斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

株式会社はてなの決算を通して学ぶ会計の基礎の基礎

株式会社はてなと言えば、設立15周年経っても、週刊アスキーのスタートアップ枠で紹介されるように、永遠のスタートアップとして有名です。

はてなさん、どうやって儲けてるの? - 週刊アスキー

また、その株式会社はてなが提供するはてなブックマークのヘビーユーザーと言えば、何年経っても、同じような内容の英語や会計の勉強記事をブックマークし続けることで、有名です。

というわけで、今回は、そんな勉強熱心なはてなユーザー向けに、創業15年になるスタートアップ・ベンチャー企業である、株式会社はてなの最近の財務数値(要約貸借対照表)を紹介しながら会計の基礎の基礎の勉強になるようなことを紹介してみます。

情報も限られていますし、内容は本当に基礎の基礎ですから、"後で読む"のタグを付けてブックマークしなくても大丈夫。玄人は読まなくていいし、素人でもすぐに読めますよ。

「あとで読む」機能 - はてなブックマークヘルプ

http://www.flickr.com/photos/23713037@N07/8672616932

photo by Norio.NAKAYAMA

※株式会社はてなは、Flickrでの画像貼付機能を提供しているのだし、もう少し、素材をFlickrにアップロードしてくれてもいいと思う。

 

はてなの決算3期分

ということで、早速こちらが株式会社はてなが官報公告で開示した貸借対照表(要旨)の3期分です。株式会社は基本的にいくつかの方法で貸借対照表を公開しないといけません。はてなの場合はここ3期は官報で公告しています。

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※上記の画像の元になる数字は、Google Spread sheetで公開しています(はてなの決算 - Google スプレッドシート)。この画像何度か繰り返し登場します。

7月決算で3ヶ月後の10月に毎回決算を広告しています。ということで、2015年7月期の決算は2015年10月に官報で広告されるはずです。ぱっと見だと凄く情報が少なく見えますけど、意外と分かることがあります。

 

増えたものと減ったもの

まず、貸借対照表の基本的な知識。左側の資産側と右側の負債・純資産側は合計が原則的に一致します。だから、英語でBalance sheetと言うんですね。

それで、資産側が減ったり増えたりするということは、資産側の中で何か勘定科目間での移動があったのか、負債・純資産が増えたかということになります。

 

はてなの貸借対照表では何が増えているでしょうか。

大きなところに限定すると、資産側では①固定資産が増加していますね。負債・純資産側では、②流動負債が減少し、③固定負債が2013年に増加し、④資本金・資本剰余金が2013年に増加し、⑤当期純利益が積まれて利益剰余金も増加しています。

ざっくり言えば、毎年ちゃんと安定的に利益は出ていて、その儲けたお金で、設備投資をちょこちょこしていて、財務も(元々健全なのが更に)健全化していっているのが、この3期の傾向です。

もう少し細かく見ていきます。

 

どうして増えたか、どうして減ったか

①固定資産の増加は、土地や建物や設備等を購入すると増えます。毎期3千万円ぐらい増えていますね。はてなは土地や建物を買うようなビジネスモデルではありませんから、増えているとしたらオフィス関係の構築物。ちょうど2012年10月に東京オフィスを移転しています。

はてな、東京オフィスを表参道に移転、ビジネス体制を強化。あわせて「東京開発センター」をオープン - プレスリリース - 株式会社はてな

ただ、2014年7月期については、それらしいニュースが見つかりません。ソフトウェアやサーバーなどを購入したんでしょうかね。

 

②流動負債については、買掛金や支払金や短期借入金など1年以内に支払う必要のあるものが計上されます。これが毎期結構減っていっています。買掛金ならビジネスが拡大していればそれなりに増えていくものです。また、支払いサイト(どれくらいの期間でお金を支払うか)もそんなに簡単には変わりません。資産側の流動資産(現金や売掛金が含まれる)が特に大きく増減していないことからすれば、買掛金などビジネスに直接かかわる負債が減少したというより、それ以外のものが減少したと考える方が自然です。恐らく、オフィス移転に関わる設備代金の未払金の支払いか、短期の借入金の弁済当たりが行われたのだと考えられます。

 

たまたま、2013年7月期については③固定負債が増加しているので、一部短期から長期に借入金を借り換えしているのかもしれません。固定負債は1年以上の長期の負債です。なお、一般に固定負債には退職積立金が計上されたりしますけど、はてなのように退職率が高い会社では、退職金制度はないんじゃないかと思います。社員にとってインセンティブにならないので。

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同じく、2013年7月期には④資本金・資本剰余金(資本準備金の額=資本剰余金だったので、資本準備金は資本剰余金にまとめちゃっています)が増加しています。これは、この期に増資をしたということです。増資をする場合、原則資本金が増えますが、資本準備金にも1/2振り分けることが可能です。資本金ではなく、資本準備金にもはてなが振り分けている理由は、もうすぐ、資本金が1億円以上になりそうで、できるだけ資本金以外を増やしたいという発想でしょうね。

この辺の資本政策は、2012年に公募があって入社された小林CFOが差配されたことだと思います。

部長の名店(AERA STYLE MAGAZINE) - メディア掲載実績 - 株式会社はてな

小林直樹さん(51歳)
取締役CFO コーポレート本部長
不動産デベロッパー、監査法人、バイオベンチャーなどを経て2012年よりはてなの現職。 

ただ、流動資産には結構現金が残っていそうだし、特に大掛かりな投資もしていないですから、この期間に、増資をする理由はあんまりないんですよね。また、はてなが外部から増資を受けたという情報はネットにはないので、小林CFO含めて、この時期に上場要員としてはてなに入社された方が出資したのかもしれません。たかだか、2千万円ぐらいですから。

ミロク情報サービス×はてな、CFO対談 「上場の意義」と「CFOのやりがい」を語り合う|特集|株式会社ミロク情報サービス

利益は飛ばして、⑥の自己株式とは、過去株主から買った株です。過去はてなを退職された取締役の方からでも、買い取ったんでしょうね。増えてもいないので、少なくとも3期間ははてなは自社株買いをしていません。

ここら辺についてもう少し知りたい人は、以下のリンク先をどうぞ。

【転載】資本政策分析:株式会社はてな - 起業ポルノ

【転載】資本政策分析:株式会社はてな その2 株主資本 - 起業ポルノ

 

最後に利益

そして、最後に⑤当期純利益。 

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見て分かる通り、2012年7月期が一番大きいです。流動資産は利益の現金分考慮しても増えていないぐらいだし、ここ三年で売上も微増ぐらいでしょうか。

安定しているとは言えるけれど、上場するにはこのままでは物足りない水準です。PER20倍と考えると時価総額15億円いかないぐらい。

国内株式指標 :株式 :マーケット :日本経済新聞

 

締め

ということで、はてなの決算をイベントを通して見てきました。

 

はてなって、ユーザーがその一挙手一投足に注意を向けているから、コーポレートイベントの裏側に財務的な法務的な意味があることを察するいい材料になるんじゃないかと思います。やっぱり、興味があることなら頭に入りやすいじゃないですか。もちろん、重度のユーザー限定ですけれど。

 

例えば、はてなが利用規約の改定をして、(今更ながら)反社への資金提供と利益供与の禁止をしたりしたのは、

はてな利用規約およびはてなAPI利用規約を改定しました - はてなの日記 - 機能変更、お知らせなど

上場を考えたら当たり前のことですし、その後の、

はてなポイントによるポイントシステムを段階的に廃止し、新しい決済方法に移行します - はてなの日記 - 機能変更、お知らせなど

ポイントシステムの廃止は、はてなポイントが不正な金銭のやり取りに使えそうという上記の規約絡みとも取れますし、ポイント引当などの会計処理の手間を考えてわざわざある必要もないものを廃止しようとしているとも考えられます。(ちなみに、ポイント分は計上しているなら流動負債にあるはず)

 

他には、冒頭で紹介したアスキーの記事にもある通り、

はてなさんは何で儲けてらっしゃるんですか、とたずねてみると「広告ビジネスが一番大きいですね。B2Cなら、はてなブックマークとかはてなブログに出している広告があります」とはてなさんは言う。やっぱり広告ですか。

売上面で見れば、広告が大きいですから、はてなブログでフォトログやミニマリストのように新規ユーザーを増やそうとするのは理解できるし、

グッバイ、五月病!はてなの使い方 - はてなを始めよう

何かと運用の難しい、はてな匿名ダイアリーが存続しているのも広告収益からすれば分からぬでもありません。

 

ちなみに、上場して資金調達をしても今の本業をこのままやっていくなら使い道は特になさそうですよね。知名度や採用には有利にはなるでしょうけど。上場で得た資金で、gumiみたいに企業買収するのかなとか、GunosyのようにテレビCMでも打ってユーザー数を増やそうとするのかなとか、ユーザー視点で色々考えてみるのは面白いと思います。 

 

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