斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

関係者の内部告発によって暴かれた『東芝、米原子力子会社1600億円の減損』

昨日このニュースを見かけまして、

スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽:日経ビジネスオンライン

「ああ……」と思わず口からため息が出ていました。

報道された内容としては、

東芝の米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)で、計1600億円の巨額減損が発生していたことが日経ビジネスの取材で分かった。WHの単体決算は2012年度と2013年度に赤字に陥っていたが、本誌が指摘するまで東芝は事実を開示しなかった。

というものです。

 

のれんと減損

"計1600億円の巨額減損が発生"ということですが、会計をよく知らない人のために簡単に説明します。

通常会社を買収した際に、買った会社の純資産と買収額に差があった時にのれんというものが発生します。

財務の急所(4)のれん、なんのこと? :日本経済新聞

のれん 減損

この日経の図が分かりやすいですね。買った会社の魅力をのれんとして貸借対照表の資産に計上しておくわけです。

この魅力が徐々になくなるとか、維持できなくなるとか、そういうことを考慮して、会計上は償却したり(徐々に減らしたり)、減損処理したり(一気に減らす)します。

東芝は米国会計基準を適応していますので、買った会社の処理は減損処理になります。減損処理をすると、処理した金額が特別損失として扱われますので、結果として純資産が減ります。だから、減損というのは会社としてはできればしたくないものです。

 

東芝におけるWHののれん

東芝が今回話題になっているアメリカの原子力子会社であるWHを買収したのは2006年で、当時から高値掴みだと言われてきていました。元々のれんが大きかったわけです。直近で確認されているWHののれんは3400億円ぐらいです。

東芝 ウェスチングハウス のれん

※画像は、『東芝 投資家情報(IR):決算説明会:2015年度 第2四半期決算説明会』より。赤枠は筆者

2011年の東日本大震災を経て、WHの原発受注状況は好ましい状態ではなかったのではないか(買収した時点で想定していた魅力を維持できていなかったのではないか)と疑われていましたが、東芝としてはこれまで好調としてきていました。従って、WHにまつわるのれんの減損もしないできていました。

東芝は昔から財務体質は弱かったのですが、直近では総資産は6兆円、純資産は1.5兆円ですから、このWHののれんを減損するかどうかについてはかなりインパクトが大きい話であるというのが分かるかと思います。

 

実はWH単体としては減損処理していた

それが、WH単体としては2012年と2013年に実は減損処理をしていたのが、2015年11月7日(土)に開かれた決算説明会の資料で判明しました。ただし、これはWHとしての事業ごとにみたときの減損であり、東芝という会社としては減損をする必要がないというのが東芝の説明です。

東芝 ウェスチングハウス 減損

※画像は、『東芝 投資家情報(IR):決算説明会:2015年度 第2四半期決算説明会』より。赤枠は筆者

通常土曜日に決算説明会を開くなんてことはなく、マスコミ各社の報道でも異例であるとして憶測が書かれていました。

東芝、中間決算を“異例”の休日開示 7日土曜日に発表 - 産経ニュース

休日開示は、取締役11人のうち社外取締役が7人を占めているため日程の調整がつかず、平日の決算取締役会が開けないという事情があるものとみられる。

この時の決算説明会の説明内容は以下のリンクで確認でき、 

東芝 投資家情報(IR):決算説明会:2015年度 第2四半期決算説明会

東芝の代表執行役は、このWHののれんの話について、唐突に話し始めて、あまり積極的に語りたくない様子でした。自ら説明しておいて、「事業の実態に合わせて会計処理をしているのでご理解していただきたい」とも言っています。

自分は先週土曜日にこの決算説明会を家で見ていて、何だか奥歯に物が挟まっている感じだなと思っていたので、昨日の日経ビジネスの報道を見て察したわけです。恐らく、日経ビジネスが内部書類を入手し、東芝に対してWHが単体として減損していたことを指摘し、それを受けて東芝として仕方なく、この決算説明会のタイミングで開示したのではないかと。

東芝としては、本体でのWHの株の減損処理をしない理由について、この決算説明会の資料で、苦肉の策とも取れないですが、一応理解できないこともない形で説明しています。ただ、この11月7日の決算説明会の説明を経た上で、昨日日経ビジネスは、

東芝はこれまで、ほぼ一貫して原発関連事業は好調だと説明してきた。しかし、対外的な説明と内情が全く違っていたことが明らかになった。これに対して東京証券取引所の幹部は「WH単体で巨額の減損があったのなら、今までの説明とは食い違う。企業ぐるみの隠蔽と言わざるを得ない」と指摘する。

とまで書いていますから、これから(も)東芝を追い込んでいこうという意気込みが感じられます。当時の副社長が監査法人に圧力をかけていたのではないかという内部情報も入手しているようです。

この対応は監査人として明らかに失格。ビットを行うので、EYの監査体制を一新してベストで臨んでほしいと申し入れた。(2013年7月)

これが本当なら、監査法人が合理的な判断で減損を認定しようとしていたことに対して、確かに、圧力をかけているようなものです。

 

日経ビジネスが集めていた内部告発

日経ビジネスは、これまでかなり力を入れてこの東芝の問題について取り組んでおり、

社員が本誌に決死の告発 東芝 腐食の原点:日経ビジネスオンライン

内部告発についても継続的に求め続けていました。

スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽 (3ページ目):日経ビジネスオンライン

東芝では通常の方法では達成不可能な目標を強制することが半ば常態化していました。あなたが所属する組織でも似たようなことが起きていないでしょうか。まだ明らかになっていない問題について、日経ビジネスは広く情報を求めています。
 アクセス先 http://nkbp.jp/nb831
取材源の秘匿は報道の鉄則です。そのため所属機関のパソコンおよび支給された携帯電話などからアクセスするのはおやめください。
 郵送でも情報をお受けします。
〒108-8646 東京都港区白金1-17-3
日経BP社「日経ビジネス」編集部「東芝問題取材班」
※送られた資料は返却しません。あらかじめご了承ください。

(赤字は筆者)

以前からWHののれんの処理について不透明であるとされてきたわけですが、日経ビジネスの執念と関係者による内部告発によって、実態が明らかにされたとも考えられます。

 

締め

東芝のチャレンジについては先日簡単に紹介しました。 

個人的には他人事ではないため、関係者の皆様に対しては心中察して余りあるものがありました。

東芝での原子力事業というのは、政府の原発外交と二人三脚で取り組んできた部分もあり簡単には処理が難しいものです。今後減損を東芝本体で行うか含めて、この原発事業をどう取り扱っていくかについては、社内(外)では更なるご苦労があるかと推測します。

関係者の皆様におかれましては、どうぞお身体をお大事になさってください。苦しい時こそ踏ん張りたい気持ちは分からなくはないですが、心が疲弊してしまうと体力以上に戻ってこないものです。

以上、本題です。以下、余談です。余談は私的な話です。

 

 

 

余談

先日、株式投資に関して、友人との会話を書き起こしました。 

この中で、自分は、日本の会社への投資を行っていない、世界分散投資を行っていると書いています。この理由について、あえて具体的には説明しませんでしたが、一つには日本企業にはまだまだ投資家に対する透明性が欠けているという考えがあります。

通常、会社の業績などは株価に反映されるものです。ただ、会社が適切な情報を開示していなければその情報は株価には反映しきれません。

東芝 株価 推移

※グラフは、6502 (株)東芝 (東芝) チャート :日経会社情報:マーケット :日本経済新聞より

株価に企業のネガティブな実態が反映されていない可能性があるなら、その投資は割に合わない。

ですから、個人的には、日本株には投資していません。デイトレーダーのように短期売買をされるのであれば何とかなるでしょうが、長期投資の場合は会社にこういうことをされたらお手上げです。

日本株以上に新興国株式は信用していません。ほとんどどこも粉飾をしているのではないかと疑っています。特に中国。

 

先日の記事では、

私「聞いてもピンと来ないと思うけど、新しく投資する場合は今はこの二つに絞っているね。『ニッセイ外国株式インデックスファンド』と『三井住友・DC全海外株式インデックスファンド』。どちらもざっくり世界の会社の株に投資することになる。日本の会社の株は含まれない」

と書きました。 『三井住友・DC全海外株式インデックスファンド』は新興国株式が含まれるものの信託報酬が格段にやすかったため含めていましたが、同じく昨日『ニッセイ外国株式インデックスファンド』の信託報酬が引き下げられることが報じられましたので、

楽天証券 | 11月21日からニッセイインデックスファンドの信託報酬率が下がります。 

平素より楽天証券をご愛顧いただき、ありがとうございます
11月21日から、下記3ファンドの信託報酬率が下がります。

楽天証券取り扱い中で、最低のコスト水準となっています。

今後は、日本を含まない先進国株式を扱う『ニッセイ外国株式インデックスファンド』に投資資金は集中させていくことになりそうです。