斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

選ばれるのは結局何も出来ないお嬢様なのか~失恋ショコラティエ、サエコの人を落とすテクニック~

失恋ショコラティエの感想です。ストーリーに関わるネタバレがありますのでご注意下さい。   

失恋ショコラティエ 9 (フラワーコミックスアルファ)

失恋ショコラティエ 9 (フラワーコミックスアルファ)

 

※最終巻

 

こんな依頼がありました

こんな依頼がありました。

id:namae3434

おつかれさまでした!毎週楽しみにしてた、みんなあのチョコバー大きいと思ってたんだな笑ぜひトピシュ先生id:topisyuのサエコの存在よ解説とか、漫画版とドラマ版の感想とか比較なんかも読んでみたいのでお願いします

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これはとあるブログへのid:namae3434さんの感想コメントなのですが、どうやらtopisyuに失恋ショコラティエについて語って欲しいということのようです。

 

topisyuは失恋ショコラティエは漫画から入り、漫画版の1~7巻まで読んでいる状態です。ドラマについては、1話と最終話しか見ていません。以下失恋ショコラティエについて色々と書きますが、その前提であることご容赦下さい。

 

失恋ショコラティエとは

失恋ショコラティエの漫画は、毎回かなり腹を立てながら読んでいました。とにかく、主要登場人物全員にイライラします。共感できるポイントがかけらもない。

 

まず、主人公の爽太くん。高校時代の憧れの先輩であるサエコさんのためにフランスで修行しショコラティエになり、日本に帰国後チョコレート専門店『ショコラヴィ』を開きます。名前には、爽やかという文字が入っていますが、まったく爽やかなところがない、ウジウジした人間です。ずっと、「サエコさんは自分のことどう考えているのか」を自分だけではなく、公私構わず周りに問いかけ続ける、同じ職場にいたら大変面倒くさい男です。

 

続いて、その憧れの女性であるサエコさん。愛され系を自ら演出するタイプで、その女子力の高さから、非常に仕事のできそうな出版社勤務の旦那と結婚する専業主婦。ただ、旦那の仕事のストレスのはけ口になるのが耐えられなくなり、ショコラティエとして成功しつつある爽太に食指を伸ばす。仕事中の爽太に対して思わせぶりというか、直球どまんなかのお誘いを毎回仕掛ける、これも実際に客としていたら大変面倒な類の生き物。

 

そして、爽太の"セフレ"であるところのエレナ。売り出し中のモデルです。エレナは、他に好きな男性がいるのですが、告白できず、心の隙間を埋めるために爽太と付き合います。そしたら、いつの間にか、爽太が好きになってしまいます。何なんですかね。

 

最後に、爽太の店で働く薫子さん(32歳)。年下の爽太をショコラティエとして尊敬しつつも、爽太がいつも「サエコさん」「サエコさん」と職場で呟き続けるのに苛立ちを隠せず、つい窘めてしまう、この漫画の良心です。ただ、恋愛に奥手であるため、爽太のようなストーカー気質の自己中心的な人間を好きになってしまっているのが玉に瑕です。

 

以上が、主要キャラクターで、他のキャラクターは、職場で爽太が落ち込んでいると「サエコと何かあった?」と問いかける簡単な仕事をするだけのフランス人男性や、それとくっついたり離れたりする爽太の妹や(この娘もまた酷い)、ライバル店のオーナーでゲイで常識のあるリクドーさんなどが登場します。

 

話としては、爽太がサエコとくっつきそうでくっつかず、そのうちに"セフレ"であるエレナとくっついちゃって、それに薫子さんがモヤモヤというのをずーーーーーーーーーっと繰り広げます。爽太はショコラティエとしては成功しますが、この間人間的には一切成長しません。

 

失恋ショコラティエの楽しさ

こう書くとどうして見ていたのか疑問に思う方もいらっしゃるでしょうが、それでも失恋ショコラティエを見続けたのは、パートナーとどこが突っ込みどころか話すのが楽しかったからです。

 

この作品、爽太、サエコ、エレナ、薫子のうち、誰が一番腹が立つかが結構別れるところがあり、人とイライラポイントを話してみると、観点が違うことに気付けるんですね。そういう感想戦を楽しむことこそが、自分にとってのこの作品の醍醐味でした。

 

漫画版とドラマ版の違い

先日無事終わったドラマ版については、爽太の妄想の中で妖精として登場するサエコの不愉快さと、石原さとみさんが演じるリアルなサエコの甘えた演技の不愉快さから、あまりに腹が立ち、姑のテレビ(我が家にはテレビがないので姑にお願いしてテレビを見させてもらっています)を叩き壊しそうになったので、一話と最終話しか見ていません。

 

このため、違いについて多くは語れませんが、ほぼ原作に忠実な仕上がりだったのではないかと思います。違いとしては、石原さとみさん演じるサエコが可愛すぎるところ(漫画では普通よりちょっと可愛いという程度の設定)、爽太の父親役として登場する竹中直人さんが存在感がありすぎるところでしょうか。

 

選ばれるのは結局何も出来ないお嬢様なのか

ここからは盛大なネタバレになるので、作品を読んでからのほうがよろしいかと思います。

 

 

 

それで、漫画の終盤である7巻(8巻が最終巻で5月頃?発売予定)で、結局、爽太は、自分を好きになっているエレナの気持ちを思いっきりスルーして、薫子さんなどは眼中になく、旦那のDVから逃げてきたサエコさんとベッドインを果たします。

 

ほんわか系のサエコとくっつく爽太を見て、「選ばれるのは結局何も出来ないお嬢様なのか」と、大黒摩季さんの『夏が来る』がリフレインした方もいらっしゃったかと思います。

 

最近のはてな匿名ダイアリーでもちょうどこんな話題がありました。

派手に遊んでいた男友達がほんわか系女子に落ち着いた時のがっかり感

30代になり次々と友人達が結婚していくなか、今まで女関係が派手だった男友達の中にも結婚を決めた人が何人か出てきた。

総じて今まで付き合っていたタイプとは程遠い、可愛くて清楚で甘えん坊でほんわかしている正統派中の正統派に落ち着いた。

これまでは容姿のレベルの高さはもちろん、仕事ぶりや頭の回転の早さ、家事能力など全てにおいて高レベルを求め、専業主婦志望の女なんかと一緒にいたらこっちまで腐りそうだ・自立している女がいいと豪語してたくらいの彼らがこぞって専業主婦志望のほんわか正統派女子に落ち着いてしまった。

「おめでとう!お前も丸くなったな」とか茶化しながら内心すごくがっかりする。

ドラマでも観るかのように「いやー流石だわ」という結末を勝手に期待していただけだが、ほんわか正統派に落ち着いたという点に、彼らが今まで隠していた弱い部分をなんとなく感じてしまって、それまでに受けた相談や巻き込まれた面倒くさい人間関係がすごく無駄だったように思えてならない。

まあ、男の人みんなほんわか正統派が好きだと言ってしまえばそれまでなんだけど。

失恋ショコラティエの展開は、正にこれで、お互い補完関係があり、高め合うことができるモデルのエレナではなく、ほんわか正統派の専業主婦のサエコを選ぶ爽太。

 

人を落とす術を極めたサエコ

でも、恋愛ショコラティエをよくよく読んでいた方であれば、サエコが本当にただのほんわか系女子でないことはご存知のはずです。

 

例えば、これは単行本7巻で、夫から逃げてきて『ショコラヴィ』の控室で爽太とベッドインし、その後甲斐甲斐しくトイレ掃除をしているところに、薫子さんの差金により爽太の父親が登場するシーン(ご覧のように漫画では父親は地味キャラです)。

 

ここでのサエコの立ち居振る舞いの完璧さを見て下さい。

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※画像は失恋ショコラティエ 7 (フラワーコミックスアルファ)巻から

サエコはいつもほんわか系のゆったり服を着ているので、立ち上がってしまうと袖が下りてきてしまうんですね。それを夫からのDVが分かるように、指輪をつけた左手で止める。そして見えるアザ。見せパンならぬ見せアザです。

 

ドラマを見ていたパートナーは意図的に見せていたようには見えなかったということですが、漫画ではアザを爽太父に見せるカットがもう一つ入ってきまして、これは、もう狙っているものだとtopisyuは思いました。

 

そして、これも同じく7巻でサエコによる薫子への恋愛講座のシーン。

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※画像は失恋ショコラティエ 7 (フラワーコミックスアルファ)巻から

薫子が、リクドーの下で働くちょっといい感じの若者から送られてきた4文字だけのメールの返しをどうするのか、気付いたらサエコに相談しています。サエコは薫子のプライドの高さを見透かした上で、まるで詰将棋のような的確な回答を出します。自分を好いてくれる人間を侍らしていて何が問題があるのか、好いてくれるなら自分のために動いてくれるのではないか、そういった人が自らの糧になり現状で最良の場所(相手)に辿り着けるのではないか、などなど。

 

これらを聞き、薫子は、

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※画像は失恋ショコラティエ 7 (フラワーコミックスアルファ)巻から

「恋愛ではこいつには敵わない」と死んだ目をしながら確信します。

 

この恋愛講座で、サエコはただのバカな妖精ではないことが読者に伝わります。人を落とすテクニックを極めた剛の者であると。(サエコは友達との付き合い方も完璧で、友達の前では旦那の愚痴を言い続けているんですよね。)

 

先ほどのはてな匿名ダイアリーでもこんなブックマークコメントが人気になっていました。 

id:ohnosakiko

なんか男性の方の意思や振舞いだけで決まったかのようだが、その「ほんわか系正統派」の専業志向女性の方がそうじゃない女性より、ずっと結婚に賭けるエネルギーも相手をコントロールする力も大きかった可能性は?

はてなブックマーク - ohnosakikoのブックマーク - 2014年3月29日

ほんわか系正統派は相手をコントロールする力が大きかったのではないかという指摘です。

 

結局、ドラマの最後では、サエコは旦那の子供を妊娠していることが分かり、さっくり爽太を振り、旦那の元に帰ります。状況判断力に優れたサエコが、日本の結婚制度に無知で「三人で一緒に暮らそう」と適当なことを言う爽太を選ぶはずがない。爽太は旦那のDVから一時的に逃れるための避難所だったわけですね。

 

サエコの家出に疲労困憊になり、サエコがまるで意図したような爽太との会話によりDVを反省している旦那であれば、子供が生まれたらさすがに手を出すことはないだろうとサエコは考えた。

 

漫画で同じ展開になるかはまだ読んでいないので分かりませんが、漫画のサエコでも同じような判断をするのではないでしょうか。人を落とし、場を支配し、自らにとって最良の選択肢を取る。

 

サエコの生き様を見るのがこの作品の核だったのだなと、7巻を読んでいて思いました。

 

以上、失恋ショコラティエの感想です。以下、余談です。

 

 

 

 

余談

依頼された方が触れられていた、id:osiri5さんのBlogはこちらです。

失恋ショコラティエに腹を立てている。 - 尻上がり
失恋ショコラティエ 爽太のクズっぷりが光る6話の感想 - 尻上がり
失恋ショコラティエ7話の感想。今週も安定のクズ。 - 尻上がり
失恋ショコラティエ8話の感想。節水にご協力を。 - 尻上がり
失恋ショコラティエ9話の感想。リクドーさんマジ女神。 - 尻上がり
失恋ショコラティエ10話。薫子とサエコの友情篇 - 尻上がり
失恋ショコラティエ11話。ついに最終回!!クソータの結末はいかに!? - 尻上がり

爽太のダメさ加減と周りの非常識な連中を爽快に切ってくれる素晴らしいレビューで、これを読めば失恋ショコラティエに対するイライラがかなりの部分解消されます。ぜひドラマとセットで読んでみて下さい。

 

このレビューの中で、

失恋ショコラティエ8話の感想。節水にご協力を。 - 尻上がり

・「サエコさんにキスしたらそのまま逃げられた。俺のことどう思ってるのかな?」っていう相談を、失恋したら付き合おうとしているセフレに相談する爽太。

その神経の図太さハンパないっすね!!
そんな悩みは発言小町にでも相談してろ。
相談して奥様方にボロカスに叩かれろ。

こんな記述がありますが、本当にその通りで、小町に相談したらフルボッコ間違いないですよね。

 

ピッタリのトピは見つけられませんでしたが、ちょっと面白いのがあったので紹介しておきます。

私は、何も出来ないお嬢様でしょうか? : 恋愛・結婚・離婚 : 発言小町 : 大手小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

終盤、新婦ご友人代表からスピーチがあり、新婦がいつもカラオケで歌う曲に

どんなに努力したって、良いとこ持ってくのは何も出来ないお嬢様というような歌詞があるらしいです。

実は私はゼミ時代、先輩方が出席実績のない学会で発表者として声が掛かったり
教授から個別にお土産を頂いたりしていました。

また、発表等の実績から奨学金の返済免除となっています。
この事を、数か月前の飲み会で話してしまいました…。

これが新婦の勘に触ったことが原因だと思うのです。
私は、何も出来ないお嬢様だと思われているのでしょうか。

友人代表のスピーチで出てくる何にも知らないお嬢様は実は自分のことではないかと悩むトピ主まっきーに対して、もろこしさんのレスです。

歌は関係ないでしょ もろこし 2012年8月19日 14:42

歌詞が自分を指していると考えているとしたらそれはただの自意識過剰です
なんでわざわざあなたのために歌を歌わなきゃならないんですか

 

で、答えはもっと簡単で、主さんが新婦さんに嫌われているだけでしょ
多分、奨学金やお土産の件だけでなく、もともとあなたには新婦さんから嫌われる要素が備わっている気がします

ばっさり切っています。身も蓋もないコメントですが、自らを何にも知らないお嬢様と言いつつ、何でも知っているかのように新婦を貶めるトピ主ですから、小町でやってしまったら、こういうレスが来るのは致し方ありません。

 

脳内ポイズンベリーもお勧め

なお、水城せとなさんの現在Cocohanaで連載中の『脳内ポイズンベリー』は薫子さんキャラである主人公が悶々とし続ける漫画として、こちらもお勧めです。個人的には、こちらの方がイライラするキャラクターが一人しかおらず(主人公)、その主人公の判断がいかに誤っているかが丁寧に描写されており、より感情移入しやすいのではないかと思います。

脳内ポイズンベリー 1 (クイーンズコミックス)

脳内ポイズンベリー 1 (クイーンズコミックス)

 
脳内ポイズンベリー 2 (クイーンズコミックス)

脳内ポイズンベリー 2 (クイーンズコミックス)

 
脳内ポイズンベリー 3 (クイーンズコミックス)

脳内ポイズンベリー 3 (クイーンズコミックス)

 
脳内ポイズンベリー 4 (クイーンズコミックス)

脳内ポイズンベリー 4 (クイーンズコミックス)