斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

エドウインは「倒産」じゃない?「倒産」と一括りで理解することで生まれる誤解

本日こんな報道がありました。

(株)エドウイン | 倒産速報 | 最新記事 | 東京商工リサーチ

国内ジーンズ最大手、「EDWIN」ブランドで有名な(株)エドウイン(TSR企業コード:290779600、荒川区東日暮里3-27-6、設立昭和44年9月、資本金5600万円、常見修二社長)と、グループ会社28社のうち金融債務のある16社の計17社は11月26日、事業再生実務者協会に対し事業再生ADR手続きの利用を申請した。また、グループ会社の(株)フィオルッチ(TSR企業コード:298613697、同所)は外部株主が存在することから、12月初旬に追加する形で同手続きを申請する予定。今後、同協会の審査を経て正式手続きが進められる見込み。

 エドウインについては去年から投資損失隠し絡みで粉飾決算の疑いが報道されているなど、どのように債務を処理するかが議論になっていたのは周知のことでした。

報道を受けてエドウインが破産でもする(今後エドウイン製品が購入できない)かのように受け止めている方が多いようです。これは、倒産という言葉を一括りに受け止められているため、このような誤解をしているように思います。

はてなブックマーク - (株)エドウイン | 倒産速報 | 最新記事 | 東京商工リサーチ

この記事では、会社が債務を処理する枠組みを簡単に紹介し、この報道の受け止め方について書いてみるものです。

http://www.flickr.com/photos/79753359@N00/3133638948

photo by ames sf

 

エドウインの迷走に関する報道

最初の報道は2012年8月24日の読売新聞でした。

Ceron.jp - ジーンズのエドウイン、200億円投資損失隠し (読売新聞) - Yahoo!ニュース

これをきっかけに、オリンパス粉飾報道で勢いづいたFACTAが何度か誌面で取り上げていたため、債務の処理やスポンサー探しをしていることについては周知のことになったと思います。

「粉飾エドウイン」伊藤忠が買収か:FACTA online

エドウインと三菱UFJの「悪事」が露見:FACTA online

 

「倒産」という決まったものがあるという誤解

ということで、エドウインの内情については報道から漏れ伝わるところがありました。そして、本日倒産報道が出たわけです。素直にこういう話を聞くと、もうエドウインは終わりではないかと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、報道には事業再生ADRを検討しているということですから、仮に倒産の定義に含めるとしても随分軽いものだという印象を受けます。

 

そもそも、誤解があるかもしれないのは、倒産とは法律で定義されている言葉ではないことです。以下の帝国データバンクの言葉を借りて、「弁済しなければいけない債務が弁済できなくなった状態」を指すとすれば、それに包括されるものは数多くあります。

大型倒産速報 | 帝国データバンク[TDB]

日常的に使用する「倒産」という言葉は、法律用語ではありません。一般的には「企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態」を指します。具体的には、以下に挙げる6つのケースのいずれかに該当すると認められた場合を「倒産」と定め、これが事実上の倒産の定義となっています。

(1)銀行取引停止処分を受ける※

(2)内整理する(代表が倒産を認めた時)

(3)裁判所に会社更生手続開始を申請する

(4)裁判所に民事再生手続開始を申請する

(5)裁判所に破産手続開始を申請する

(6)裁判所に特別清算開始を申請する

※手形交換所または電子債権記録機関の取引停止処分を受けた場合

 

このうち(1)と(2)が「任意整理」で、(3)~(6)を「法的整理」と大別できます。

ですので、単に倒産という言葉を聞いた時には、どのような類の倒産であるかを確認する必要があります。

 

エドウインは「倒産」していないのか?

このように倒産という言葉自体が曖昧なものであり、かつ実務上定義されていてもその中には分類があるため、エドウインが選択しているとされる事業再生ADRは倒産ではないという議論も出てきます。

たしかにエドウインの公式サイトは503になったが倒産した訳ではない : 市況かぶ全力2階建

 

これはもう倒産という言葉を使うから悪いのですが、一般に事業再生ADRは先の帝国データバンクの定義にある任意整理(私的整理)の一手段です。ですので、帝国データバンクの定義であれば事業再生ADRは倒産に該当すると思います。

倒産・事業再生 : アンダーソン・毛利・友常法律事務所

当事務所は、破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続等の法的整理手続において破綻企業の申立代理人、管財人等(多くの弁護士が裁判所より破産管財人、監督委員等に選任されています。)として、また、事業再生ADR、企業再生支援機構等を利用した私的整理手続においても、破綻企業の代理人、アドバイザー等として、数多くの破綻企業の再生及び整理の場面において専門的なサービスを提供し、多くの実績を有しております。これらに加え、法的整理手続又は私的整理手続において、破綻企業の既存債権者、破綻企業の新規スポンサー、DIPレンダー等の関係当事者を代理して、債権回収、債権譲渡、破綻企業又は破綻企業の管財人との交渉等の倒産関連業務も幅広く行っています。 

でも、こんな定義のことよりも、知っておきたいのは、倒産の分類の中での軽重です。倒産という言葉を狭義の意味で誤解する人が多いから、「倒産ではない」と主張したい人も出てくるわけです。

 

前向きな「倒産」もある

まず、倒産と言っても、事業継続を前提とするか、そうでないものなのかを確認する必要があります。先ほどの帝国データバンクのページにも、

また、倒産は会社を清算(消滅)させる"清算目的型"と、事業を継続しながら債務弁済する"再建目的型"に分けられます。

清算目的型:「破産」「特別清算」、大部分の任意整理

再建目的型:「会社更生法」「民事再生法」、まれに任意整理の一部

このように、清算目的か再建目的かというのがあります。多くの倒産は、清算目的型の破産ですから、確かに倒産と聞くと破産をイメージするかもしれません。これが一般的には狭義の倒産でしょうか。一方で、これ以外の、再建目的型=事業が存続するものも存在します。

全国企業倒産集計2012年度報 | 帝国データバンク[TDB]

■態様別

ポイント 破産の構成比が94.0%、過去10年で最高

態様別に見ると、破産は1万63件(前年度1万662件)で前年度比5.6%の減少となったものの、構成比は94.0%に達し、過去10年で最高となった。会社更生法は7件(前年度13件)、民事再生法は396件(前年度497件)で、ともに2年ぶりの前年度比減少となった。

要因・背景

1.再建型手続きが困難な中小零細企業の構成比が高まり、破産が高水準で推移

2.民事再生法は、施行以来最少を記録。会社更生法は、5年ぶりに1ケタにとどまる

エドウインがとろうとしている事業再生ADRは再建目的型手続きです。つまり、前向きな「倒産」です。

 

事業再生ADRとは

事業再生ADRは、一般には任意整理と法的整理の中間というか、両方のいいとこどりをした仕組みとされています。(分類上は任意整理)

任意整理は債権者と直接やるのでいつまで経っても結論は出ないかもしれないけど手軽、法的整理では裁判所が絡むので結論は出るけど手続きが面倒という違いがあります。事業再生ADRでは、任意整理だけど間に第三者(法務大臣が認めた事業再生ADR事業者)を入れることで、債権者との交渉がスムーズに進むようにした仕組みです。法的強制力があったり、税務面でのメリットがあったりします。

かなり、大雑把な説明ですので、詳しくはこちらをどうぞ。

「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」に基づく事業再生ADR制度について~早期事業再生のために~ 平成23年7月経済産業省産業再生課

 

事業再生ADR申請企業

そうはいっても、過去どんな企業が事業再生ADRを申請したのか知らないとイメージが沸かないと思います。有名どころでは、日本航空、ウィルコム、アイフル、林原グループでしょうか。

事業再生ADRについて:『よくわかる事業再生』

事業再生ADR申請企業一覧
申請日 申請会社名 業種 会社URL
23年3月14日 マルマエ(東証マザーズ) 精密切削加工事 http://www.marumae.com/
23年1月25日 林原グループ ※ 食品原料製造 http://www.hayashibara.co.jp/
22年9月3日 新日本建物(JASDAQ) マンション・戸建分譲 http://www.kksnt.co.jp/
22年7月6日 名古屋臨海高速鉄道 鉄道 http://www.aonamiline.co.jp/cgi/index.asp
22年6月30日 丸和(福証) スーパーマーケット http://www.maruwa-web.jp/
22年6月1日 大和システム(東証1部)※ 不動産 http://www.daiwasys.co.jp/
22年4月26日 日本インター(東証1部) 半導体・電子部品製造 http://www.niec.co.jp/
22年3月2日 アルデプロ(マザーズ) 不動産再生販売 http://www.ardepro.co.jp/
21年11月13日 日本航空(東証1部)※ 空運 http://www.jal.co.jp/
21年9月24日 ウィルコム※ PHS通信 http://www.willcom-inc.com/
21年9月24日 アイフル(東証1部) 消費者金融 http://www.aiful.co.jp/
21年8月4日 さいか屋(東証2部) 百貨店 http://www.saikaya.co.jp/
21年6月24日 ルートイン・ジャパン ホテル http://www.route-inn.co.jp/
21年6月24日 泉精器製作所 ※ 電設工具製造 http://www.izumi-products.co.jp/
21年6月23日 ラディアホールディングス(東証1部) 人材派遣 http://www.radiaholdings.com/
21年6月22日 日本エスコン(JASDAQ) 不動産分譲 http://www.es-conjapan.co.jp/
21年5月13日 日本アジア投資(東証1部) 投資業 http://www.jaic-vc.co.jp/
21年4月27日 コスモスイニシア(JASDAQ) 不動産分譲 http://www.cigr.co.jp/

 

※ 泉精器製作所は、21年8月24日に民事再生法の適用申請。
※ 日本航空は、22年1月19日に会社更生法の適用申請。
※ ウィルコムは、22年2月18日に会社更生法の適用申請。
※ 大和システムは、22年10月15日に民事再生法の適用申請。
※ 林原グループは、23年2月2日に会社更生法の適用申請。

9割型は手続きは成立しているようです。ただ手続きが不成立だったり、その金融支援では不十分だったりで、法的手続き=民事再生や会社更生に進む企業もあります。

特別企画: 「事業再生ADR手続き」の実態調査

 

締め

再建型でも、債務を整理しようとする行為自体をネガティブに受け取る人はいると思います。ただ、企業の中には本業は上手く行っているけれど債務が重いために事業継続が困難であるというところはあるものです。

また、たとえ健全に見える企業でも、金融機関にリスケ(弁済を遅らせること)をお願いすることもよくある話です。

他人事のように見えて、実は会社がそんな状態であることもあるわけですから、仮に「銀行と交渉しているらしい」「倒産するらしい」と聞いても、どのような類の議論が行われているのか判断し、転職する必要があるのかどうか含めて冷静に見極めたいものです。