斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

吹田市の小学校で2015年から1年半、小学校低学年の児童が複数人からいじめられ、左腓骨遠位端裂離骨折、PTSD、弱視になった件の第三者委員会調査報告書を読んだ

ライフワークとして、企業の不祥事や児童のいじめに関する第三者委員会の調査報告書を読んでいます。

今回取り上げるのは、昨日、NHKでも紹介されていた、

女児に1年半にわたるいじめ 足骨折も 学校は真剣に取り合わず | NHKニュース

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大阪の吹田市のいじめに関する報告書です。

吹田市|吹田市いじめに係る重大事態調査委員会

公表されているものは31ページぐらいなので、10数分あれば読めます。興味を持った人は直接読んでみてください。

公表されてるのは学びになって本当にありがたい。

私の感想

細かい内容は適宜抜粋して紹介しますが、私が読んで得られたものは、

  • 基本的なことだが、いじめは初期段階で気付いて潰す仕組みづくりが必要。それがないと今回みたいに長期化・深刻化しがち。死角は減らす
  • 担任から学校内でのいじめ対策組織に対して適切に情報があがる仕組みは重要
  • いじめを調査する児童へのアンケートの使い方と管理方法は教員に明確に示すこと
  • 教員のリソースも限界があるから、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーとの連携は大切
  • 事態が分かれば被害者から加害者を引き離すことを、加害者保護者にも意図を説明した上で行うべし

という感じでしょうか。

他の報告書を読んでも同様のことが書いてあるので、事例をケーススタディとして共通点を簡潔にまとめて、各学校で勉強会でも開くといいんじゃないかと思いました。

報告書からの抜粋

ここからは報告書を適宜引用しつつ、コメントしていきます。

② 平成27年度のアンケート(被害児童1年生)

被害児童は、1年生の秋ころから加害児童らにボールをぶつけられるよう
になり、家庭でも「児童Aから嫌なことをされたり、言われたりする。」と話していた。したがって、被害児童が1年生の2学期または3学期の生活アンケートでそれを訴えていた可能性もあるが(もっとも、1年時の担任はそのような記載はなかったと記憶している。)、平成27年度の生活アンケートは破棄されており、内容を確認することはできなかった。

生活アンケートについては、この後も何度も登場します。個人的には、大量の紙を保管し続けるのは無理があるので、スキャンしてデータにしておくといいんじゃないかと思いました。

次に、いじめの被害に遭った児童の傷害の内容。

5 傷害との因果関係

(1) 左足骨折等

被害児童は、平成28年3月、左腓骨遠位端裂離骨折と診断され、同年7
月には左足関節捻挫、右足打撲、同年9月には左母趾打撲の傷害を負って
いる。

加害児童らが数ヶ月にわたって被害児童の足にボールを蹴りつけ、または
投げつけていたと認められること、被害児童がボールを当てられること以外ケガの原因になるような出来事はなかったと述べていることから、被害児童の骨折その他の打撲傷は、加害児童らの行為によるものと考えられる。

(2) 心的外傷後ストレス障害(PTSD)

被害児童は、平成29年3月、心的外傷後ストレス障害の診断を受けてお
り、主治医は、一連の身体的、精神的暴行等がその原因であるとしている。

本件いじめの期間や対応に照らし、上記診断に不自然なところはなく、本
件いじめによって生じた障害であると考えられる。

(3) 両心因性視力障害

主治医によれば、明らかな視力障害の原因となる器質性疾患は認められ
ず、視力障害は心因性のものであると診断されている。他に視力障害の原因となる心的要因はないことからすれば、本件いじめによって生じた視力障害であるといえる。

(p.10)

骨折といっても色々種類があるわけで、左腓骨遠位端裂離骨折だったそうです。その程度ならボールでぶつけられてもなるかもしれない。いじめで視力障害になるというのは、言われてみれば確かにという感じ。

あとは、いじめが深刻化した背景の一つとして、

加害児童らは、被害児童のきょうだいに対しても暴言、暴力等の行為を行
っているが、きょうだいを担当する教員は適切な指導ができず、それらの行為が放任されていた。そのため加害児童らによるきょうだいに対するいじめ行為は継続された。これにより、加害児童らは、被害児童をいじめるにあたって、「しゃべったらきょうだいをなぐるぞ」等の口止めを行うことが可能となった。

(p.11)

被害者児童のきょうだいもいじめられていて、加害者児童がそれを利用して、被害者児童をいじめていたこと。この辺の理路はどうやって覚えたか分かりませんが、やり方をよく分かっている。

いじめが発覚したのは、被害者児童が保護者に訴えたことによるものなんですが、

被害児童の母によると、当初、被害児童は、母からどんなことを言われたのか聞かれても黙っているままで、話すことが難しい様子であった。そこで、母が文字で書いてみることを促すと、被害児童は、一つの事実につき10分ほどかけて少しずつ母に伝えることができた。

(p.13)

口では言えなかったけれど、紙には書けたというもの。これは自分が育児をする上でも子ども相手に意識してもいいかもと思いました。もちろん、子どもが考えていることを文字にして書ける前提で。

あと、いじめが分かった後の担任の対応として、

この時、担任は、「いじめのようなことがあったのは知らなかった。」と述べている。また、被害児童保護者が担任に「加害児童と座席を離してほしい。」と要望したところ、担任は、「今、被害児童と加害児童の座席は隣ではない。」と答えたが、実際は、被害児童は加害児童 A と通路を挟んで隣の座席であった。

(p.13)

これはかなりのやらかしですね。どうやら班も同じだったらしい。大丈夫か、当時の担任。

そして、すべてが発覚した後の教育委員会の対応。

また、同月21日頃、市教育委員会指導室担当参事が代理人弁護士の事務
所に赴き、「吹田市いじめ不登校虐待防止委員会」の調査の中間的な報告書を提出した。その時点でも、教育委員会においては第三者委員会の立ち上げについて結論が出ていなかった。代理人弁護士によると、同参事は、本 件が「重大事態」にあたると認識していると述べつつ、「現時点では第三者委員会を立ち上げる必要はないとの結論であると受け取っていただいてかまわない。」と発言したとのことである。また、その理由として、同参事は、「子どもたちの記憶が薄れており、もはや実体解明は難しい」ことをあげたとのことである。

(p.16)

重大事態にあたると分かっていても、子どもたちの記憶が薄れているから第三者委員会を立ち上げないというのは説明としてヤバい。

もう終わりますが、細かな内容を読みたくない人は、p.17からの『第4章 調査から見えてきた問題点』を読むといいです。まだちょっとだけ続きます。

そして、加害者対応については、

本件は、いじめ行為が重大な行為にまでエスカレートしており、まだ幼い被害児童が受けた心身のダメージは深刻である。このことからすれば、被害児童の心のケアが何より優先される必要がある。そのため、加害児童らには、物理的に視界に入らないようにすることが中長期的に求められる。
学校はこのことを加害児童保護者に丁寧に説明して、十分な理解を得る必
要がある。このような説明は一回では足りず、配慮を求める場面が生じるたびごとに繰り返し行う必要がある。

ところが、本件においては、学校は加害児童側に、被害児童の状況や行動
制限の必要性について十分な説明を行うことなく、指定外就学や行動制限を提案した。加害児童保護者らは、その必要性を十分に理解しないまま、「加害者である以上、仕方がない。」という受け止めに止まった。このことは、加害児童らが本件について内省を深めて、立ち直ることの阻害要因となりかねない。

(p.20)

被害者ケアのために加害者を引き離す必要があることを学校側は十分に説明していなかったらしい。これはよくない。たぶん、学校側は加害者への罰のため行うものと考えていたんじゃないだろうか。

最後のまとめ

報告書の最後は、この文章から始まります。

繰り返すが、本件は被害児童が重篤ないじめ被害を長期間にわたって受け続けていて、それに対して SOS を出していたにもかかわらず、学校がこのことに全く気づくことなく、いじめの長期化と深刻化を招いた事案であった。

残念ながら、学校及び教育委員会は、その責任を加害児童やその保護者の
みに押しつけている印象があり、当該小学校及び市教育委員会に重大な責任があることを自覚しているのか否かについて、当委員会としては疑問を持たざるを得なかった。

(p.31)

第三者委員会がまとめた資料で、この結論ですから、当然ではあるものの、私も同様の印象を受けました。

いじめは加害者だけに問題があるのではなく、いじめに気付けない・気付いても適切な対応ができない仕組みにも問題があるというのは、共通認識として広がるといいですね。その意味で、適宜、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーのリソースを使うことも大切。教師は忙しすぎるから。