以前からの読者であるid:Arturo_Uiさんからこんなお願いがありました。
現代文講師が「共産党キモ増田」の醜悪さを読解する。
- [ところで]
ご多忙とは存じますが、id:topisyuさんに採点をお願いしたいところです。
2015/08/26 23:31
ということで、何か書いてみます。今回書く記事は、現代文の読解が大好きな人向けです。
依頼の内容は何でしょうか?
まずは、依頼自体を読解することにします。ちょっとこれだけだと"何を"採点していいか分からない。時系列では以下のようになります。
①最初にこの独白が意味不明な部分に味があるということで人気になりました。
②次に、この①の独白について読解された方がいました。
③今回いただいた依頼は、②についたブックマークコメントです。
現代文講師が「共産党キモ増田」の醜悪さを読解する。
- [ところで]
ご多忙とは存じますが、id:topisyuさんに採点をお願いしたいところです。
2015/08/26 23:31
とすると、依頼の内容としては、
- ②の読解が正しいか採点して欲しい
- ①の文章が釣りかどうか、釣りであればその出来を②のように採点(読解)して欲しい
- ②の読解を書いた人物が現代文講師であるか採点して欲しい
この三択になるかと思います。
現代文の問題だとすれば1が回答ですが、id:Arturo_Uiさんは自分の釣り解説を好きだという文中にはない背景情報を考慮すると2の可能性の方が高くなります。2の文章の一番最後にある、
釣り?
何件か釣りかというコメントがあったけど、読むかぎり確かな証拠はない。
これを読んだ反応。3については、読み手としてそんなことは興味がないだろうし、まずありえません。
ということで、今回は依頼を2と考えました。
"大学時代に友達”だった”女の子が共産党に投票してることがわかった。"は釣りか?
以下、釣りかどうかコメントをしますが、まずは元の文章について読んでみてください。
大学時代に友達”だった”女の子が共産党に投票してることがわかった。
大学時代に友達”だった”女の子が共産党に投票してることがわかった。
美人で”誰にでも優しい”性格で、恥ずかしながら好きだったことがある。
大学時代に勇気を出して二度も告白したがダメだった。無謀というか、距離の詰め方を知らなかった当時の自分の当然の帰結だ。
しかし、それでも今まで”友達として”おつきあいがあったのは、彼女の性格所以だろう。
自分の数少ない女友達の中では、断トツで顔も性格も体も良かったのは確かだ。
しかし、その知人女性は共産党に投票する人間だったようだ。
それで理解した。
日本には信教の自由があるので、それ自体にどうと言うつもりはないが、こちらが関係を持つ持たないもまた自由だ。
しかし、自分という人間の卑小さに嫌々するが、自分の中に打算的な考えが湧いてきて、彼女との関係性の今後についての切断処理に躊躇がある。
しかし、今思うと、天使に見えていた彼女はただ単に周りに上から施しを与えていただけで、彼女の人間性所以ではなかったということだ。
その偽善的な優越感に今は憎しみすら感じている。
仕方ない。
二度も恥をかかされたのだから。騙されていたのだから。
ある意味ですっきりした部分もある。少しばかり自分の見る目のなさを反省すればいいだけの話なのだから。
自分の責任というのは、人に責任を押し付けるよりも前に進みやすい。
現実的なところでは、彼女のためにも、いきなり関係性を切るのはやめて、ゆるくその時がくるまで付き合っていくんだろう。自分もそれぐらいの大人ではある。
むしろ、変な期待感を持っているよりも、欲望に忠実になれていいかもしれない。
自分は思想で人を差別するほどクズではないのだから。
誠実さとは期待感であり、欲望とは諦念である、といったところか。
”変な期待感”と、”未来の供養”のために書いてみた。
素晴らしく気持ちの悪い文章ですよね。では、これが釣り(創作)かどうか。
釣りかどうかの判断方法としては、
- 現実にありえるかどうか
- 創作であるような特徴があるか
このどちらかで考えられることが多いです。
一般には前者が利用されているようですが、自分はもっぱら後者で検討するようにしています。というのも、以前にも書いたとおり、世の中には自分には想像もつかない言動をする人がいるからです。
現実を認知するのはその人自身であり、一人の人間が認知できるものには限界がありますから、現実にありえるかどうかという観点は、自分の観測範囲に依存することになります。簡単ではあるものの、これには汎用性が乏しいですし、釣りであるかの説得力に乏しい。
ということで、創作であるような特徴があるかを判断基準として読んでみます。自分の基準としては、①文章に書き手以上の巧みさがあるか(その書き手が本物であればその書き手が習得していると考えられる技術以上で書かれているか)、②読者が一言言いたくなるフックがどれだけ意図的に含まれていると考えられるかです。
まず、①文章の巧みさについて。これは書き手の資質通りの文章だと思います。高度な国語技術を身に付ける機会があり、直接会話でのコミュニケーションが得意ではない、自尊心の高さが伺える文章。例えばこんなところです。
引用符による強調の多さ
・大学時代に友達”だった”女の子が共産党に投票してることがわかった。
・美人で”誰にでも優しい”性格で、恥ずかしながら好きだったことがある。
・しかし、それでも今まで”友達として”おつきあいがあったのは、彼女の性格所以だろう。
・”変な期待感”と、”未来の供養”のために書いてみた。
難解な単語の多さ、ややこしい言葉遣い
・無謀というか、距離の詰め方を知らなかった当時の自分の当然の帰結だ。
・しかし、それでも今まで”友達として”おつきあいがあったのは、彼女の性格所以だろう。
・しかし、自分という人間の卑小さに嫌々するが、自分の中に打算的な考えが湧いてきて、彼女との関係性の今後についての切断処理に躊躇がある。
・その偽善的な優越感に今は憎しみすら感じている。
・誠実さとは期待感であり、欲望とは諦念である、といったところか。
内容と本人の属性との齟齬がなさそう。この観点では釣りの可能性は低い。
次に、②釣り針が意図的かどうかについて。この文章で読者が引っ掛かっている個所があるとすれば、
- 共産党というキーワードがタイトル等に含まれていること
- 非モテ男性視点による一方的で気持ち悪い文章そのもの
この二つです。
タイトルは本人が伝えたいことが含まれているだけですし、文章そのものについては本人の資質の範囲内で書かれているのは先ほど説明した通りです。言ってしまえば、これ以上に釣り針がない。よく読んでみると気持ち悪さが伝わってそれに何か言いたくなるぐらい。
もう少し、バズワードが含まれていれば、はっきりとした釣り針があると見て取れるでしょうが、これぐらいだけが手がかりだとすると、少し弱いです。少なくとも、常習犯的な釣り師によるものではない。
ということで、結論から言えば、自分は釣りではないと思います。釣り師の最大の敵である、ナチュラルボーン釣り師案件ではないでしょうか。
ある程度論理的に書かれた文章を現代文の読解問題として解きほぐす面白さ
釣りかどうかはさておき、先ほど紹介した②の現代文講師による読解は面白いですよね。一部、自分とは解釈が違う個所がありましたが、ほぼ同じ見解です。
今回①を書いた方は、自尊心が肥大しているものの、文章自体はかなり高度なものです。歪んだ感情が下敷きにあっても、文章の中では一応論理的です。筋は理解できる。かなり高度な国語力がある。だから、ほとんどの人が今回の②の読解と同じような解釈に辿り着くことができる。こういう文章の読解というのは、高校の現代文の問題を解くのに非常に似ています。
例えば、
”変な期待感”と、”未来の供養”のために書いてみた。
ここなんかはいいですよね。現代文の問題として、
『ここでいう筆者の"変な期待感"、"未来の供養"とは何か。具体的に説明せよ。(150字)』
というものがあったとして、先ほどの解説された方がやっていたように、文中から答えを導き出せるようになっている。
もちろん、この①を書いた人に非常に近い環境に置かれている方とか、その他背景情報がある場合は、違う解釈が成立する余地もあるでしょうけどね。文中にはない情報が入手できていると解釈も変わりうる。
締め
時々、「私は子どもの頃、国語が得意で、数学はだめだった。国語は感覚的に分かるけど、数学は論理的だから無理!」という発言を見かけます。そういうのを見ると、国語の読解こそ論理的に回答できると考えている人は少ないのかなと思います。
小学校の国語と算数、中学校の国語と数学は、相関関係がそれなりにあるんですよね。
※画像は、中学生の国語・数学の問題分析(教科間の相関):第4回学習基本調査・学力実態調査 - ベネッセ教育総合研究所より
国語の成績だけがいい子というのは、えてしてそれなりに豊富な読書量を背景にして、経験値を利用した感性で回答を導き出そうとすることがある。
当たり前ですが、(作者が考えていた意図とは違ったとしても)基本的には文中の材料だけで答えが出せるようになっていないと、試験問題としては悪問なんですよね。だから、解釈の余地がない答えを論理的に導き出す訓練を積むと、国語の読解の点数は比較的楽に取れるようになる。
国語の読解の点数が安定しない人は、感覚的に答えようとしちゃうことが大体の原因です。間違っていたら「あー、違ってたんだー」、合っていたら「やった!」で終わりで、なぜ間違っていたか、合っていたかのプロセスを明確にしない。
そういう意味で、現代文の読解が大大大好きな人には、ミステリー小説好きが結構多いと思います。