斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

人を叱るときは「人前で"ない"」が、なぜ重要なのか

人を叱るときは「人前で"ない"」が、なぜ重要なのかというと、人前で叱ると叱られた人は尊厳を傷つけられ、過大なストレスに晒されるからです。人が嫌がることを止めましょうという小学校で習うぐらいの簡単な話です。

人事院が作っているパワハラ防止ハンドブックでも触れられています。今どき、ほとんどの社会人が知っている常識的な話です。パワハラ研修で必ず説明される。

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※人事院のパワハラ防止ハンドプック p.7より

しかし、そういった小学生でも習う、やっちゃいけないことを平気でやってきたと言っている人を見かけました。

人を叱るときは「人前で」が、なぜ重要なのか(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース

部下に対してどんな厳しいことを言っても嫌われない上司、上司に対しては、どんなに反対の意見を述べてもその上司に嫌われない部下になろう、ということでした。

 そうなるには、あらゆる人に対し、誠実に接しなければなりませんが、リーダーたる者、どうしたって、叱らないといけない場面が出てきます。

 その場合、大切なのは、人前で叱るということです。

 こう言うと、「幕末の侠客、清水次郎長は人前で子分を怒らなかったという。子分にも体裁というものがあるから、そのやり方のほうがいいのでは」と言う人がいます。「褒めるときは人前で、叱るときはこっそりと」というわけです。

 まったく違います。次郎長は類いまれな義侠心はあったのでしょうが、これが実話だとしたら、リーダーとしては失格でしょう。千人の子分がいて、それぞれが同じミスを繰り返したとしたら、千回、怒らなくてはいけないことになる。それでは身体がいくつあっても足りません。浪曲のつくり話です。

 そうではなくて、部下が間違ったことをしたり、見当違いのことを言ったりしたら、皆の前で怒るべきです。それをやっておけば同じミスを犯す人が出なくなります。

旭日大綬賞を受賞したような名経営者と呼ばれる人の発言です。該当する箇所を比較的多めに引用したのですが、ちょっと何を言っているのか意味が分かりません。

あらゆる人に対して誠実に振る舞わないといけないというのは分かるんですが、そのためには人を叱ることもあり、人を叱るときには人前で叱る必要があり、叱られた場面を見た人は同じ失敗をしなくなるので、指導が楽になる……と、最初と最後で話が変わっています。誠実に振る舞うという話が、部下のミスがなくなるという話になっちゃってます。

それはそれとして、人前で叱らないというのは基本として、人前で叱る効用として他の部下が同じミスをしなくなるかというと、私はそういうエビデンスを見たことがないのでその点は何とも言えませんが、直感的にはミスが減るかというとそうではないと思います。それよりも、ミスをしたら叱られると思うから、ミスを隠蔽するインセンティブが働くんじゃないでしょうか。

何度も起きるようなミスとか、重大なミスだとしたら、それは組織や業務上構造的な欠陥があるから、個人の責任をどうとか考えるより、原因を論理的に分析し、仕組みで回避するようにしたほうが健全です。1000回叱らなければならないと考えるのは、マネジメントとしてもう少し頭を使ったほうがいい。

……などと書いてきましたが、私は上記の文章を本気では書いていません。私がブログでこの人に批判的な文章を書いたとして、この文章をご本人が読めば、人前で叱られたと思い、嫌な気分になるはず。ご自身がやっていることがいかに気分が悪いことかというのを分かりやすく理解してもらうために、少し厳し目に書いてみました。

まあ、78歳にも関わらず、まだ元の会社の名誉顧問という立場にいらっしゃるような、立派な方の目に触れる機会はないでしょうけど。

最後に蛇足ですが、記事の中で、

(巨額の特損の責任問題についての株主からの質問に対して)

「よい質問をしていただきました。ところで、シーズン中、三振を一度もせずにホームラン王になった野球選手はいるでしょうか。本日は、後に控えている議決案件で、過去最高の配当を皆様方にご用意するという内容のものがあります。私から言わせれば、今回の巨額の特損計上は重大な三振であります。しかし、最高の配当をご用意しようとしているときに、重大とはいえ、一つの三振をとがめないでください」

 会場中に拍手が満ち、私は「次の方、ご質問ください」と。

この部分もちょっと意味が分かりませんでした。してやったり風なエピソードですが、今、もし同じようなことを経営者が株主総会でリアクションしたら非難轟々でしょう。

何しろ、巨額の特損を計上しているということはそれだけ利益が失われているわけで、それに対し、お土産みたいに配当を増やすというのは、利益が出てていなければタコ足配当をやっているようなもので、企業の価値を増やすための合理的な判断ではありません。

とてもじゃないですけど、誠実な経営者がやることではない。まともな経営者であれば特損の原因の説明と、再発防止を株主に約束するところです。金額如何と責任の所在によっては、辞任も考えられるし、株主からの訴訟もありえる。

一連の文章を載せたプレジデントと、記事を書いた荻野進介さんには、プレジデントの読者がいかに偏っているからといって、もうちょっと何とかならないかと思います。