NHKの連続テレビ小説『まれ』について、
「斗比主さんから見て朝ドラの『まれ』はどういった人物に見えるでしょうか」
という依頼がありました。
前提条件
『まれ』はTwiterのタイムラインでの評判が物凄く悪かったのであえて見ないようにしてきました。しかし、依頼があったのでその依頼時点で見ることができた最終週である151回~156回まで見ることにしました。細かな内容は昨日実況しています。
今から子どもと一緒に今週分のまれ見ます。Twitterで実況するので、ネタバレが気になる人はスルーしてください。 なお、まれはこれまで一度も見たことはありません。
— 斗比主閲子 (@topisyu) 2015, 9月 27
ということで、最終週の知識に限定した、まれについての感想を書きます。
まれに関する情報
まれの友人で、今は東京の出版社?に勤める一子がBRUTUSのFacebookページで書いた情報を主な情報源としつつ、最終週を通して、まれについて理解したのはこんなところです。
- 小学校5年生で父親が何かをしでかしたことで東京から石川県輪島市に引っ越してきた。輪島市に知り合いはいない
- 父親はぼんくら、母親と弟はしっかりもの
- 23歳で石川の地元で自分のケーキ屋を開く。24~25歳で双子を産む。現在31歳
- 夫は小学校の同級生で、日本一の親方を目指す輪島塗の職人らしい。結婚式はしていなかった。まれは夫の店?の女将も兼務している
- まれはどうやら腕の立つパティシエらしく、二年に一度のパティスリーの世界大会の日本最終選考に残る
- どうやら昔は夢が嫌いだったらしい
そして役者さんは目力があります。
まれはどう見えたか
経歴だけ見れば相当苦労をしているはずなんだけれど、その苦労が顔や言葉遣いににじみ出ていないように見えました。世界大会の日本最終選考で審査員たちに語る言葉には凄みや説得力はありませんでしたし。後は、計画的に物事を進めるのではなく、その場その場で思いつきのように対処していく印象がある。あまり人間味は感じられない。
計画性のなさというのは、自分の店を開いてから1~2年で子どもを産んでいるという点です。もちろん、いつ子どもを持つかどうかの判断は人それぞれですけど、23歳という若さで石川県の輪島市という、恐らく、ケーキ需要がほとんどないだろう地で、ケーキ屋を開いて、まだまだお店が軌道に乗るとは思えないタイミングで子作りをしている。(輪島市はtabelogでケーキ屋さんが5軒。輪島市のケーキ [食べログ])
たぶん、結婚式をしていなかった理由は、店のオープンや出産のドタバタがあったからだと推測します。もしかして、できちゃった結婚かもしれない。
まれを都合良く苦境に置く演出があったのではないか?
まれ本人の感想については、人間味が感じられないということ以外特にないです。何ていうか、闇がない、深みがない。
それで、設定というか、演出についてはかなり良くないと思いました。このお店のオープンと出産が被っているのは、視聴者をハラハラさせるために、演出上あえてまれを苦境に陥らせたわけですよね。夫が石川生まれの石川育ちで輪島塗の職人なら、男が育児をするという環境にはなく、恐らく、子育てにもあまり関与しなかった可能性が高いし、こんな状況では、普通は、店も子育ても中途半端になって上手くいかない。それを、きっと、まれはどうにかしてきて、その上、夫の仕事もサポートしてきたみたい。こうなっちゃうとまれは常人ではなく、超人になっちゃう。
そして、失踪してきたぼんくらな父親の扱いもよくない。周りの人間の反応を見るに、この父親のぼんくら度はかなり酷いものがあった様子。それなのに、幼少期のまれに凄いシェフのケーキを誕生日に食べさせた、それがきっかけでまれがパティシエになったということを、感動的に流すことで、父親の罪が全て帳消しになったように思わせる演出になっている。
最後に父親も帰って来てみんな仲良し家族だねと、そういう風に終わらせたいのは分かりますけれど、もう少し、その流れに必然性が欲しい。例えば、父親は失踪していたけれどまれの危機の時には本人とは分からない形で送金をしていたとか(あしながおじさん)、子どもであるまれたちは許せても、妻であるまれの母親は許せずにそこで、父親が何か誠意を示すとか。ぼんくらがぼんくらとして許される世界は優しいですけど、それなら、まれの方にももう少し楽な道を用意してもいい。もしかして、最終週以前でこういうことやっているのかもしれませんけどね。
NHKの朝ドラで、現代設定で、この物語をやる意味
これは穿った見方かもしれないですけど、
- 舞台は地方
- 時代は現代(まれは昭和58年生まれの31歳。Facebookやアメブロが利用されている)
- 主人公のまれは、仕事も、子育ても、夫のサポートもする
となると、今の自民党が掲げる地方創生と女性活躍が実現するとこんな感じ?というのをNHKがやってあげたように見えます。NHKの朝の連続テレビ小説というのは、女性の自己実現を表現する面がありますけど、まれは自己実現というより無理やり決まった人生を歩まされてきたというように見えました。
NHKとしてはただ時代の流れを意識してのものかもしれませんけど、それをやるなら、もう少し、まれに人間味を持たせて欲しい気がします。23歳で店を開いて、24~25歳で双子産んで、31歳でパティシエの世界大会の日本第5位に選ばれて、その上で、夫の職人としての仕事もサポートしていて、酷い父親も昔のちょっとした良い事実で許せちゃうなんて、共感しにくい設定ですから。
締め
と、ここまで最終週だけ見た知識で色々推測で書いてきましたけど、ネタバレを恐れて細かく読んでいなかった、依頼のメールの全文を最後に掲載します。
突然のメール失礼いたします。
綾小路と申します。
斗比主さんのブログを毎回興味深く拝見させていただいております。本題ですが、
「斗比主さんから見て朝ドラの『まれ』はどういった人物に見えるでしょうか」
というのをブログで解説していただけたらと思い、メールいたしました。
まれの行動に
・自分の決断に周囲を巻き込んで迷惑をかける
(パティシエを4年でやめる)
(地方公務員を数ヶ月で辞める)
・自分中心の考えしかもってない
(必ず誰か助けてくれるだろう)他にもあるかと思いますが、
斗比主さんの解説を拝読できれば嬉しく思います。
それでは失礼いたします。
綾小路
え、まれって、4年でパティシエを辞めてたんですか!?一子はまれがお店を開いて8年って書いてたのに!?地方公務員にもなったことがあるの!?それで色んな人に助けてきてもらったの!?
これらがその通りなら、お話上は、まれは人間味があるみたいですね。自己中心的でわがままなら、仕事も子どもも夫も全部求めて来ましたということで、そういう強欲な人間として理解できないこともない。
ただ、自分が最終週で見たまれには、そういうわがままさはそこまで強く見えなかったんですよね。芯があるようでいて、流されやすそうな人間に見えました。
なにしろ、自分の結婚式をサプライズで周りに勝手に企画され、しかも、その結婚式のケーキも作らされているのに嫌な顔一つしませんからね。そりゃ、結婚式は招待客にそれなりの対応はしないといけませんけど、自分が企画したのでもない結婚式で、ケーキを作らされるのはどうかと思う。あそこで使われるケーキは、まれの子どもとまれのお母さんが作ったケーキなんじゃないの?と思って見ていました。
ということで、以上、まれの感想でした。
※画像はまれのOST。まれ関連で唯一評判がいい。