斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

私が、藤本タツキ『妹の姉』をそこそこ楽しめたのは少年ジャンプ+で『ファイアパンチ』を読んでいたのはありそう

現在、雑誌の少年ジャンプで『チェーンソーマン』を連載している藤本タツキさんが、少年ジャンプ+というジャンプのネット媒体で読切作品を掲載していました。

妹の姉 - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+

内容は、美術高校に通う姉妹の話です。アフタヌーン四季賞作品っぽいところがありつつ、藤本タツキさんらしい気持ち悪いところもあったので、私もそこそこは楽しんだものの万人にウケるとは思いませんでしたが、かなりネットで話題になっていました。

この作品について、「女児の体を晒している児童ポルノではないか」「男女逆には描けなかった作品」という批判がありました。

藤本タツキ『妹の姉』の問題点 - ろくの日記

この漫画の作者・これを全年齢向けで注釈なく掲載した出版社・手放しで絶賛してる方々、全員この深刻さを理解していないのだ。

(中略)

『弟の兄』を描けなかったこと、
これを男ではなく女で描いたこと、の意味を今一度考えてもらいたい。

こういう批判があるのは理解できるところがあります。まあ、問題作ですよね。そもそも、どんな作品でもどんな風に批判はしていいものですし(また、その批判への批判をしてもいい)、本作は特にツッコミどころが多いですし。

この批判についてはここまでで、そういう問題作を"私もそこそこは楽しんだ"というか、そこそこは楽しめたのは何かなというのを考えてみました。ここまでの拒絶反応を示される作品をどうして自分は楽しめたのか。

注:ここから先は自分の感覚の言語化です。それ以上でもそれ以下でもありません。

たぶん、それは、少年ジャンプ+という媒体と、藤本タツキさんの作風と、リアルタイムで『ファイアパンチ』を読んでいたというのが大きいと思います。

少年ジャンプ+という媒体

まず、少年ジャンプ+という媒体は、インターネットというか、スマホで読むのに特化しており、編集部としては購読者層は雑誌と必ずしも被っていない、年齢は20代以降も、性別も女性も対象にしているようで、作品はかなり多岐に渡っています。

マンガ大賞2019を受賞したSF作品の『彼方のアストラ』(全5巻)や、

彼方のアストラ 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

彼方のアストラ 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

私が大大大好きな『青のフラッグ』(既刊5巻)も連載作品です。 

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

  • 作者: KAITO
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/04/04
  • メディア: Kindle版
 

どちらも少年ジャンプ本誌であれば掲載されていたか怪しい作品です。『彼方のアストラ』はちゃんとしたSFで、短すぎる。『青のフラッグ』はLGBTを扱いつつ、繊細な人々の感情の変化を丁寧に扱っているため、メジャーっぽくはない。読者を限定している。

だから、『妹の姉』も、紙媒体のジャンプ系列誌ではなく、あえてネットの少年ジャンプ+で掲載された作品ということで読み始めました。現役のジャンプ連載作家の作品が少年ジャンプ+で掲載されているのだから、少年ジャンプ+でしか掲載できない内容なんだろうな、メジャー作品ではないんだろうなと考えました。

藤本タツキの作風と『ファイアパンチ』

そして、私が藤本タツキさんの作風を知っていて、『ファイアパンチ』をリアルタイムで読んでいたことについて。

まず、現在少年ジャンプで連載されている、藤本タツキさんの『チェーンソーマン』はこんな導入から始まります。

f:id:topisyu:20190503080405p:plain

[第1話]チェンソーマン - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+

いきなり臓器売買からスタートです。こんな感じですから、この後もこの少年は悲惨な出来事が重なります。でも、楽しそうに生きてる。

今度は、『ファイアパンチ』です。次のコマは『ファイアパンチ』の1話から。

f:id:topisyu:20190503081214p:plain

[1話]ファイアパンチ - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+

要するに人肉食ですね。主人公の兄が再生能力があり、世の中は食糧難であるため、妹が兄の腕を切り落として村の人々にその肉を配っています。もちろん切り落とす描写もあるし、人肉を食べるシーンもあります。あとは近親相姦も扱っています。主人公は、1話で炎をまとってから作中ずっと裸です。

私は、『ファイアパンチ』を少年ジャンプ+で、2年ちょっと前から連載が終了するまでリアルタイムで読んでいました。

なので、2019年1月号から、少年ジャンプ本誌でチェーンソーマンが始まった当初は、「少年誌掲載ということもあってかファイアパンチよりパンチが効いていないな」「ファイアパンチみたいに途中でだらけてよく分からない終わり方を迎えないといいけど」と思いながら、そこそこ楽しく読み始めました。

藤本タツキさんの気持ち悪さ

ちなみに、『姉の妹』を読んで沙村広明さんっぽいと思った人が多いようですが、実際、藤本タツキさんは沙村広明さんを真似していると公言しているので、さもありなんです。

藤本タツキさんが沙村広明さんと2017年に対談したときは、

藤本タツキ×沙村広明奇跡の対談

藤本:僕、沙村先生みたいな絵が描きたくて。ということは、つまり沙村先生がお好きな作家を目指せばいいのかなと考えて。僕が沙村先生になるには何を目指したらいいですか?

沙村:(笑)。好きな作家は沢山いますが、中学校ぐらいまでは手塚治虫先生と高橋留美子先生と藤子不二雄先生ですね。高校の時に大友克洋先生の『AKIRA』を読んで、「すげえ人がいるな」と思って。あと安彦良和先生ですね。お二人ともめちゃくちゃ絵が上手くて。安彦先生が描かれる手が綺麗だったので、その頃から人間の手を綺麗に描くということをやりだしました。休み時間に自分の手をノートに描きまくっていた、気持ち悪い高校生だったんですけど(笑)。

藤本:これから僕もそうします。 

終始こんな感じです。沙村広明さんの"(笑)"がすべて"(苦笑)"に見えるぐらい、藤本タツキさんが気持ち悪いアプローチをし続けている。

藤本タツキさんはもともとギャグ漫画畑でもあるので、あえて、ギャグっぽくインタビューに答えていると割り引くといいかもしれないけれど、作品そのままの気持ち悪いキャラクターに私は大変好感を持ちました。

だから私は『妹の姉』をそこそこ楽しめた

そんなわけで、私は『妹の姉』をそこそこ楽しめたんじゃないかなと思っています。

作品単体としての面白さはあるけど、前提として、「少年ジャンプ+掲載作品だからな」「『ファイアパンチ』と『チェーンソーマン』の藤本タツキだからな」と思って読み始めているから、多少のおかしな表現は許容できていた。

ちなみに、少年ジャンプ+では、男子高校生の裸が描かれた作品も掲載されていて、

[第一羽]剥き出しの白鳥 - 鳩胸つるん | 少年ジャンプ+

露出狂の男子高校生の話です。露出狂をポジティブに扱うだけでアウトだと思いましたが、ギャグ漫画としてよく出来ていたからか、毎話の少年ジャンプ+のコメント欄もまったく炎上する気配がなく、性別問わず楽しまれていたように思います(ジャンプ+では面白くない漫画のコメント欄は炎上します)。

あとは、GW中に、テニスの王子様の番外編が掲載されていて、ここでも男子高校生の裸がコミカルに掲載されていました。

テニスの王子様 次期部長番外編 - 許斐剛 | 少年ジャンプ+

個人的には、腐女子向けということにすれば男の裸は何でもOKみたいなやり口は好ましいとは思いませんが、Twitterでは何の議論にならずに完全に好意的に受け止められていました。テニスの王子様のファン層からすると許容できるんでしょう。

テニスの王子様 次期部長番外編 - Twitter Search

ちなみにちなみに、少年ジャンプ+では、西義之さんの『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』の続編も掲載されています。

[第1条]ムヒョとロージーの魔法律相談事務所[魔属魔具師編] - 西義之 | 少年ジャンプ+

略称ムヒョロジは、ジャンプ本誌に掲載されているときから大好きだったので、少年ジャンプ+で復活してくれたのはとても嬉しかった。

あと、地獄楽も面白いよ!

[第壱話]地獄楽 - 賀来ゆうじ | 少年ジャンプ+

以上、自分の受け止め方の言語化と、ちょっとした少年ジャンプ+の宣伝でした。

ゾーニングという観点では、少年ジャンプ+で掲載されているという時点で区分がされているけれど、本来届かない層にまで届くとネガティブな反応が増えるというのは、昔からずっと言われ続けていることですね。

そんなこともあり、読み手を限定した『妹の姉』の姉の裸と、テレビで流される『ドラえもん』のしずかちゃんの裸は、同列に批判できるものとは思っていません。

追記

『姉の妹』はもとはジャンプスクエアで読切していたらしい。さすが、ワールドトリガーが連載されているジャンプスクエア! エッジが立ってる!!

ということで、ジャンプの紙の媒体に掲載できる作品ではなかった云々は私の認識不足でした。すいません!

ちなみに、反省のために当時話題になっていたか検索していたら、地獄楽の賀来ゆうじさんが絶賛しているのを見つけました。

世代が近いのかもしれないけれど、同じ媒体で描いてたもの同士がこうやって仲良く切磋琢磨しているのを眺めるのは私は大好きです。