斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

中学受験は役に立たないのが問題ではなく、役に立っちゃうのが問題

次の記事を読みました。

中学受験は、そろそろ根本的に変わったほうがいい - 天国と地獄の間の、少し地獄寄りにて

私も関東・関西で活発な中学受験は、主にインターエデュの情報を参考にした上で、根本的に変わったほうがいいと考えています。あまりにも子どもにも、親にも負担が多すぎる。

子どもは塾のトイレで号泣し、あまりのストレスで頭に禿ができ、そして、親はサピックスオープンの問題が昨年と同じであることに憤り、御三家に受からなかった子どもの親をLINEグループから外すのが日常茶飯事なんて、絶対におかしい。

6年サピックスオープン【2020年度】(ID:6029703) - インターエデュ

ただ、上の記事で何度も書かれているような、地獄の中学受験を経ても学力の面で何の役にも立たないかというと私の観測範囲ではそうではないと思っていますし、役に立たないから変えたほうがいいという意見には賛同しません。

記事を書かれたid:mazmotさんがご自身の塾講師の経験でサンプル数100未満ぐらいで書かれているのと同様に、私もサンプル数100~200ぐらいなので、あくまで感覚論として読んでください。「私の見えている世界と違う!」というのは否定していませんから、こういう見方の人間もいると思って読んでください。

※巻末の参考文献は全部読了済みです。9巻も相当ほっこりできました。島津家以上のエピソードが読めるなんて……!

周知の通り私は旧帝大を卒業し、勤労者としてはそこそこの年収を稼いでいます。テスラのモデル3ぐらいなら毎年買えます。買わないけど。比較的年収が高い仕事についている人間との付き合いもそこそこあります。医者や起業家もいるっちゃいるんですが、人数比で多いのは、弁護士やコンサルタントや外資系投資銀行の人たちです。

彼ら、彼女らは、仕事で高いパフォーマンスを発揮し続け、年収2000万円~3000万円ぐらいは普通に稼ぎます。北米に比べればかなり低いですが、日本では高いほうでしょう。で、この人達が結構な確率で、有名中高一貫校(現在は高校からの入学を受け付けていない学校含む)出身者です。

嘘だと思うのであれば、日本の大手法律事務所に所属している弁護士の出身中高を聞いてみてください。日本の最大手の弁護士事務所である西村あさひ法律事務所に所属している弁護士の出身大学シェア一位は東大です。で、東大に入学しているのは中高一貫校出身者のシェアが非常に高い。そして、中高一貫校に入学しているのは大手塾出身者のシェアがもはや5割を超えている状況です。開成中学はサピックスのシェアが7割で、灘中学は浜学園系のシェアが6割です。

中学受験の勉強はあくまで点取りゲームであって、それは人生で得られるものがないと言う人がいるのは知っているのですが、私はそれが大きな勘違いだと、彼ら、彼女らを見ていて思います。鉄緑会出身者は非常に要領がいいのです。そして、お金を稼ごうとしたときには要領の良さというのは非常に重要です。

マッキンゼー・アンド・カンパニー出身で伝説的なコンサルタントと知られる大前研一さんは、転職直後に社内での膨大なケーススタディを吸収したと聞きます。MBAではケーススタディは基本です。世の中の経営課題というのは、実は目新しいものではなく、すでに他の国や他の業種ですでに解決済みの課題というのはしばしばありますし、フレームワークを理解していれば、解決の糸口を早期に的確に見つけ出すのも容易になります。

起業だって、何も完全に斬新なビジネスモデルを自ら構築する必要があるわけではなく、タイムマシーン的なことをすれば良かったり、二番煎じを狙うなんてのも当たり前に行われています。ヘルスケア×DXの似たようなベンチャーはたくさんあります。ベンチャー投資をするときに経営陣に東大出身者がいるかどうかが一つの基準になっているなんてこともまことしやかに言われています。

中高一貫校出身で官僚になった友人もたくさんいます。残念ながら、稼げてはいないし、仕事はしんどそうですが。

彼ら、彼女らは、別に中学受験で習ったことや、そして大学受験で勉強したことや、更には大学の講義で学んだことをすべて覚えているかといえば、必ずしもそうではありません。今となっては、2次方程式を解くことでさえ苦労するでしょうし、早稲田大学の日本史は1/4も取れないはず。

では、何によって彼らが仕事ができているかといえば、状況を把握し、最適な解決策を短期間で正確に導き出し、間違えに気付いたら即座に方針転換をできる習慣です。この習慣があるので、呼吸をするように難易度の高い仕事をこなせます。だから、評価されます。当たり前のことです。そして、この習慣は生来のものもあるのでしょうが、私は幾度もの高難度の受験を経て身に付けているところが多いと見ています。

あくまで、私の観測範囲の話です。

ここまで書いて私が何が言いたいかというと、中学受験や大学受験などの受験のプロセスが役に立たないから問題なのではなく、役に立ってしまうことが問題だということです。

役に立ってしまうから、そこそこ稼いでいる人間は、自分の子どもに多額の費用をかけて塾に通わせ、中学受験をさせ、そして、その子どもも大学を卒業したらそこそこ稼ぎ、今度は自分の子どもに同じことをさせるのです。格差の固定化です。韓国のソウルで起きていることと同じです。 

私は新卒や中途の採用担当者をここ十数年続けていますが、残念ながら、東大出身者が仕事ができる割合が高いです。学歴をふせて採用しようとしても、結局高学歴な人間ばかりになっていたということもしばしばです。もちろん、中高一貫校や東大出身だからって仕事ができない人もいますけど、割合で言えば、仕事ができる人間が多いです。

世の人に見る目がないから結局は学歴を基準に選ばれ、そして、選ばれたから経験を積めているということもあるっちゃあるので、なおさら学歴を積むのは安全パイになります。チャンスが人を作るならば、どんな人間がチャンスを掴みやすいかって話です。

というわけで、私はもっぱらインターエデュから得た知識でもって、親子に負荷のかかる歪な中学受験は是正されるべきだと思っていますが、それ以外に、中学受験が役に立つが故に、格差を固定化させる意味で今の中学受験のあり方には反対です。

今どき「母親が自分のためにつくってくれる食事が、一番いいに決まっている」とのたまう校長の高校が約40年間東大合格者数No.1なのだから、東大の女性比率の低さが変わることはない - 斗比主閲子の姑日記

なお、関連して、大手塾が小学校を運営したらという意見を見たことがありますが、私は御免です。高宮さんの小学校に子どもを通わせたいとは思わない。

学校法人高宮学園(代ゼミ) 「社員クチコミ」  openwork

また、高校受験は問題ないかといえば、知っている人は知っている最悪of最悪の内申点問題があります。これはまた機会があれば取り上げます。

※格差が大きい社会では、下層だけではなく上層の人間もすべからく皆"心を壊す"。