センシティブな内容も含まれるので、私がどういうスタンスでいじめを捉えているか、他の記事を読んでから、この記事を読むことをお勧めします。
少子化に合わせて先生の定数は削減しつつ、それとは別に学力対策・いじめ対策・部活対策をした方がいいのではないか
スクールカースト上位のいじめ加害者に対して、人格と行為を明確に分けた配慮ある指導を私ならできたのだろうか
また、タイトルに書いてある通り、私が思ったことを書いてあるだけということもご理解ください。他の記事でもそうですけど、私は他人の解釈を脅かすつもりはないし、できません。
では、本題に。
教育委員会の委員長の判断というより第三者委員会の判断に従った形
先日、このニュースが話題になっていました。
“150万円の支払い” いじめ認定は困難 横浜市教委 | NHKニュース
教育長は、20日、開かれた市議会のこども青少年・教育委員会で、「関わったとされる子どもたちが『おごってもらった』と言っていることなどから、いじめという結論を導くのは疑問がある」と述べ、いじめと認定するのは難しいという考えを示しました。
横浜市の教育委員会が子どもが150万円おごったことをいじめ認定できないというもの。金額の大きさから「いやいや、いじめでしょ」といった反応がネットではたくさんありました。
ただ、この報道だけではなぜ教育委員会がいじめと認定しなかったのかが詳しく分からないので他の報道を見てみると、
金銭要求「いじめ認定困難」=教育長が見解、原発避難-横浜:時事ドットコム
生徒側は、いじめと認定するよう求めているが、岡田教育長は「第三者委員会の答申を覆すのは難しい」と述べた。
(中略)
市の第三者委が昨年11月にまとめた報告書は、「金銭授受はいじめから逃れるためだった」と指摘した上で、「おごりおごられる関係で、いじめとは認定できない」と判断した。
ということで、第三者委員会の報告書に基づいて教育委員会としてはいじめと判断しなかったことが分かります。
外部の客観的な意見を受けたのに、それを否定することはできないですからね。ということで、教育委員会の委員長を「なぜいじめ認定しなかったのか」と批判するのはちょっと厳しいかなと思いました。これで教育委員会の委員長がいじめ認定しちゃうと、第三者委員会の報告内容を覆す権限を教育委員会の委員長が持っている前提となってしまうので。
では、その第三者委員会の報告書を読んでみようとGoogleで「横浜市 第三者委員会 いじめ 報告書」で検索してもなかなか出てこない。
結局、横浜市のサイトでサイト内検索をしてようやく見つかりました。2016年12月12日付の資料に同11月2日付の第三者委員会による報告書が添付されています。
いじめ防止対策推進法第28条第1項に係る重大事態の 調査結果と再発防止策の取り組みについて
おごりをいじめ認定していないが認定しているいじめもある
それで、中身を読んでみると、いじめがあったことを全否定している報告書ではないことがまず分かります。
※紹介したPDFの2ページ目
この児童の小学2年生から小学6年生まで何があったかの調査を行い、その時々の状況でいじめがあったかを認定しています。全部で5つに分けた中で少なくとも2つの時期でいじめがあったことを明確に認定しています。①のいじめと認定された時期は、○○菌と言われた時のもの。
NHKの報道でもある通り、
生徒側が、同級生におよそ150万円を払わされていた行為もいじめと認定するよう求めていることについて
(赤字は筆者)
生徒側と教育委員会では、この④のおごりの件をいじめ認定しているかどうかが争点となっているわけですね。
第三者委員会のスタンス「もっと早く着手できれば」
ここからは過去の話なので、生徒ではなく主に児童という言葉を使います。生徒は主に中高生、児童は主に小学生なので。
150万円の件をいじめと認定しなかったという観点で第三者委員会が酷い!と思われるかもしれないですけど、私がこの報告書を読んだ印象としては、全体的に被害児童側に寄り添ったものだと思いました。学校側の体制に批判的。
報告書の1ページ目が象徴的ですね。
せめて、1年前に調査に入ることができれば、詳細に実態を把握し解明にもより正確さのある調査が可能であったことを考えると、もっと早く着手できれば当該児童の苦痛もなかったのではないかと悔やまれる。
(報告書1ページ目)
150万円の件も重要ですけど、この事件のポイントはもっと早く判明していればというのがあります。調査が早ければ実態解明も早かっただろうし、そもそも自主避難した小学校2年生のときのいじめへの対処が"上手く"できていれば、その後のことは起きなかった可能性があるわけで。
親や学校が状況を認識できていない
黒塗りが目立つページをめくっていくと15ページ目から認定した事実の説明があります。
※報告書15ページ目 。赤線は筆者
この辺を眺めながら、親も教師も部分的にしか児童が置かれた環境を理解できていなかっただろうなと思いました。
不登校の直前に○○菌と呼ばれるなどのいじめを経験し、本人としても「いじめられるのが辛い」と思っていても、親は「学校とは関係ない」と言っていた。
不登校復帰後のいじめを、児童本人は担任に相談していない。プロレスごっこは(先生にバレないようにする)見張りを担当する児童がいた。
加害者児童が自らいじめを告白することは稀ですから、いじめを確認するには周りの児童や被害者児童の声を収集できるようになっている必要があります。児童と親・教師の間で信頼関係が構築されていないからいじめが確認できないと口で言うのは簡単ですけど、子どもから情報を吸い上げる仕組みの構築は一朝一夕ではできません。そして、親も教師も昨今は忙しい。
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おごる云々は非行・虞犯行為
それで、議論になっているおごる云々をいじめと認定するかどうかについて。第三者委員会としては、これはいじめというより、非行・虞犯行為としています。
※報告書17ページ目 。赤線は筆者
いじめかどうかの認定は定義の関係からかなり悩んだように読めます。被害児童が「おごるよう言われた気持ち」としていると言っていて、文科省がいじめと定義するところの金品のたかりがあったかどうかが分からないのが大きそう。おごっているのはいじめがあったからかもだけど、おごらせている行為がいじめかどうかがはっきり言えない。ここは歯がゆいけど、いざ認定しろと言われると難しいなと思いました。「おごるよう言われた」という証言があるなら、いじめ認定できるんだけど。
では、いじめの認定をしていないからといって対処が不要だと第三者委員会が言っているかといえば、そうではなくて、万単位のおごる・おごられがあったこと自体で児童指導の対象としています。詳細は後述。
※報告書18ページ目 。赤線は筆者
「家に来るな」と言われても家庭訪問
事実認定があった後で、学校側の対処へのコメントがあります。そこで気になったのは、先生は生徒及び生徒の親と会うべきかどうかというところ。
※報告書21ページ目 。赤線は筆者
電話連絡だけではニュアンスが伝わらないとして、こういう自体があるならば直接家に行って話すことを推奨しています。
私も親の立場として、できればそれぐらい学校側に対応してもらえるとありがたいとは思うものの、それが当たり前だとすると先生はしんどいだろうなとも同時に思います。というのは「わが子に対する問題」というのは幼稚園・保育園でも、小学校・中学校でも、親が問題だと思えば際限なく問題になるんですよね。子ども同士ではトラブルが起きるのは日常茶飯事だから。
「今日、うちの子が暗い顔をしているけど、何があったのか?」「彫刻刀で誤って手を切られたらしいけど、本当か怪しい」と親が納得しないことがある度に、先生を家に寄越して経緯を説明させるのが学校側の責としていいのか。仮に、線引きを、震災被害で自主避難しているからということにすると、そういう認定を個別の生徒全員にするかという議論が出てきます。シングルマザーだから配慮すべきとか。
この辺は実務的に運用することを考えると、なかなか難しいと思いました。
非行の真実の解明は学校の役割ではなく児相や警察の仕事
次に、おごりを非行・虞犯行為とみなした上で、その対処については、学校側ができることとできないことを整理しているのも印象的でした。
※報告書22ページ目 。赤線は筆者
確かに、万単位という話であれば警察マター。学校側としても親には「警察に相談したほうがいい」と言っていたそうなんですが、学校として万単位のおごり・おごられを認識していたら、自分たちから警察に相談したほうが良かった。
締め
以上、第三者委員会の報告書を読んだ感想です。
報告書を読みながら、実際いじめ(に絡んだ非行・虞犯行為)で警察に学校が相談することはどれくらいあるのかと調べてみたら、
※緊急調査1ページ目。赤枠は筆者
いじめ、虐待を受けている児童生徒について75%の事案で警察への報告・協議が行われているということでした。神奈川県川崎市の生徒の殺人事件を受けての平成27年の調査。まだまだと思われるかもしれないですけど、かなりカバーできているなという印象です。
ちなみに、いじめに際して学校側が警察に連絡することに抵抗を示した場合は、
早期に警察へ相談・通報すべきいじめ事案について(通知):文部科学省
1. いじめの認知に当たっては、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を、いじめられた児童生徒の立場に立って行い、認知したいじめには、迅速に対応することが必要であるが、このいじめの中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められるものが含まれる。このため、このいじめの対応に当たっては、早期に警察に相談・通報の上、警察と連携した対応を取ることが必要であること。
親としては文科省が平成25年にこういう通知を出していることを伝えるといいんじゃないかと思います。文科省の国立教育政策研究所も警察への被害届の提出を推奨しています。
「被害届」は、加害者の行為を止め、被害者を守るとともに捜査という観点からの実態の解明につながる可能性を高めます。そうした意義を踏まえれば、関係する保護者の理解を得ながら「被害届」の提出について警察と相談し、前向きに検討を行うことも大切と言えます。
ちなみに、いじめが抵触する可能性がある犯罪行為としてはこんなところだそうです。
※表は『生徒指導リーフ 学校と警察等との連携』(4ページ目)から
プロレス、家の現金を持ち出させた、ノートを破いたあたりは、今回紹介した件でも該当します。
学校側が警察と連携するのも当たり前になってきているようですし、学校側に犯罪行為に対処する能力はないわけですから(しちゃいけないし、しないほうがいいから)、親としてはさくっと警察に相談し、被害届を出すぐらいでいいかもしれませんね。