斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

宮川紗江選手(19)への塚原夫妻(70,71)によるパワハラ疑惑に関する第三者報告書を読んだ感想→「体操協会が儲からないのが原因っぽいから問題は解決しなさそう」

【追記】塚原夫妻をタイトル含め塚本夫妻としていたので修正しました。

はじめに言っておくと、私はリアルな体操に特に興味がなく、かつ、宮川紗江さんも塚原夫妻もこれまで知りませんでした。単に興味本位で、今回の第三者報告書(要約版)を読んで、この記事を書いています。そういう前提であること、予めご了承の上、記事をお読みください。

Gymnastics - Lake Macquarie ICG 2014 - Day 1

※格好いい

きっかけは、12月12日の日経新聞のスポーツ面掲載のこの記事です。

体操界、遠い信頼回復 塚原夫妻のパワハラ認めず 一部理事、対応に疑問の声

記者会見に第三者委のメンバーは出席せず、報道陣に配られたのは調査報告書の簡単な要旨1枚のみ。第三者委が再三指摘した「透明化」に早速疑問符がついた対応だった。山本宜史専務理事は「選手第一主義を今まで以上に掲げる」と強調したが、今のままなら掛け声倒れに終わる。

(山口大介、金子英介)

日経の記者が記名してまで、日本体操協会の記者会見が調査報告書の枚数がたった1枚だけだったことを皮肉たっぷりに書いているので、「それじゃ、第三者報告書は日本体操協会は公開してないのかな」と興味本位で検索してみました。

そうしたら、日本体操協会が記者会見を開いた当日の12月10の日付で、第三者報告書(要約版)が公開されているのを見つけました。要約版であるものの1枚ペラではなく、43ページあります。

パワーハラスメント問題提起に関する第三者委員会の調査報告書について | 公益財団法人日本体操協会|Japan Gymnastics Association

記者会見のタイミングで公開されていたかは微妙ですが、少なくとも上で紹介した12月12日付けの記事を書く前には、この第三者委員会の調査報告書(要約版)は公開されていたわけですから、それを踏まえないでこんな記事を公開しちゃうのは、この山口さんと金子さんは記者として恥ずかしくないのかなと思いましたが、これ以上はこの点は触れません。

せっかく辿り着いた第三者報告書(要約版)だったので、暇潰しに中身を読んでみたわけです。

パワハラ認定はしていないけど塚原夫妻は"不適切"と指摘

もともとこの第三者報告書が作成された目的は、宮川選手が塚原夫妻からパワハラを受けたと記者会見を開いたことをきっかけに、本当に塚原夫妻がパワハラをしたのかを調査すること、ということのようです。

ですので、調査報告書はパワハラをしたかどうかの事実認定にかなりの分量を割いてはいるのですが、正直、このパワハラ云々については、この調査報告書を見るだけでは、私は何とも判断できませんでした。

その辺は調査報告書を皆さんがお読みいただければと思いますけど、私が笑ってしまったのは、塚原夫妻はパワハラとまではいかないけど、不適切なことはやってると、何回も触れていることです。次の引用箇所は調査報告書(要約版)のp.34-35です。

しかも,弁護士を立てることは保護者がしたと思われる事項であるにもかかわらず,これについて繰り返し発言する行為は,宮川選手を戸惑わせるものであったと考えられ,極めて不適切である。

さらに,E氏と話すことにつき,弁護士に止められているから話せないと答えた宮川選手に,その後も話すように言ったことも不適切である。

ただ,宮川選手の家族を指して「宗教みたい」と発言したことについては,暴力が明るみになっているとはいえ,速見コーチの指導を長年受けてきており,同コーチに対する信頼も厚かった宮川選手の気持ちを蔑ろにするものであり,極めて軽率で不適切である。

かなり一般常識から外れてますよね。

しかも、このやり取り、塚原夫妻(70,71)と宮川選手(19)の3人しかいない状況で行われています。タイトルで年齢を書いたのはこれが理由です。これだけの年齢差があって、しかも権力関係に明確な差があって、3人しかいない状況で、こんなやり取りをしていたら、パワハラじゃないと認定されたとしても、塚原夫妻は相当やばい。

「塚原夫妻が相当おかしいということは調査報告書を読むだけで垣間見れるな」という感想を私は抱きました。

"不適切"な塚原夫妻でも重用しないと回らない日本体操協会

調査報告書はパワハラ認定だけではなく、日本体操協会自体にも様々な問題点を指摘しています。

まあ、そりゃそうですよね、19歳の選手がパワハラの告発を日本体操協会をすっ飛ばして記者会見やっているわけですし(日本体操協会を信用していない証拠)、それ以前には、宮川選手が今回のパワハラ疑惑とは別にコーチから暴力を受けていたことを把握していたのに対処をしていなかったようですし。

で、調査報告書が問題点の一番として記載されているのが、日本体操協会の偉い人達がみんなボランティアだということ。

そして,協会の抱える前記のような種々の問題の根本的な解決策として一番に検討されるべきは,日本体操協会という組織が,公益財団法人としての財政基盤が脆弱であり,理事や本部員等のほとんどがボランティアで構成されているという点である。 

(p.37)

まともにお金を出してないんだから、優秀な人間なんて集まりっこないと書いています。

その上で、

女子体操の選手強化を任せられる人材が千恵子氏の他に探し当てることができなかったという事情もあるであろうが,このような事情を熟知している千恵子氏も,たびたび常務理事会において,自己の意見が通らないと辞任を仄めかすなどしており,適正な監視監督機能が働いていなかった。

(p.37)

女子体操の選手を任せられるのが塚原千恵子さんしかいなかったぽかったとか、

そもそも,女子体操強化本部における審議方法その他の運用に関するルールは存在しない。

(p.38)

女子の代表選出にまともなルールがなかったこととか、

そもそも,協会と千恵子氏との間に女子体操強化本部長としての業務及び権限が記載された委任契約書は存在しないし,また協会においても,女子体操強化本部長の職務及び権限に関する規程類は整備されておらず,かつ,選手強化事業の方針の運営に関し,常務理事会で審議されるものの,強化本部長に一任されることが多く,結果的にますます強化本部長の力が強くなる傾向にあった。

(p.39)

強化本部長という存在がなんにも業務も権限も規定されていなかったとか色々指摘はしているんだけど、"不適切"な塚原夫妻のことは、

しかし,オリンピックでの入賞を目指して選手の強化指導ができる指導者の選択肢に乏しい状況に鑑みれば,利益相反的地位にある指導者を強化本部長等の要職に就かせないという訳にはいかない実情にあることも理解できる。

(p.40)

自身の体操クラブを運営していて思いっきり利益相反がある、塚原夫妻でも日本体操協会の要職に就けないと回らないと書いています。

何というか、地獄ですよね。業界では凄まじい権限を持っていそうな人が、実は何の明確な権限もなくて、好き勝手やれて、辞める辞める詐欺をしても、お金がないからまともな人は呼べなくて、利益相反があっても頼り続けないといけないって。

ルールがないこととかは明確な提言はしつつも、優秀な人間が集められないお金の問題については財務基盤の確立をしようで調査報告書は終わっています。これはかなりな無理難題ですよね。投入する税金を増やすということなのか。

締め

日本の体操というのは世界的に見ても知名度が高いですよね。それにも関わらず、杜撰な運営が行われていて、しかも、指導者の層も非常に薄いように見受けられたのが個人的には驚きでした。

いくつかの国では国策としてスポーツに力を入れていて、税金の投入量で育成できる人数が変わってメダルの多寡に繋がるというのは、確か『ヤバい経済学』か何かで書かれていたように記憶しています。

(私は欲しないですけど)世の中がメダリストを欲していて、問題のある構造を維持したくないのであれば、選手と指導者に適切にお金や良い環境が提供されるように、国策としてどうにかするものなんでしょうね。