斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

「1年生4人はいじられていた。酷いことはしていない。Aはムスッとしていた。他3人は言われても笑っていた。」(神奈川県、「いじめの重大事態」に関する調査報告書)

ライフワークとして、企業の不祥事や児童のいじめに関する第三者委員会の調査報告書を読んでいます。

今日取り上げるのは、今年4月に公開された、神奈川県の高1男子生徒に対する野球部内のいじめ調査報告書。

県立高等学校における「いじめの重大事態」に関する調査報告書について - 神奈川県ホームページ

本当は、熊本、大阪・八尾、宮城・仙台の第三者委員会の報告書を読みたかったのですが、どれも公開を確認できなかったため、

熊本高3自殺、いじめ認定 第三者委が最終報告 SNS引き金 :日本経済新聞

「学校の対応、不十分」 大阪・八尾いじめで第三者委が報告 :日本経済新聞

仙台中2自殺、いじめが要因 第三者委が答申 :日本経済新聞

どうしたら見つけられるかなと、試しに、1年以内の"いじめ 報告書 pdf"でgoogle検索したところ上記の神奈川県の報告書がhitしたのでした。

「被害者に非があるからといった理由で」

まず、調査結果の概要を読んだんですが、ここが引っかかりました。

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調査結果の概要 p.1より

いじめ問題で、「被害者にも問題があった」というのはもはや禁句というか、その理屈出した時点でヤバいだろうと思うやつですよね。

これをわざわざ報告書で釘刺しがあるということは、調査の過程で、学校・教育委員会側が、「被害者にも問題があった」的な説明をしていたのだろうなと推測しました。で、実際、報告書を読んだらその通りだった(後述)。

「野球部内では、上級生が下級生をいじる行為も行われており」

それで、調査報告書を読んでいたのですが、いじめは氷山の一角で、ヒヤリハットというか、そもそも野球部自体が構造的問題があっただろうことを伺わせることもありました。 

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※調査報告書p.18より

上級生から下級生のいじりと、そして郊外での荷物運搬が下級生の役割であったこと。こういう階級的なものが存在していたら、そりゃいじめの一つや二つは起きます。体育会系組織あるある。タイトルで触れている通り、今回のいじめの被害者は、このいじりについて反抗したらいじめられるようになったそうです。

昨日、Twitterを見ていたら、「ハラスメントに対しては気まずさからの笑ってしまうと受け入れたと勘違いされるから笑ってはいけない」というのが流れてきたのだけれど、

集団対集団のハラスメントの場合は、自分も一緒に笑えないと一人だけ排除される(いじめられる)んですよね。私も(被害者として)経験したことがあります。

「いじめ防止委員会での「謝罪は行われているのに、なぜ収まらないのか」との発言」

調査報告書では、いじめを認定しつつ、学校・教育委員会への批判も行われています。例えば、学校が開いたいじめ防止委員会での議論について。

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誰が発言したか分からないですけど、今どきいじめが加害者から被害者への謝罪によって解決すると考えているのは、脳みそお花畑というよりホラーですね。公開謝罪では、いじめが悪化することは多くても解決することは少ない。

顧問の指導も、 

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先ほど紹介したような、上級生から下級生に対する差別構造を放っておいて、「ボールを投げるな」「(被害者である)Aを刺激するな」と、小手先の、そして、事態を悪化させる介入をしている。

たぶん、この顧問からすると、先輩が後輩をこき使う構造というのは、自分が野球部をコントロールするには都合が良かったんでしょうね。下級生が上級生の言うことを何でも聞くということは、上級生は顧問の自分の言うことを聞く構図もあっただろうから、上級生に命令するだけで、楽に指導ができる。体育会系組織あるある。

締め

今回取り上げた調査報告書では、関係する高校生の言葉がそのまま記載されていたこともあって、どんなことがきっかけで、どういう人間関係で、このいじめが起きていたか、かなり想像ができる内容でした。過去、同種の被害を経験している人は気をつけて読んでください。

調査報告書で書かれている通り、いじめは単発のいじめとして考えるのではなく継続的ないじめの可能性があるのではないかと疑うことや、いじめの背景にある組織構造上の問題に目を向けることなどは、他のいじめに対するときも同様の見立てをすることは重要だと思います。

私も子どものときのいじめで、先生主導による加害者生徒との握手(もちろん、その後、いじめは悪化)を経験していますし、私がいじめられていたのには、クラス全体の鬱屈したムードと、いじめ首謀者の加害者生徒の家庭事情などの背景もあっただろうことも記憶しています。

今でも日本中で同じような理屈で、同じようにいじめ被害者が量産されていると思われますので、あまりよく分からずにいじめに介入される方々には、ぜひ、この種の調査報告書を読んでみることをお勧めしたいところです。

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