斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

ランサーズ+日経DUAL『ワーママが働きたければ夫に9.5割家事をさせればいい。保育園問題は個々人で解決してくれ』

タイトルはちょっと煽り気味でまとめてますけどね。まあ、でも、そんな内容がメッセージと受け取れちゃう、日経DUALの記事(ワーママ 文句だけ言って解決策を講じないのは甘え | 「新時代のキャリア術」 | 日経DUAL)を読みました。量産型ワーキングマザーであるid:kobeni_08さんのRT経由で。

 

タイトルの煽りっぷり!

この日経DUALの記事、タイトルから飛ばしています。

ワーママ 文句だけ言って解決策を講じないのは甘え

です。

ワーママが今抱えている問題は"文句"であって、解決策を講じていないのは"甘え"としているもの。タイトルだけじゃなくて、記事内容もそういうものです。クラウドソーシングの大手ランサーズの部長である、とある女性が自己責任論を展開するインタビュー。

 

バリバリの自己責任論

どれくらい自己責任論者かといえば、子どもが病気になって仕事を休まざるをえないことについては、

子どもが熱を出したからって休んではダメ。風邪を引かせないことも仕事のうち

(中略)

本当に任されたいというなら、子どもに風邪を引かせないことも仕事のうち。「事前に打ち手を用意できないのはプロじゃない」、と思います。

と、子どもに風邪を引かせないことも仕事とする。

もちろん、風邪を引かないほうがいいですよね。できるならそうしたい。でも、子どもは風邪を引きやすいものだし、大抵は保育園や幼稚園で他の子どもから風邪をうつされるわけです。"風邪を引かせない"なんて簡単には言えません。

 

ワーママが陥りがちなマミートラックについては、

マミートラックの問題はよく話題になりますが、能力があるのに制度が許さないというなら、成果を出して周りを黙らせるのでもいいし、転職するのでもいいし、自分で仕事の裁量をコントロールできる管理職になるでもいいし、起業するのもいい。考えれば解決策はいくらでもあるはず。

などと、"考えれば解決策はいくらでもある"とする。

でも、マミートラックって、

マミー・トラック(マミー トラック)とは - コトバンク

「マミートラック」とは、子どもを持つ女性の働き方のひとつで、仕事と子育ての両立はできるものの、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースのことです。職場の男女均等支援や仕事と育児の両立支援が十分でない場合、ワーキングマザーは往々にして補助的な職種や分野で、時短勤務を利用して働くようなキャリアを選ばざるをえなくなり、不本意ながら出世コースから外れたマミートラックに乗ってしまうことが少なくありません。

こういうことで、成果を出そうにも出せない仕事を振られ、転職も難しく、管理職からは外されがちです。起業して子育てと仕事の両立ができると本気で考えているとは思えないですけど、これらが"考え"て出した解決策なのか。

 

そして、長時間労働や保育園不足については、

ワーク・ライフ・バランスとか保育園問題とかは「個々人で勝手に解決してくれ」

(中略)

―― グローバル・サミット・オブ・ウーマンでは、どんなことが議題に上がったのですか?

●● 例えば、ワーク・ライフ・バランスなんていう問題は主題になりません。アメリカのワーママは「残業時間が長くて家になかなか早くは帰れない」とか、スイスでは「ドイツまで保育園を探しに行く」とか、どこの国のワーママもそれぞれ問題を抱えています。だから、「そんなことは個々人で勝手に解決してくれ」というスタンスでそのうえで、キャリアをどうするんだ、という話になるんです。

※●●は筆者による伏せ字

海外の事例でもって、個々人で解決するものだと言う。文章だけ読むと必ずしもそうとは受け取れないんだけど、小見出しでこうまとめちゃうんだから、そういうメッセージなんでしょう。

"どこの国のワーママもそれぞれ問題を抱えています"と言うけれど、ジェンダー・ギャップ指数で8位のスイス、28位のアメリカ、101位の日本で、抱えている問題は本当に同じなんでしょうかね。社会が解決できているものの違いはないんですかね。

「共同参画」2016年1月号 | 内閣府男女共同参画局

 

というわけで、バリバリの自己責任論が展開されているわけです。

 

編集していておかしいと思わなかったのか?

別にこういう持論がある人がいちゃダメだとは言いません。(周りの人は大変かもしれませんが。)

でも、インタビュアーやこれを掲載した日経DUALはおかしいと思わなかったのかは気になりました。個別の議論に穴がこれだけあるのに。

 

しかも、このインタビューを受けた方が家庭を持ちながら仕事をする解決策は、

●●家の家事分担は、夫:妻が「9.5対0.5」の割合

※●●は筆者による伏せ字

お迎えは私、夫、実母、シッターさんの組み合わせで何とか乗り切っています。

ということで、夫に家事の大半を任せ、実母に頼り、シッターも雇っているという方法。別にこれが悪いとは言いませんけど、誰もができる解決策じゃないですよね。

一般に夫の家事労働時間は妻に比べて短いですし、実の親と近距離に住んで働くのは簡単じゃないし(地方出身者とか)、親が育児に協力的かは分からないし、シッターの時給以上の給料で働ける女性も少ない。ちょっと"考えれば"誰でもできる解決策でないことは分かります。

さらに、ご本人は、

夫からは「まるで子どもが2人いるようだ。せめて自分のことは自分でやってください」って言われる始末で。内心、本当に反省しているんですよ。年に2回ほど、夫から「別れてください」って切り出される夢を見るくらいです。

ということで、離婚されるんじゃないかと思いながら夫に家事をさせている。ご本人は家庭も仕事同様にマネジメントするものと仰ってるんですが、とてもじゃないですがご自身ができているようには見えません。

やっていることは戦後の一時期流行った、男性が外で稼いで女性が家を守るモデルを逆転させただけです。しかも、どちらか一方に不満があるのがはっきり分かっている悪い形。

同じことを今、男性が言えば炎上待ったなしですよね。それを女性に言わせることで、さも新しい価値観を提供しているように見せている。連載名は「新時代のキャリア術」ですが、これでは「旧時代のキャリア術」です。

 

日経DUALは自己責任論を広めたいのか?

色んな記事があってもいいし、そういうスタンスの人もいるだろうし、一つの記事で媒体の方向性を決めつけるものじゃないけど、日経DUALがこういうスタンスの記事を出すと、絶望感があります。 

何しろ、日経DUALの編集長は、

日経DUALについて | 日経DUAL

2児の母として、子育て社員をマネジメントする者として、
子供を生み育てながら働き続けることが
こんなにも大変なことなのかと痛感しています。

(中略)

両立の難しさは、各家庭だけの話ではなく、日本全体の課題でもあります。
長時間勤務の慣習、人事評価制度、キャリア形成の育み方。
こういうものが一昔前のままでは、「両立生活」は不可能です。

夫婦共に働き、共に子育てに関わることが普通にできるような社会にしたい。
その一心で『日経DUAL』を創刊しました。

こういうことで日経DUALを創刊したと書いています。子どもを育てながら働くことが難しいのは、各家庭だけの問題ではなく、日本全体の課題としている。

紹介した記事の内容とは正反対ですよね。

 

日経DUALでは昨年4月の記事で、妊娠8ヶ月まで会社にその事実を伝えず、破水して産休を取った女性を「普通」に頑張っていると紹介していました。

妊娠8カ月まで会社の誰にも告げず、予定日の1カ月前に破水したので、出産前日に産休に入る行為は「普通」に頑張っているものか - 斗比主閲子の姑日記

繰り返しですけど、ごく僅かな記事で媒体のすべてを語るものではありませんが、創刊の理念から著しく外れた記事を見ると、どうしてこうなるのか不思議に思います。

 

締め

私は、保育園が足りないとか、子育てにお金がかかるとか、マミートラックがあるとか、そういったすべての問題を同時並行に一気に解決できるとは思っていません。優先順位はあります。

ただ、社会として女性に家庭を持ちながら働くことを求めるならば、環境を整えるのは社会の義務であると考えています。

そして、不満を言うのは甘えているなどと自己責任論を展開したり、誰もマネできない方法を解決策としたりするのは、好ましいとは思いません。個人の努力に委ねる社会のあり方は脆弱であり、持続可能性に乏しいからです。

「夫に離婚されるかも」と思いながら働くのは当たり前じゃないですよね。そんな世の中になって喜ぶのは、発言小町ユーザーぐらいのものです!

 

以上、本題です。以下、余談です。

 

 

 

余談

この記事って、インタビューされた方も、インタビュアーも、写真撮影も、全員女性なんですよね。この辺は日経DUALらしい。

それで、それぞれの方のお名前を検索していて、人となりを眺めていたら、インタビュアーで記事の編集をした方が、現役産科医で人気Twitterユーザーであるタビトラさん(コウノドリのレビュー記事でもご紹介したことがあります。)のこのtweetをRTしているのを見かけました。

元記事の掲載日が11月24日で、このtweetも同日なので、タビトラさんは元記事を恐らく読まれた上で、このtweetをされたと思います。成功例がいかに珍しいか(一般化するのが現実的でないか)ということを示唆されているもの。

編集の方を追い詰めるつもりはありません。ただ、ご自身が編集した元の記事をRTした後で、タビトラさんのこのtweetをRTしたのが、どういう意図によるものかは知りたくなりました。

 

ああ、あとこの共働き議論については、筒井先生のこの本を読みたいところ。

結婚と家族のこれから 共働き社会の限界 (光文社新書)

結婚と家族のこれから 共働き社会の限界 (光文社新書)

 

『仕事と家族』は読んだんですけど、こちらは未読です。自分の中でも共働き議論がまだブレてるんですよね。軸を作っておきたいところです。

 

宣伝

最後に11/21に出した本の宣伝。特典(詳細はこの記事に記載)への応募は現在三名。引き続き12/31まで受け付けています!