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斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

相変わらず子どもの犯罪被害・非行は少なくなっているし、犯罪不安も落ち着いてきている

 先日、こんな記事を書いたのですが、 

「母は生後10月で離乳を強行した」(文藝春秋、神戸連続児童殺傷事件家裁審判「決定」全文より) - 斗比主閲子の姑日記

元々、文藝春秋に家裁審判の決定全文が掲載されていることを紹介されていたid:font-daさんが、その次の記事で、

なぜ、あなたが加害者を憎むのか? - キリンが逆立ちしたピアス

以下の本が犯罪加害者関係で参考になると紹介されていたので読んでみました。2006年発売の新書で今となってはちょっと古いけれど、Amazonでの評価はとても高い。 

犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)

犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)

 

今回、このブログで書く内容は、この本自体の簡単な紹介と、本に掲載されている統計について最新のものを紹介することが目的です。色んな意味で重たいので注意。

 

『犯罪不安社会』の簡単な紹介

『犯罪不安社会』の内容としては、

  • 1997年の神戸連続児童殺傷事件、1999年の桶川ストーカー事件、2001年の大阪池田小学校事件などへのマスコミによる過熱報道で、一般人の犯罪不安(と警察不信)は増大
  • そういった意識の変化と警察の対応方針の変更により、犯罪認知件数や警察安全相談件数が増加
  • しかし、実際は、子どもへの犯罪被害や少年犯罪は減少しているし、犯罪自体も減少
  • 過度な安全への期待によって、地域での防犯活動は不必要な不審者狩りに
  • 結果、受刑者に、一見"普通"から外れる老人・障害者・外国人・無職が増加

こんなところでしょうか。かなりざっくり書いています。(犯罪被害者の救済についても結構なページが割かれている。)

受刑者に占める精神障害者の人数が増えていることとその問題については、山本譲司さんの累犯障害者を読んでいたので知っていた話です。 

累犯障害者 (新潮文庫)

累犯障害者 (新潮文庫)

 

恐らく、当時この『犯罪不安社会』が広く読まれたこともあり、様々な検証がなされマスコミ報道とは違って少年犯罪が実は減少していることなどが既知のことになったんでしょうね。いいことだと思いつつ、今となっては知らない話はそれほど多くありませんでした。

ただ、浜井浩一さんが手がける第一章の犯罪統計の読み方については、犯罪の実態とイメージについて把握する際に、どの統計が参考になるか整理して紹介してあって、これは大変ありがたかった。それで、その犯罪統計をブログで紹介しようと思ったわけです。

少年犯罪絡みはイメージが先行しがちで、多くの人は知っているけれど、まだ知らない人もいるような情報もあるでしょうしね。

 

実際の犯罪発生率が知りたければ『犯罪被害調査』

『犯罪不安社会』の中で、統計学的に犯罪の発生率を知る方法として最もお勧めされているのが犯罪被害調査です。ランダムにサンプルを抽出して犯罪に遭遇したか聞いたもの。警察に届け出されなかったものも含まれます。本の中では2000年と2004年の2期分しか確認できませんが、ちゃんとその後調査が継続されていて、2008年と2012年分の調査結果も『犯罪白書』で公開されています。

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※画像は、平成24年版 犯罪白書 第5編/第3章/第2節/2より

色々基準の変更があるので、単純比較ができない犯罪もありますけど、傾向としては下がってきている感じですね。2008年が最低っぽい。

 

幼児の殺人等の被害については『人口動態統計』

人口動態統計は、死因についても確認できるので、殺人でどれだけ子どもが死亡しているかを知るのには一番直接的。

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※画像は、少年犯罪データベース幼児他殺被害者数統計から

これは人口比率で0-9歳の幼児がどれだけ殺されているかを計算したものです。昭和50年あたりから減少傾向ですね。

幼児に限らず、もちろん日本人全体の他殺自体も減っています。

図録▽他殺による死亡者数の推移

 

日本の他殺率の低さについては、OECDの調査で各国比較ができ、

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※画像は、図録▽他殺率の推移(国際比較)より

1980年代あたりから世界の中でも低い方に位置していることが確認できます。同じぐらい他殺率が低いのはシンガポールぐらい。これは、『犯罪不安社会』では紹介されていない統計データです。社会実情データ図録 Honkawa Data Tribuneから。こちらは本当によくお世話になるサイト。本川裕さんは、もう64歳だけど長生きしてほしい。

 

子どもの非行の状況を知りたければ『犯罪白書』

『犯罪白書』をチェックすると少年犯罪の検挙人員や非行少年率が確認できます。

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※画像は、平成26年版 犯罪白書 第3編/第1章/第1節/2より

検挙人員は毎年キレイに減っていっていますね。個人的には実感と近くて、自分の地元の子どもは昔より大人しい印象があります。

非行少年の年代ごとの比率だと、当たり前ですけど、これも年齢ごとに下がっていますね。

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※画像は、平成26年版 犯罪白書 第3編/第1章/第1節/2より

昔はピークが16歳あたりにあったのが全体的に下がってきている中で、15歳がピークになっちゃっています。犯罪が若年化しているわけではなくて、高校生が落ち着いてきている感じですね。何があったんだろう?

 

犯罪不安を確認したいなら『世論調査』『犯罪認知件数』『警察安全相談件数』

このように、犯罪自体は減少している一方で、『犯罪不安社会』で取り上げられていた犯罪不安を表す統計はどうなっているでしょうか。こちらの統計は、最新の情報について出回っているのをあまり見かけたことがなかったので、今回自分でも特に調べてみたかったものです。

まずは、世論調査。平成24年と平成18年を比較したもの。

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※画像は、内閣府による「治安に関する特別世論調査」の概要から

相変わらず、治安が悪くなったと思っている人がマジョリティですけど、悪くなったと思う人が大幅に減少していたり、よくなったと思っている人が増えるなど、犯罪不安については多少解消しているみたいです。

世論調査の中では、治安が悪くなった要因を何と考えているかも確認できます。これは、相変わらず、「地域社会の連帯意識が希薄になったから」が強い。青少年の教育が不十分とか、在日外国人による犯罪が増えたからとか、刑罰が不十分というのがこの6年間で下がっています。

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この結果からすれば、『犯罪不安社会』で問題視されていた、地域活動での防犯活動の強化の流れは続きそうです。 

 

警察による犯罪認知件数は、『犯罪不安社会』が出版された時点での直近の2004年まで右肩上がりに増えていましたが、これも、その後は落ち着いてきています。もしかしたら、単に受理されづらくなっているかもしれないけれど。

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※画像は、平成26年版 犯罪白書 第1編/第1章/第1節より

 

一方で、警察相談件数は、『犯罪不安社会』が出版された当時の最新の平成16年がピークで、そこから下がっていくように見えて、また、平成22年あたりから増加していっています。

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※画像は、第3節 地域住民の安全・安心確保のための取組より

犯罪の認知件数も増えていないし、もちろん犯罪被害率も減っていっていますから、カジュアルに警察に相談する人が増えたということでしょうね。逆に、相談しやすくなったことで、これによって治安がよくなったと感じる人が増えた可能性もある。

 

締め

ということで、統計のその後を見ると『犯罪不安社会』で紹介された時よりも、日本は犯罪発生率は減っていて、児童が被害になる犯罪も減っているし、非行率自体も下がっています。

本で懸念されていた犯罪不安についても、認知件数は減っているし、全体的には治安が良くなっていると思う人は増えているようなので、落ち着いてきているように見えます。

 

ただ、世論調査の通り、相変わらず、治安が悪くなっているというイメージはマジョリティなんですよね。この点について、『犯罪不安社会』で紹介されているデータで面白かったのが、日本全体と地域周辺での犯罪が増加したかの調査。

たぶん、今でもこのギャップはありそうな気がします。

 

個人的には、自分がこの10数年でテレビを見なくなり、ネットでも情報ソースが日経とかBloombergとか発言小町に限られているせいか、日本全体の治安は良くなったように感じるんですけどね(目に入りにくい)。テレビの影響力は低くなっているけれど、ネットでも少年犯罪や結構重たい殺人事件は何かと話題になりますし、この辺のメディアの変遷が犯罪不安にどう影響を与えているかについて今どうなっているのか詳しく知りたいところです。

 

なお、地域社会の連帯意識がなくなったから治安が悪化しているというイメージは、かなり害だと思っています。これがあるせいで、PTAの地域の見回り活動をリストラできないので。

結局、社会にあるリソースは限定されますし、日本ぐらい安全な国はほとんどないのに、どこまでこれに力を注ぎ込むべきかなんですよね。

子どものこととなるとやっぱりできるだけのことをしたいという気持ちは自分の中にもありますが、例えば97%の安全率(あくまで例えですからね)を99%まで引き上げるのに莫大な費用をかけるぐらいなら、他の分野で到達率が60%とか70%とか、改善余地が大きいところがあれば、そういうところにリソースを注ぎたい。こういうのによく駆り出される専業主婦の労働力はタダではないし、専業主婦だって減ってきている。

 

でも、「ここら辺は治安がいいんだから見回りを減らしてもいいのでは?」という提案は、数百km離れた地域でたまたま起きた児童の連れ去り事件一件を例にして、反対されることがある。子どものためとなれば見回りを減らす行為は犯罪行為のようにみなされる。

 

政策的にCool Japanをどうにか流行らせようとしていますが、日本が世界の中でも有数に犯罪率が低くなっているという最高にCoolなところも、もっと認知されるといいなと考えています。