斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

詰問の「なぜ!?」は成長の芽を潰す

この記事を読みました。

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 一方で疑うと能力は下がります。悪意を持った人に出会うと人は自分を隠そうとします。それ以上、粗を探されないようにするためです。突然ボールが飛んできた時に思わず体を丸めて守るのと同じことです。そうすると、体が固まってしまいますから、動きが遅くなる。リラックスした状態でなければ、本当の力は発揮できません。

叱られるのと褒められるのとではどちらが伸びるかを塾の先生が語られています。こんなことは分かっている、もちろん褒めた方がいいとは頭の中では考えていても、ついつい口から出るのは叱咤の言葉という人もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

特に、言ってしまいがちなのが、「なぜでできないの!?」「なぜ○○したの!?」という、詰問口調の質問。この詰問がどれだけ相手に良くない影響を与えるのかというのと、どうしたらこの詰問をしないで済ませるかを考えてみたのがこの記事です。

 

目新しい話ではありません。 

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詰問の「なぜ!?」で相手は萎縮する

詰問の「なぜ!?」というのは、例のあれです。怒りながら、相手の不出来をなじるときに使う言葉です。

 

これを初めて聞いた受け手はこう考えます。「なぜと聞いているのだから質問なのだろう。では、理由を素直に答えてみよう」と、そして、例えば、「なぜ遅刻をしたの?」であれば「寝坊したから」と答えます。

 

そうすると、詰問の「なぜ!?」をした話し手は、「そんなの理由にならない!」と大体その回答を潰しにかかります。受け手は混乱します。理由を聞かれたのに理由を素直に説明したら怒られた。何を言ったらいいか分からなくなる。

 

これを一度経験した受け手が次に同じように詰問の「なぜ!?」を言われたとします。今度は、話し手が理由を聞いているのではないと知っていますから、どうしたら話し手が許してくれるか受け手は考えます。「ごめんなさい。遅刻するつもりはなかったんです」ととりあえず謝ってみる。

 

でも、これに対しても、話し手は、「謝れと言ってるんじゃない。理由を聞いているんだ」と詰めてきます。理由を言ったら怒られるのは分かっていますから、受け手は今度は本当に途方に暮れる。

 

こうして、「なぜ!?」を言われて、何も言い返せない人が出来上がります。「なぜ後片付けしないの!?」「なぜ勉強しないの!?」「なぜ言ったことを覚えないの!?」「なぜこんなミスをしたの!?」「なぜ!?」「なぜ!?」「なぜ!?」……何を言われても無言。ひたすらサンドバック状態です。

 

何も言い返せない人は、重症になると、「なぜ!?」という詰問をする話し手以外の人がする、シンプルな質問に対しても答えられなくなります。文脈を一所懸命考えて、どうしたら相手が怒らないかだけを考えるようになる。そこには自分の意見はない。

 

そういう存在を自らの手で作り出したいならまだしも、自ら動いてくれる戦力となる部下を作りたい、自分の手から離れても生きていける子供になってほしいと考えているのであれば、詰問の「なぜ!?」はやってはいけない。

 

なぜ「なぜ!?」をやってしまうのか?

詰問の「なぜ!?」をしている当の本人は、それを指摘されると自分でも良くないことをやっていることは分かります。それでも、なかなか直せない。なぜ「なぜ!?」をやってしまうのでしょうか。

 

  • 詰問することでストレスを解消

まずあるのはストレス解消です。「なぜ!?」で詰問し、その質問に対してどんな回答が来ても潰すのは凄く気分が晴れるんですよね。過ちを犯した人間に対して、どうしても腹が立つ。

 

食事の準備をしなければならない時に玩具をぶち撒ける子供。明日までに仕上げなければいけないプレゼンがあるのに必要なデータを揃えていなかった部下。

 

悪いのは彼ら。自分の思い通りにならないことが、スケジュールが崩れることが猛烈に腹が立つ。頭に血が上り、どうしてもこれを何とかしないと先に進めない。そこで「なぜ!?」で詰問してしまう。

 

  • 他のやり方をしらない

自分は叱られて育てられてきた、詰問する以外で人を説得する方法を知らないということもあります。親や上司がやってきたことと同じことをしているだけで、変えろと言われても変える選択肢が思い浮かばない。

 

  • 自分は理由を聞いているつもり

詰問の「なぜ!?」のつもりはなく、自分は質問をちゃんと聞いているという認識の時もあるでしょう。でも、その「なぜ!?」は、怒鳴りながら、眉間に皺を寄せながらのもの。受け手は萎縮します。

 

「なぜ!?」はチャンスでもある

こういう状況になった時にどう対処するか。「なぜ!?」が一回で済めばまだしもこれが何度も繰り返されているなら、長期的な視点に立つのと、自分の指示の不明確さ、チェック体制を考え直す。

 

詰問をしてしまうことで相手の成長が阻害されたら、ミスをする確率、自分に対して情報を伝えなくなる可能性が高まります。「なぜ……!?」と詰問をしたくなったら、長期的な視点で自分が楽になることを考える。「これで詰問してしまっては、永遠にこの不快な思いを繰り返すことになる……」これだけで、口調が柔らかくなります。

 

また、ミスをする原因についても、指示を出す自分、上位者の自分の方がよく分かっているはずです。食事前に玩具をぶち撒けるのはお腹が空いてイライラしているからか、単にぶち撒けることが今楽しいだけなのか。理由を考えてみる。言語が通じないならぶち撒けないための仕組みを作る、言語が通じるならぶち撒けるとどれだけ困るか、ちゃんと料理ができたら見てあげることを伝える。

 

詰問の「なぜ!?」が思い浮かぶのは、考えようによっては、改善のチャンスとも言えます。自分自身が何に対して不満を抱えがちであるかが分かったり、相手に期待していることが明確になる。

 

一方的な詰問の「なぜ!?」を繰り出して、泥仕合になったり、相手を木偶の坊にしてしまっては、自分自身も混沌の沼地から脱出することはできなくなります。こうしたら、同じことを繰り返さないで済むかもしれないと相手と一緒になってやり方を変えていく。気付いたらストレス源をぷちぷち潰していく快感に目覚めているのではないでしょうか。

 

締め

こう書いてはみたものの、そう簡単な話ではないことは分かっています。そもそも言っている方が自覚的であることは少ないですから。言われた方はもちろんその指摘もできないですし。

 

周りの人間は気付いたら柔らかく指摘してあげるといいんですけどね。それ以外の選択肢はないと考えている人が多いと思いますから、伝え方がこれが結構難しいんですが。

 

短期的には叱る方が楽ですしね。人を育てるのは長期的な観点となるのに、それを経験している人は少ないから、ノウハウも得られない。成功体験が乏しい。

 

難しいことですが、相手の目線に立って見える景色を想像しようと努力するということが必要なのだと思います。

 

参考

【理不尽な詰問】 例えば、遅刻した時。 上司などに対して失態を.. - 人力検索はてな