中室牧子さんの『「原因と結果」の経済学』を読みました。
中室牧子さんといえば、話題になった『「学力」の経済学』が有名かと思います。
この本は、タイトルは二番煎じなところがあり、内容も「エビデンスベースで物を考えましょう」というところは共通です。テーマとして扱っているものも学力に絡むものが含まれています。
『「学力」の経済学』との違い
違いは、物事の因果関係を明らかにする学問である「因果推論」を丁寧に説明していること、扱っているテーマに医療が含まれていることです。メタボ健診と長寿の関係、男性医師と女性医師の比較などですね。こちらは、共著者である津川友介さんが担当しているようです。
津川友介さんのブログ:医療政策学×医療経済学 – Health Policy X Health Economics
因果関係を意識して効率的に生きる
「因果推論」という言葉だけだと難しく感じるでしょうけど「風が吹けば桶屋が儲かるのは本当か?」を分析するということです。
人生で何かを選択するときは、多くの場合は因果関係が前提にあります。良い収入が得られる(結果)から良い大学に進学する(原因)とか、肌を焼かない(結果)ために日焼け止めを塗る(原因)とか。
だけど、時には因果関係がない、因果関係が確認されていないのに、さも因果関係があると考えて行動してしまうことがあります。たとえば、視力の回復をしたい(結果)からブルーベリーエキスを食べる(原因)とかですね。有名な疑似科学です。
ブルーベリーエキス | 疑似科学とされるものの科学性評定サイト
ある結果をしたくて行動をしたのに、その結果が思ったように得られなければ、その選択は、時間やお金や意志という人生の大切なリソースの無駄となります。因果関係に基いて行動することで、人生の限られたリソースを有効に活用することができます。
この本は、もっぱら政策提言をしていますが、個人が物事を選択するときの考え方を習得するという観点でも有効だと思いました。
他人に「トンデモ」を無理強いする悲劇
まあ、人生、何が何でも省エネ、高効率!と考えて生きていくのもつまらないですし、自己責任で無駄をするのも全然ありですけど、それを他人(家族含む)に無理強いするようになると時に悲劇が起こります。
「トンデモ」健康情報で家庭が崩壊した男性が語る、元妻の「変化」
因果関係がないことにお金や時間を使う(原因)ことで、お金や時間がなくなる(結果)というのは、特に検証するまでもないですね。
他人が自分に推奨することに因果関係があるかを常に確認するのは、それはそれで息苦しいところはあります。「旅行に佐賀に行こう!」という勧誘に「佐賀に行くことで私たちは本当に幸福感を得られるエビデンスはあるのか?」と問われたら、別れを検討してもおかしくない(笑)
締め
この本の『おわりに』でこんなことが書かれています。
ハーバード大学で行われたオバマケアに関するシンポジウムで、聴衆の一人であったジャーナリストが、オバマケアは医療制度の改悪ではないかと示唆しました。理由は、自分の知り合いがオバマケアで保険料が上がって困っているから。
それに対し、MITの医療経済学者であり、オバマケアの設計にも関わった、ジョナサン・グルーバーが答えたのは、
「個人の経験談の寄せ集めはデータではなく、エビデンスでもありません。われわれはきちんとデータをデータを集めており、オバマケアの効果を検証しています。(中略)人によっては残念ながら保険料が上がって損しているかもしれませんが、そういった個々の話に惑わされずに、データを用いて全体像を見るようにしてください」
(p.185-186)
というものだったそうです。
政策の視点で見ればそうですよね。でも、個々人は自分がまさに置かれた状況が大切ですし、自分が政策によって困る部分があるなら、それを主張するのはおかしなことではありません。オバマケアも問題が確認されたようで修正がされようとしていますよね。
人生の何でもかんでもにエビデンスを求めるのは息苦しいけれど、「水素水を飲んで健康になった!」みたいな個人の主観を大切にしすぎると、それはそれで人生の貴重なリソースを失うことになります。
エビデンスに基づく思考は身につくまでにちょっと時間がかかるので、主観も大事だけれど、そちらを意識するのは意味があります。特に、自分と全然接点のない人の説得にはエビデンスは基本ですよね!