サピックスの合格実績ランキング - ゴロゴロ中学受験

そして、SAPIXでは、親が積極的に宿題をチェックしないと回りません。すぐにベット入りです。

サピックスのプリントの量・親の解説について(ID:2425784) - インターエデュ

※みんな大好きインターエデュ。ベットという単語が気になる人は検索してみよう!

日本では、相変わらず男性の労働時間が長いため、結果的にSAPIXに通わせている家庭の多くは、母親が中心となって子どもの勉強を見ます。親が共働きだと厳しくて専業主婦家庭が多くなる。

というわけで、SAPIX→首都圏男子難関校→東大というルートが出来上がっているので、その最たるところである開成高校には、超熱心に子育てしてきた母親が濃縮されることになりがちです(偏見)。

勉強もそうだけど、勉強以外のことは全部母親が見るのは当然だから(じゃないと勉強に差し障りが出るから)、先の柳沢校長にとっては、最初に紹介したような母親と息子像というのは、昭和の残滓ということではなく、リアルな目の前にいる存在なわけです。ターゲット向けに話しているというのはそういうことです。

私は、「勉強したい子が勉強して認められる」という当たり前のことが許容される空間は大切だと考えているし、発達に多少偏りのある私の子どもたちにはケアが手厚い中高一貫校が向いていると思うから、中高一貫校自体を否定するつもりはまったくありませんが、

SAPIX→御三家→東大合格の"テンプレ"人間が語る中学受験と塾|Yuki|note

何というか、日本でもっとも有力な大学に最大数の生徒を送り出している学校の校長と親の価値観がこういう感じなのは、かなり残念に思っています。

未だに男尊女卑が根深い韓国の、ソウル大学でさえ女性比率が40%なのに、 

82年生まれ、キム・ジヨン

※ほっこりエピソード満載だったよ! 

東大の女性比率が20%というのは、

日本の最高峰の大学 女子学生は5人に1人だけ - The New York Times

男子中高一貫校のシェアが高すぎるというのに加えて、東大卒のぱれあなさんが次の通りかかれているように、

東大女子少ない問題とそれに伴うあれこれ - 科学と生活のイーハトーヴ

しかし、女子学生が生活の大半を送る場所として魅力的かというと、素直に推せないところがある。

 冒頭で紹介した記事でも取り上げられているように、東大女子たちはキャンパスで性差別にさらされがちだ。
 数少ない女子として持ち上げられたりからかわれたりすることも、かわいげのない東大女子として敬遠されることも、東大女子たちの居心地をよくするものではない。

 もうすっかり悪名高いものになってしまったが、東大には今でも、東大女子お断りのインカレサークルがある。

東大の中に東大女子お断りサークルがあるみたいに、まだまだ、東大において男性中心の価値観が色濃く残っているからじゃないかと踏んでいます。女性の居心地が悪い環境があるのではないか。

加えて社会には、東大含む旧帝大を卒業した女性が敬遠されがちな風土があったりもするし。医学部入試でさえも女性差別が当たり前だった。「女/嫁に学歴なんていらない」みたいなのとかもまだまだある。

日本社会を僅かずつでも多様性があるように、多くの人が生きやすいようにするという観点からも、社会を支える・変える優秀な人材を排出している開成高校のような学校の校長先生には、ぜひとも神田川的な世界観ではなく、年齢性別国籍がぐっちゃぐちゃの多様性がある世界観をご理解して教育に反映していただけないものかと、子育てをする旧帝大卒の一親としては願うばかりとして、この文章を結びます。