斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

60年間の莫大なデータを使って「思春期に興味や好奇心を大切にしていると、年を取ってからも人生の満足度が高い」と導き出した研究

私は今凄く幸せで、そして幸せだという気持ちはもう20年ぐらい維持され続けています。パートナーにも子どもたちにも「あなたたちとの生活は凄く幸せ」と毎時伝え続けて気味悪がられているぐらいです。

無加水鍋で煮た野菜を食べながら、ネットで無料の、世の家庭内トラブルを読んだり、論文・統計を見てたりするだけで、幸せを感じられるお得体質です。仕事では地位とお金がついてきてしまっていますが、人間世界の面白さを味わうことを目指して仕事をしてきた結果に過ぎません。

子どもたちにも不幸だと思うぐらいなら幸福であると思ってもらったほうがいいと考えていて、本人たちが幸せに感じることは積極的にサポートしています。ピアノが好きなら環境を整えるし、縄跳び好きなら一緒に練習します。ゲームが好きなら一緒にプレイもします。攻略方法を子どもたちと議論するのが楽しい。

好きなことを周りの評価関係なくただ続けられることが私にとっての幸せだというのは、昔から薄々気付いていました。幼少期から他人の家庭事情をあれこれ見聞きするのが好きだったものの、人に言うと引かれそうだと思って言わないで生きてきましたが、成人してからは他人の目を気にしてもしょうがないと思って、趣味を聞かれたら答えるようにしています。

私が家庭内トラブルを見聞きするのが大好きだと答えて「露悪的だ」「趣味が悪い」と反応する人がいるのは知っていますが、私は他人の好みを基本的に許容し興味を持つので、他人の好みに口を出す人はたぶん本人が好みを否定されてきた経験が多い可愛そうな人だと見ています。

シリアルキラーの伝記読むのが楽しいって人も、Vtuberの揉め事に興味津々な人も、そういう人はいることは理解しています。みんなそれぞれ好きなものが違うし、それがそれで良い。それを見るのが私も楽しい。私は魚がさばかれ続ける動画を見るのが好きです。

で、こんな私のn=1の経験を補強するような論文が公開されていました。

思春期の時点で抱いていた価値意識が高齢期の幸福感を予測する

以前から、「興味や好奇心を大切にしたい」という価値意識(内発的動機)を持っていると幸せだと感じやすいという相関関係は色んな研究で確認されてきました。

この研究では、思春期(13-15,16歳)に「興味や好奇心を大切にしたい」という価値意識を持っていると、60-64歳ぐらいで自分の人生を満足だと感じる割合が高いということを、イギリスでの長期的なデータを使って確認したというものです。日英の合同研究。

分かりやすいのが次のグラフ。

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上のグラフの結果は、60-64歳が以下の5つの質問に対して7段階で答えたものです。

  1. ほとんどの点で、私の人生は私の理想に近いです'
  2. 私の人生の状態は素晴らしいです
  3. 私は私の人生に満足しています
  4. これまでのところ私は人生で欲しい重要なものを手に入れました
  5. 私が再び人生を生きることができれば、私はほとんど何も変えないでしょう。

1×5=5点が最低点で、5×7=35点が最高点ですね。私が答えたら34点でした。

で、見ての通り、思春期に抱いた価値意識が内発的な人は点数に自己コントロール能力(自制心と捉えるといいと思う)の影響があんまりなく幸せで、外発的な価値意識の人は自己コントロール能力の有無でちょっと差が出ちゃっているというものです。ちゃんと、親の学歴収入地位と、本人の学歴の要因は排除しているもの。

最低が5からすると、外発的同期で自制心が低くても結構幸せっぽいので(だって26点ぐらいある)、この研究結果で持って、

本研究では、60年以上にわたる大規模追跡調査により、思春期の時点で「興味や好奇心を大切にしたい」という価値意識(内発的動機)を強く抱いた若者は、高齢期の人生満足感が高いことを実証しました。さらに、自己コントロール力が低い若者が、「金銭や安定した地位を大切にしたい」という価値意識(外発的動機)を強く抱いた場合、高齢期の人生満足感が顕著に低くなることも分かりました(図1)。

この結果からは、年齢を重ねて人生を振り返った時に、良い人生だったと思えるためには、若者自身の興味や好奇心をはぐくむための周囲の助けや教育環境が大切であることが示唆されます。今後は、どのような教育施策が若者一人一人の興味・好奇心を支えるために有効なのか、長期追跡研究から明らかにしていく必要があります。

※太字は筆者

と言っちゃうのは、ちょっと言い過ぎな気がします。

論文がフルに公開されていて、それを読むと、他の研究では内発的動機と幸福の相関が色々検証されているのは分かっているっぽいので、それを違った角度(ロングスパン)で補強するものとして見るといいかもしれない。

あと、研究のサンプル自体が、1946年生まれの赤ん坊を2006年~2010年まで追っていて、当然ながら途中で脱落している人も多数いて5300人が2200人になっているので、実際は脱落した人に貧困や病気が原因の人がかなりいることを踏まえると、サンプルが減ってなければ、実はもっと差が出ていたんじゃないかという感じもします。60年間調査に応え続けられる人の環境ってかなり安定してますよね。

個人的には、論文の後半の"Discussion"に書いてある、

"Interaction of adolescent aspirations and self-control on wellbeing in old age: Evidence from a six-decade longitudinal UK birth cohort"

It is not easy to enhance self-control among adolescents with low intrinsic aspirations; however, enhancing intrinsic aspirations could effectively promote later life satisfaction. Educational and psychological approaches to enhancing intrinsic motivation could be useful for adolescents with self-control problems.

内発的動機に乏しい若者に自制心を強化させるのは難しいから、内発的動機を強化させる方向に教育を仕向けるといいかもというのはとてもいいなと思いました。

特に、日本の教育は特に自制心ばかり強化して、自己肯定感や内発的動機への関心がかなり薄いですからね。先進国でも日本は自己肯定感が低い方だし、幸せだと思う人が少ないのも私の観測範囲では非常に理解できるところです。

一方で、世の中の収入・教育格差が拡大化・固定化しているのが現状です。外発的動機が将来の幸福に必ずしも繋がらないとしても、こっちはこっちで解決したほうがいい問題。これは経済学の領域。

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※気付いたら、松岡亮二さんの『教育格差──階層・地域・学歴』にこんなまとめ画像が紹介されてた。熱くて大好き。

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