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斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

少子化に合わせて先生の定数は削減しつつ、それとは別に学力対策・いじめ対策・部活対策をした方がいいのではないか

以前からあった議論ですが、財務省が中小公立学校の先生の定数削減を要求しています。

先生を3万7千人削減、財務省要求へ 借金増抑える狙い:朝日新聞デジタル

 2024年度の小中学生の数は、いまより94万人少ない875万人に減る見通し。ただ、文科省は相次ぐいじめや不登校などへの対応のため、現在69万4千人の教職員定数は大きく減らさず、24年度までに5千人の削減にとどめる計画だ。

この記事では、先生の数についてどう考えたらいいかという私見を書きます。

 

絶対数は大きいけれど……?

単純に絶対数だけ見ると3.7万人も削減するなんて多いんじゃないかと見えますが(たぶん、そういう風に思わせるための見出しだと思いますが)、割合で考えてみると、財務省としては小中学生の数が10%減るのだから、それに合わせて先生の数を3.7/69.4で5%減らしてもいいのではということで、そんなに無茶なことを言っているようには聞こえなくなります。文科省は5千人の削減ですから、0.5/69.4で0.7%ですね。これはこれでかなり少ない気がする。 

人口が減少していく中で、このような議論はたぶんどこの分野でも検討されることになります。国のサイズに合った支出を検討しないと、一人あたりの税収負担が過大になりますから。ただ、これが、教育の分野だと、なかなか割り切りがたいものがあり、今回の先生の定数削減などは比較的反発されやすいかとは思います。

 

先生の定数削減に賛成の理由3つ

自分は、子どもを持つ一人の親でしかありませんが、先生の定数削減自体は原則賛成の立場です。理由としては以下の3点です。

  1. 現状では、学級規模を小さくしても、生徒の学力向上の効果は限定的
  2. ここ30年で一人の先生がカバーする生徒の数は減っているけれど、いじめや不登校がそれに応じて減っているわけではなさそうなこと
  3. ここ30年で一人の先生がカバーする生徒の数は減っているけれど、先生はどんどん忙しくなっていること

要するに、文科省の言うように生徒数が減少する中で先生の数を相対的に増やしても、大した効果は得られないのではということです。あまり効果がない方法にお金をかけるぐらいなら、もっと投資(費用)対効果の高いものにお金を使った方がいいと考えています。

以下、それぞれ具体的に書いていきます。 

 

現状では学級規模を小さくしても、生徒の学力向上の効果は限定的

学級規模と生徒の学力の関係についてはグラス=スミス曲線が有名です。先生が受け持つ生徒の数が20人を下回ってくると、生徒の学力が有意に高くなるというもの。

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※ 画像は住民合意ない小規模校の統廃合をやめよ - 日本共産党名古屋市会議員団より。

このグラフを見れば、「やっぱり先生の数が多い方が学力が高いのではないか」という話になるでしょうけど、日本では、現時点で一人の先生がカバーする生徒は28人です(OECD調査)。仮にこのまま9年間先生の数を一定とし、生徒の数が10%減るとしたら、一人の先生がカバーする生徒は25人ぐらい。このグラフの通りであれば、学力に与える影響は数点程度です。

今から先生の数を倍増して、日本の公立小中学校のほとんどを20人以下の学級にすることが最終目的ということであればまだ理解できますが、28人から25人になる程度で学力向上の効果が高いことを主張するのは少し弱いと思います。

さらに、日本国内の調査でも、学級規模の縮小の効果があまり大きくないのではないかという研究があります。

小中学校の学級規模の縮小は、必ずしも学力の格差解消にはつながらない ~学力テストの得点分析による研究成果~:[慶應義塾]

分析の結果、小学6 年生・中学3 年生の国語と算数(数学)の中では、小学校の国語を除き、学級規模縮小の効果を確認することはできませんでした。また意外なことに、全国学テの得点(学年当初の学力)が低い学校と高い学校に分けて分析すると、小学校の国語で確認された学力向上効果は、当初の学力の高い学校でのみ確認できました。これは、少人数学級の推進が、学校間の学力格差を縮めるとは限らないことを示唆しています。

 

先生の数が増えてもいじめや不登校は減ってなさそう

二つ目の、先生の人数といじめや不登校の件数について。

直観的には、先生が見る生徒の数が増えれば、いじめや不登校の件数が下がりそうな気がしますが、ここ30年ぐらいで先生が生徒の人数と比べて相対的に増えていても、いじめや不登校がそれに応じて減少するという傾向はなさそうです。いじめなんて、昨年が昭和60年以降で過去最多件数ですからね。

いじめ:子どものいじめ 調査やり直しで3万件増 NHKニュース

不登校:小中学生の長期欠席者数をグラフ化してみる(2015年)(最新) - ガベージニュース

ただ、これはブログで何度も書いているとおり、いじめの認知件数は学校が調査した結果であるため、学校が認知するための網の密度を変えれば結構簡単に件数が変わります。だから、いじめ事件があった翌年ばかりいじめ件数が増えるみたいなことになる。 

また、不登校が悪いことかと言えば、教育の多様化とも言えないこともないかもしれません。それは、別の議論。

 

先生は毎年多忙になっている

最後に、先生の数が増えれば先生の多忙度が減るのではないかという話。これが本当なら、ここ30年ぐらいで先生の労働時間は減っていてもおかしくないのに、実態としては残業時間が年々増加し、多忙化していると言われています。 

多忙な教員 その実態は|特集まるごと|NHKニュース おはよう日本

この多忙化の要因としては、OECD平均の比較でみると、課外活動(部活動含む)・事務作業が多いという傾向があると考えられます。

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※ 画像は、特集 : 子ども応援便り(子どもたちの豊かな育ちと学びを支援する教育関係団体連絡会)より。

先生の数がいくら相対的に増えても、こういう授業以外の活動の負担が増えてしまっては、授業に使える時間は増えませんし、先生に余裕は生まれません。 

 

締め

以上の理由から、現状の生徒数が減少する日本で、先生の数を相対的に増やしても得られる効果(リターン)は大きくないと考えています。先生の数が相対的に増えても学力やいじめや多忙度があまり変わらないのであれば、違う方法で、それらを個別に対処した方がいい。先生に何でもかんでも任すのにそもそも限界がきているのかもしれません。

 

個人的には、学力の向上としては、乳幼児期の読み聞かせの徹底、習熟度別クラスの導入、貧困家庭の就学支援といったところが効きそうで、いじめ対策としては加害者が発生することを未然に防ぐための加害者予備軍家庭のカウンセリング・経済的支援、先生の多忙対策としては部活動の地域ボランティア化(アウトソーシング化)といったところがあるかなぁと考えています。この点については、有効な対策を既に専門家の皆さんが検討されていると思いますけどね。

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学

  • 作者: 中室牧子
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2015/06/17
  • メディア: Kindle版
 

※ Twitterでも紹介しましたけど、この本、面白いです。