斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

『NGT48の暴行事件の第三者委員会報告書』を読むとAKB48の運営会社であるAKSのガバナンスがガバガバなのがよく分かる

本題はNGT48の第三者委員会報告書のレビューです。前段はお好きな人だけどうぞ。

 

前段

ここ数年で一気にメジャーになった第三者委員会報告書は、主に弁護士を中心に起用して、その組織に関わる不正を調査し、原因を分析し、再発防止策がまとめられるものです。

作成にあたっては弁護士や会計士がタイムチャージ(時間払い)で関与しますので、一時間あたり数万円前後の費用となるため、問題が根深ければ根深いほど延べの調査時間は増え、費用は数千万円~数億円までかかることがあります。要するに、相当お金のかかった報告書になることが多いということです。

他人がやらかした問題をプロの視点で分析されたものを読む機会というのはなかなかなく、学びも多いため、私は、第三者委員会の報告書が公表されるたびにできるだけ読むようにしています。

このブログでも一年に一回ぐらいは第三者委員会の報告書を紹介しています。

すき家(2014):日本マクドナルドが11年ぶりの赤字?「すき家」のゼンショーは創業来初の赤字?月次売上から業績を読み解く

東芝(2015):東芝の「チャレンジ」を一目で察することができる、あるグラフ

上越地方の県立高校のいじめ(2016)スクールカースト上位のいじめ加害者に対して、人格と行為を明確に分けた配慮ある指導を私ならできたのだろうか

横浜市の小中校のいじめ(2017)原発事故で横浜市に自主避難していた男子生徒への「いじめ」に関する第三者委員会の報告書を読んで思ったこと

スルガ銀行(2018)スルガ銀行とサブプライムローンと、麻の木の忍者修行と子どもの抱っこ

日本体操協会(2018)宮川紗江選手(19)への塚原夫妻(70,71)によるパワハラ疑惑に関する第三者報告書を読んだ感想→「体操協会が儲からないのが原因っぽいから問題は解決しなさそう」

世の中で話題になった事件の第三者報告書報告書を読みたい人は、第三者委員会報告書格付け委員会のサイトで紹介されているものを読むといいと思います。レビューも一緒についているため、どのような視点で第三者委員会報告書をチェックするといいかも分かります。

格付け結果 | 第三者委員会報告書格付け委員会

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※Aがつく調査は少ない。お手盛りなのか、委員の能力の問題か、時間とお金の問題か。

本題『NGT48運営のAKSによる第三者委員会の報告書』

それで、先日もこんな第三者委員会報告書の報告書が公表されて、話題になっていました。

NGT48運営のAKSによる第三者委員会の報告書

この手の報告書では珍しく、PDFではなく画像(JPG)で公開されているのに相当違和感を持ちましたが、とりあえず読んでみました。特にこの件についてほとんど情報を頭に入れていかったので、事実関係をおおよそ掴むことができました。

事件の被疑者

まずは、事件の被疑者から。

ア 被疑者らに対する調査

AKSは、本件事件における被疑者である甲及び乙(以下、甲及び乙を総称して「被疑者ら」という。)、並びに本件事件直後に被疑者らとともに山口氏と接触を持ったため本件事件に何らかの形で関わっていたことが疑われる丙に対し、平成31年2月19日付で、本委員会による調査への協力を求める旨を記載した書面を送付した。

(p.3)

被疑者は甲乙の二人だけど、丙も調査報告書の中ではしばしば出てきます。

事実関係

それで、何が起きたか。

(ア)本件事件の事実関係

平成30年12月8日の夜の公演の後、山口氏は、他のメンバーとともにNGT48劇場からマイクロバスに乗って帰宅した。

マイクロバスは、一つ目の降車ポイントで停車し、そこでAが降車した。Aは降車後に丙から、山口氏がバス乗っていたかどうかを聞かれて乗っていたことを回答し、さらにEがバスに乗っていたかどうかを聞かれて乗っていないことを回答した。

その後、丙は、Aから聞いた内容などを被疑者らに伝えた。

甲は、本件事件当時、山口氏の部屋の向かいの部屋を賃借していた。被疑者らは、山口氏と会って話をしたいと考え、丙からの「山口氏はバスに乗っている。Eはバスに乗っていない。」という報告を聞き、同じ階に住むEと一緒ではなく、山口氏が一人で帰宅することを確認した上で、山口氏が帰宅した際に山口氏の部屋の玄関付近で声をかけることとし、マイクロバスがーつ目の降車ポイントに到着した時間から山口氏が当該マンションに到着する時間を計算して向かいの部屋で山口氏の帰宅を待った。

山口氏は降車ポイントでマイクロバスを降りたあと当該マンションに向かった。山口氏は20時40分頃、当該マンション正面玄関に到着し、そのままエレべーターに乗り、山口氏の部屋がある階でエレべーターを降りて自分の部屋に入ろうとした。 そして部屋に入ってドアを閉めようとしたところ被疑者らから顔面をつかむ暴行を受けた。

(p.7-8) 

公演?が終わったあとに、NGT48のメンバーから、山口さんが一人でマンションに帰宅することを丙が情報入手し、丙が甲乙にその情報を流し、山口さんの住む部屋の真向かいの部屋を甲乙は借りていたので、山口さんが帰宅するのを自分たちの部屋で待って、山口さんが部屋に入ろうとしたところを、甲乙が山口さんの顔面をつかんだそうです。

何というか、異常な世界ですね。他のメンバーのプライベートな情報を話しちゃうメンバーとか、偶然か意図的か分からないけど、マンションの真向かいを借りているファン?とか。

原因と対処

第三者委員会の報告書では、その点を問題視しています。

3 発生原因と対処

(1)はじめに

本件事件は、前記1 (1)「事実関係の特定」に記載したとおり、NGTのファンである被疑者らの行き過ぎた行為が直接の原因である。そして、今後も、同様に行き過ぎた行為に及ぶ者の存在を否定することはできない。

しかしながら、本件が発生し得たのは、①被疑者らが被害者の自宅を知っていた、②被疑者らが被害者が孤立する時間帯を知っていたという偶然には起きえない事象が重なったからであって、それぞれの事象には、その原因が存在する。

(p.24) 

帰宅するのを待って顔面をつかむのは、行き過ぎた行為どころではないと思いますけどね。

それで、①どうして自宅が判明したかについては、新潟の都市部が狭く、セキュリティの万全なマンションも少なく、公共交通機関は限定的だし、マイクロバスが走っていたら目立つということが書かれています。大阪や東京と比べるとそうなんでしょうけど、本当なら、地方都市のアイドルグループってみんな同じリスクに晒されていますよね。しかも、本件では、マネージャーはマイクロバスに帯同していなかったようです。ヤバい。

次に、②孤立する時間帯を知っていた理由は、言わずもがなですが、アイドルグループのメンバーがファンに対して他のメンバーの情報を漏らしていたことが書かれています。

過去の握手会ではこんなやり取りもあったらしい。

しかしながらNGTにおいては、ごく一部のファンが特定のメンバーと特定のファンが私的領域で接触していることを握手の相手となっているメンバーに伝え自らともつながることを求めてくることが行われていたようである。

例えば前記1 (2)ア「山口氏の供述」に記載したとおり、実際に、山口氏は、甲から、平成30年10月7日に行われた握手会の際に、「メンバーの一人がお前の家に行けってめっちゃ言ってくるんだけど。」などと言われたと述べている。

(p.26-27) 

「お前の家に行け」って何!? 怖い。今どきのアイドルはこういうことを許容するものなの??

そして、運営としては、そういうファンの存在を認知しておらず、管理もまともにしていなかったらしい。

この点、NGTにおいて、前記2 (3)イ(ウ)記載の「劇場内禁止事項」以外には、「出禁」に関する具体的な要件等を定めた規程はなく、前支配人や劇場スタッフ、マネージャーらは特に劇場以外(握手会イベント等)で迷惑行為に及ぶファンに対し、どのような場合に警告し「出禁」にすればよいか、またどのような場合にこれらの措置を解除すればよいかという判断を場当たり的に行わなければならなかったようであり、実際には、劇場チケットや入場方法に関する不正を働いた者や劇場での迷惑行為を行った者に対して、その都度、判断がなされて「出禁」の処分が科されているにすぎなかった。

また、私的領域での接触を求めたり、実際に接触を行った者に対する処分については、そもそも本件事件までは検討したことがなかったようにも窺われる。

(p.28)

出禁対応を場当たり的に行っていて、私的に接触をしてくるファンがいてもどう扱うか検討していなかった。

職務権限が不明確で規程が整備されていない、ずさんな運営体制

それ以外にも、そもそも、アイドルの規律を守らせる教育がまともに行われていないとか、マネージャーがアイドルに自覚を持たせる意識はなくマネージャーにまともな規定がなくマネージャー自身がしっかり教育されていないとか、劇場支配人も職務権限がまともに規定されていないとか、役員に支配人を指揮監督する権限があることも具体的に規定されていないとか、人間を扱ってお金を稼いでいる割には、相当ずさんに運営が行われていることが指摘されています。

NGT48はAKB48の運営も行っているAKSが運営しているということですから、あれだけ有名なアイドルグループがこのように管理されていた(管理されていなかった)というのは正直驚きです。

有名なレストランがチェーン店化を加速させすぎて、内部統制がまともに効いていなかった状態と考えれば理解しやすいですが、それにしても酷い。

報告書では、

若い女性が、「会いに行けるアイドル」という極めて微妙な立ち位置において、「自覚」と「責任」を持って活動することに困難を伴うということは、本委員会の調査を通じても痛切に感じるところである。

 (p.31) 

とありますけど、こんな運営体制だとすると、マネジメントのずさんさによって発生するリスクが、(ときには義務教育課程にいるような)若い女性に押し付けられて成立しているように思います。非常に危ない綱渡り。

報告書の最後は、

なお、AKSは第2の3「発生原因と対処」において記載した点も含めて規程が整備されておらず、職務の範囲権限などが不明確な点が多い。これは、当初、小規模で始めた事業が瞬く間に拡大した結果、組織が膨張し制度、規程の整備がこれに追いつかなくなったことが原因であろうと思われる。本委員会としては、AKSの役員に対して他にも原因があるのであればその点の究明も含めて、早急に現在のAKSの実態に合わせた制度規程を整備して、役職員に周知し、かつ、これらが実効性を持って機能し、企業の運営が健全になされるよう努めることを望む。

(p.34)

と締められています。

締め

以上、今回の第三者委員会報告書の個人的なレビューです。

これぐらいガバナンスがガバガバの組織は、自浄作用でなんとかなることはまずないので、外部の専門家を起用したり、社外取締役を入れたりしたりしたほうがいいんじゃないかと素人目には思いました。

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※寒そう。