斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

天才編集者の箕輪厚介氏がコンサルで、上場おじさんが経営陣で、美容メディア「キレナビ」で会社を上場させた敏腕経営者の経沢香保子氏が社長で、シッターの親からの評価がほぼ満点のサービス『キッズライン』で、なぜ半年で二度も児童わいせつ事件が起きたのか

たぶん、タイトルにあることがそれぞれ複数折り重なって発生確率が上がっていった事件だと私は思いました。

以上が言いたいことで、以下はすべて蛇足です。お好きな人だけどうぞ。

キッズラインで起きた二度の児童わいせつ事件とは

まだ容疑段階ですが、『キッズライン』という主にシッターと親を繋ぐマッチングサービスで昨年11月と今年5月の二度、それぞれ別の人物による児童わいせつ事件がありました。

詳しくは、著書に『「育休世代」のジレンマ』のある中野円佳さんの、

次の2つの記事にあります。フラッシュバックもありえますし、小さな子どもを育てている親御さんは閲覧には注意してください。

【独自】キッズライン、別のシッターによる性被害の証言。突然の男性活動停止の背景に | Business Insider Japan

【速報・詳報】キッズラインのシッター2人目、わいせつ容疑で逮捕 内閣府補助対象、コロナで休園中に被害(中野円佳) - 個人 - Yahoo!ニュース

大手メディアだとAERAが今年5月3日に報じています。

シッターアプリ大手「キッズライン」で起きた ベビーシッター男児強制わいせつ事件の全容 (1/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

わいせつ事件があったとはリリースせず、親にもまともに連絡せず、いきなり男性シッター全員を停止する公式

中野円佳さんの記事を読むと、昨年の11月以降のキッズラインの公式サポートの対応があまりに杜撰であり、それが故に今年5月の別の事件が起きたような印象を受けます。

実際、キッズラインの運営会社が親への周知や適切な対策をする気があるか甚だ怪しいことは、公式リリース文を読んでも窺い知ることができます。

まず、1件目は昨年11月に事件が発生(逮捕は今年4月)しているにも関わらず公式リリースは今年5月3日です。

一部報道に関しての報告および弊社の対策につきまして- キッズライン

どうやら警察の要請によって被害者のプライバシーを配慮し、自社のサービスで事件が起きたことは伏せていたそうです。その上、何によってシッターが逮捕されたか分からない書き方なので、これだけ読んだらユーザーからすると何があったかさっぱり分かりません。

そして、この5月中に別のシッターによるわいせつ行為が確認されます。逮捕は6月12日。

キッズラインは新たなわいせつ行為が行われたことを親側から通知され認識しているものの5月中に公式リリースはせずに、6月4日に突如として男性シッター全員の利用停止をリリースします。

【重要】弊社の取り組みに関して- キッズライン

弊社としましては、国や自治体との性犯罪データベースの共有が実現することや、安全性に関する充分な仕組みが構築されるまで、また、専門家から性犯罪が男性により発生する傾向が高いことを指摘されたことなどを鑑み、男性サポーターのサポート(家事代行を除く)を一時停止することといたしました。

このリリース文でも単に"男性サポーターの逮捕"とだけあり、何が起きたかは分かりません。しかも、ここで前提としているのは昨年11月にわいせつ行為をし4月に逮捕された件であって、新たなもう一件ではありません。

謎の専門家による性犯罪が男性により発生する傾向が高いという統計情報によって男性シッターを利用停止にさせるという、ど真ん中の統計的差別を行ったことで、SNSではかなりの反響がありました。

キッズラインの男性ベビーシッター中止に対して登録していたキズナシッターが思いをぶちまける「私だからと選んでくれる人達のことを思うと涙が止まらない」 - Togetter

そうして、今度は6月10日に公式リリースが出ます。

一部報道に関しての報告および弊社の対策につきまして(2020年6月10日)- キッズライン

しかし、相変わらずリリース文だけ読むとどんな事件が起きたか分かりません。"◾️本事案の経緯および弊社の対応"という内容があるものの、自社の対応を羅列しているだけで、肝心の事案の詳細はまったく説明されていません。

で、ようやく6月12日になって、新たなもう一件関連のリリースがされます。

一部報道につきまして(6月12日追記)- キッズライン

現段階で容疑者の逮捕等、犯罪が確定されていないことや警察の捜査に最大限協力をするため、一般に公表することは控えて参りましたが、一部報道がございましたので、公表をさせていただきました。

当該男性サポーターは、保育士資格を有しており、当社基準で厳格に審査を行いました。残念ながら、小児性愛者であるかについては、登録審査では見抜くことはできませんでした。なお、この点につきましては、専門家からも面談等で見抜くことは困難であるとの見解を得ています。

相変わらず警察の捜査のためにリリースをしなかったとしています。つまり報道がなければ今後同じようなことが起きてもリリースをしないということですね。

そして、小児性愛者であることが見抜けなかったし、専門家によれば見抜くのは困難だとしています。ここも危険で、そもそも小児性愛者全員が犯罪行為をするわけではなく、小児性愛者の中に犯罪行為をする人がいるというのをごっちゃにしています。

これらのリリース文を私が読んだ感想は、リリースのタイミングの遅さと、リリースの中で何が起きたかを具体的に書いていないことと、それが故に再発防止策が再発防止策として機能するかが全然分からないことから、「このサービス運営者はヤバい」です。

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※画像は公式HPから。かなり下の方までいかないとリリースには辿り着けない。

しかも、

キッズライン事件の「その後」 ジャーナリストが感じた“企業体質”とは (1/4) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

治部 実は私の知人がキッズラインを利用していて、4月末に運営側に事件のことを問い合わせたのです。その回答がとても企業としての説明責任を果たしているものとは思えないと、知人は非常に憤っていました。私もその文面を見せてもらいましたが、確かに同社への不信感を抱かせる内容でした。

ユーザーに対してもまともな説明がないというのは、更にヤバい。

福祉サービスを提供する覚悟・仕組みはあるのか? 

昨今は猫も杓子もC2Cサービスで、キッズラインもその一つです。しかし、キッズラインが提供するC2Cサービスは、シッターと親とを繋げるというかなりリスクの伴うものです。宅配便や外食でもたびたび問題は起きることはあるけれど、自身では被害を口にすることが困難な子どもを第三者に預けることを仲介するのは、経営する側にかなりの覚悟と、そして当然ながら仕組みが必要になります。

ただ、私が極僅かな期間で調べ理解した限りではありますが、覚悟と仕組みは私にはあるようには見えませんでした。

例えば、キッズラインの創業以来のコンサルは、幻冬舎の箕輪厚介さんだそうです。箕輪厚介さんといえば、女性ライターへのセクハラ・パワハラが発覚したことで一般にも知られた人ですが、 

自称天才編集者・箕輪厚介氏のセクハラ・パワハラメッセージを解読 女性ライターは必死に抵抗していた|能町みね子(2020年5月22日)|BIGLOBEニュース

キッズラインへのコンサルの風景をキッズラインの社長が紹介しています。

スマホをいじりながらとか椅子に斜めに座ってとか態度も酷いですが、肝心のコンサルの中身も私にはほとんど無いように見えました。社長はこれを自身のTwitterで見せて、ユーザーがサービスに安心感を抱くと思っているのでしょうか。

次に、シッターの評価の仕組み。

キッズラインの公式サイトではシッター(サポーター)の評価を確認できますが、私が目視で100人ぐらいをチェックした限りでは、5点満点でほとんどの人が4.9点以上でした。しかも、個別での2点以下の低い評価がほとんどありません。

人間がやることですから、時には低評価がつくことはあります。どんな名作アニメだって、どんな素晴らしい電機製品だって、どんな美味しいレストランだって、低評価はありえます。しかし、キッズラインでは低評価がほとんど確認できない。

私は低評価レビューが好きで、昔からヤフオクや価格.comを利用して、今はメルカリにどハマりしているぐらいの偏った人間です。私の見方に問題があるのかと思ったのですが、調べてみると、どうやら評価の仕組みに問題があるようです。

ペアレントレビューが怖い。 | キッズラインの実態と裏側教えます

サポーターのレビューは原則5が当たり前みたくなっていて、順番的に親からサポーターのレビューを先に書いて、そのあとサポーターから親の評価をするという順番なので、5以外をつけると自分に何書かれるかわからないのでこっちはなかなか5以外つけられないです。

他方でサポーターから親のレビューは書いたら書き逃げできるので、不公平な仕組みになっています。

要するに親側からレビューを書くことになっていて、シッターは報復レビューができるということですね。報復レビューというのは相手に酷い評価をされたから自分も報復で相手の評価を下げるというヤフオクで先祖代々受け継がれてきた秘伝のヤツです。 

親側からすればシッターには住所も家族構成・事情も知られているわけですから、悪いレビューを書くのは抵抗があるし、その上で報復レビューがされうるとなれば尚更です。

それで、株主と経営陣。

"上場おじさん"という人たちが株主兼経営陣に入っていることを公式に紹介しています。これを読んでも、保育業界の難しさや繊細さを理解している様子は一切伝わってきません。

上場おじさんの二人がなぜキッズラインに参画したのか?- キッズライン

今は訳のわからない制約のせいで前に進めていないのですが、明らかに伸びる領域が機械的にブロックされている感じがあり、そのブロックが取り払われた時に何が起こるかって、すごいワクワクするんですよ。

(省略)

2つ目は、一度良いマッチングができれば長く使ってもらえるということ。子どもに関わるサービスなので、一度良いシッターさんに出会うと逆に他の人に変えることが不安要素になる。このモデルは、最初のハードルさえ超えられれば長く続くのですごく珍しいなと思っています。

ビジネスモデルとしてシッター業界がいかに成長するか、収益が安定するかを語っていて、あとは、経営者の経沢香保子さんを持ち上げまくっている。これを読んで、親がどう思うかをキッズラインは想像できているのでしょうか。

最後の、経営者である経沢香保子さんが過去上場させたトレンダーズについては詳しくは書きません。詳しく知りたければ、『キレナビ 血液クレンジング』で検索してみてください。

締め

私は育児に限らずどんなことでも事件・事故は起きうるというスタンスの人間です。また、リスクを最小化するためにコストを莫大にかけることも好ましいとは思っていません。

キッズラインはシッター単価が他のサービスに比べてかなり安いようですから、保育の質が低くなることはあっておかしくないし、ユーザーもある程度は許容して利用するものでしょう。安価なファーストフード店に行って、「素材が安い! サービスが悪い! 什器が貧相!」と怒るのはおかしい。

ただ、ファーストフード店でも食中毒は許されるものではないから食の安全性は担保されているものです。翻って、キッズラインに安全性を担保する仕組みや姿勢がサービスとしてあったか。

性犯罪加害者への対応としてGPS発信装置を付けることは行政側でも議論されていると理解しています。それはそれとして、サービス提供者としては事件発生の可能性を減らすべく今できることが何かを考える必要がある中で、キッズラインは少なくともこの半年で、その対応策を十分に検討し、外部に情報発信ができていたのか。もしかして、上場ゴールに向けて、仲良しの、ヤンチャな人たちと数字を増やすことに夢中になっていなかったか。

キッズラインが創業した2014年は、まだ記憶に新しい富士見市ベビーシッター事件が起きた年です。この事件が起きた当時にこの事業を立ち上げた社長の経沢香保子さんに、相当な課題意識があっただろうことは想像に難くありません。そして、経沢香保子さんについては、次のようなエピソードが探せばいくらでも出てきます。

非常に行動力もある人なんでしょう。

しかし、この事態が起きている最中では、 

たったこれだけのTweetをしただけで終わっています。

ご自身はこれまで経営者としてのあり方を数限りなく発信してきており、

今まさに、危機のこのタイミングでこそ、馴れ合いではなく現場を理解した適切な情報発信を、特に従業員や利用者を中心に外部に対して発信していくときなんじゃないかと、私なんかは思います。

このままでは、キッズラインの対応の不味さで、「日本にベビーシッター文化」"が根付かなくなる原因を作ることになりかねません。それはとてももったいない。

追記

弁護士ドットコムで『キッズライン一問一答』として公式よりかなり詳しい説明がされていました。これぐらいしっかりした回答ができるのだから、公式リリースやユーザーにも説明をしたらいいのに、とてももったいない。

強制わいせつ事件で全男性シッター「停止」、契約違反に問われる可能性も? キッズライン「法的問題ない」と見解 - 弁護士ドットコム

また、サポーター(シッター)側でもキッズラインに対して声を上げているとの記事もありました。悔しい思いや様々な葛藤がうかがえます。

声を上げないこと、声を届けないことは、黙認するということ|ky817|note