斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

話題になった自殺を取り上げる際に読んでおきたいWHOの手引き

一般向けです。

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この記事の背景

とある女性が自殺し、その彼氏が自殺教唆をしたとして逮捕されました。(その彼は昨日釈放されました。)

その後、インターネット上では、その女性のTwitterアカウントが特定され、Blogも発見され、自殺に至るまでのやり取りがまとめられたことで、新聞等では入手できない、この女性の自殺についての情報を簡単に入手できるようになっています。

これらを一通り見たところ、模倣自殺を助長しかねないものが散見されました。

自殺報道については、WHOが『自殺予防 メディア関係者のための手引き』(邦題)を公開しており、メディア関係では一通り浸透していると思われますが、一般的にはあまり知られていないと考え、その内容を抜粋して紹介する次第です。

自殺予防 メディア関係者のための手引き - 内閣府 

自殺に関する詳細な紹介は模倣自殺を引き起こす

自殺に関する詳細な情報は模倣自殺を引き起こします。

自殺の模倣に関する事実

これまでに、50を超える模倣自殺の研究がある。体系的なレヴューは、どれも一致して同じ結論を出している。それは、メディア報道が模倣自殺を引き起こしているということであり、さらに、そこにはいくつかの特徴があるということも示されている。

経時的には、報道開始から最初の3日間にピークがあり、約2週間で横ばいとなり、時に長く遷延するということである。それは、情報の量と影響力に関連し、特に、報道の繰り返しによる多量の情報と、強い露出度と最も強く相関する。それは、報道された人物とそれを読むユーザーに何らかの共通点があると、より強調されることになる。若者、うつ病に罹患している人においては特にその傾向があらわれる。さらに重要なこととしては、特殊な手段を用いた自殺について詳細に伝えることは、その手段を用いた自殺を増加させるということであろう。

自殺予防 メディア関係者のための手引き(2008年改訂版日本語版)(PDF形式)P7より

自分の書いた文章で自殺をする人間が出ることを恐れがありますので、言及の仕方には注意が必要です。 

自殺に関する情報を書く前に読むクイック・リファレンス

仮に言及する際には、トップにも掲載したクイック・リファレンスが参考になります。

1 努めて、社会に向けて自殺に関する啓発・教育を行う

2 自殺を、センセーショナルに扱わない。当然の行為のように扱わない。あるいは問題解決法の一つであるかのように扱わない

3 自殺の報道を目立つところに掲載したり、過剰に、そして繰り返し報道しない

4 自殺既遂や未遂に用いられた手段を詳しく伝えない

5 自殺既遂や未遂の生じた場所について、詳しい情報を伝えない

6 見出しのつけかたには慎重を期する

7 写真や映像を用いることにはかなりの慎重を期する

8 著名な人の自殺を伝えるときには特に注意をする

9 自殺で遺された人に対して、十分な配慮をする

10 どこに支援を求めることができるのかということについて、情報を提供する

11 メディア関係者自身も、自殺に関する話題から影響を受けることを知る

クイック・リファレンスは、それぞれについて詳しい説明がありますが、個人的に気を付けたほうがいいと思われるところを抜粋します。 

自殺の背景を単純化して伝達しない

複雑な事情があるものを単純化して発信すると、自殺によってそれらの事情が解決すると思わせることになったり、関係者がその自殺の原因として偏見を持たれることに繋がります。

1. 努めて、社会に向けて自殺に関する啓発・教育を行う

自殺に関して世の中には多くの誤解があるが、メディアは、さまざまな誤解を払拭する力をもつ。

ひとりの人が自殺する際にはたいてい複数の要因があり、それは複雑である。だから自殺を単純化して報道してはいけない。自殺は、決して一つの要因や出来事から起こるものではない。また、自殺には衝動性が大きく関与している。うつ病や依存症罹患は、その人がさまざまな生活上のストレスや、対人関係における葛藤を処理する力に影響を及ぼしてしまうだろう。文化的、遺伝学的、そして社会経済的因子も考慮されなければならない。

その死について十分な調査がなされていない状況では、自殺はいつも、「試験に失敗した」とか、「人間関係が破綻した」とか、あるいは個人的な出来事のせいにされがちである。自殺が、個人の抱える問題を処理する方法であると報道されることは絶対にすべきでない。

自殺という複雑事象は、家族や友人にすさまじい衝撃を与える。これらの人々は、自殺の原因を探したり、何か予兆を見落としていなかったかと悩み、喪失を嘆き、罪の意識を感じ、時に怒り、偏見をもたれたり、あるいは放置される。このような自殺の及ぼす衝撃について調査をし、報道することは、社会的な啓発につながるだろう。 

自殺の詳細な手段を伝えない

自殺に傾いている人が自殺の詳細な手段を知ると模倣する可能性があります。

4. 自殺既遂や未遂に用いられた手段を詳しく伝えない

自殺既遂や未遂の方法を詳しく述べることは避けなければならない。なぜなら、それをひとつづつ順を追って述べることで、自殺に傾いているひとがそれを模倣するかもしれないからである。たとえば、大量服薬の報道において、その薬物の詳しい名前や量、同時に服用した薬物、あるいはそれをどのように入手したかを伝えるのはまったく賢明ではない。

 

その自殺の手段・方法が特殊な場合には、特に注意が必要である。その特殊な自殺は報道する価値が高いように見えるかもしれないが、報道によって、同じ手段・方法で他の人が自殺をするきっかけをつくってしまうことになるのだ。

今回の件では、自殺に至るまでのTwitterやLINEの発言の引用が散見されます。 

写真や映像は載せない

写真や映像を見て模倣しようとする人が出てきますし、大体は遺族の了解が得られないでしょうから、掲載しない方がいい。

7. 写真や映像を用いることにはかなりの慎重を期する

自殺の状況・現場の写真やビデオ映像は使うべきでなく、特にそれが自殺の生じた場所や自殺の手段・方法を読者や視聴者にはっきりと分からせるようなものであればなおさら使ってはならない。

自殺をした人の写真を報道に使うこともすべできはない。もし視覚的な画像を用いるのなら、遺族から正式な許可を得なければならない。それらの画像は、目立つところに掲載されるべきではなく、また美化するべきでもない。また、遺書も掲載するべきではない。

本人のBlogやTwitterでの最後の言葉は、遺書に限りなく近いものがありますよね。死んだ後で、これらに注目して紹介することは美化に繋がるのではないでしょうか。 

支援先情報を掲載する

自殺を考えている人が見に来る可能性が高いことから、そういった人向けの(自殺を考えなおす)支援情報を掲載しておくといいですよね。

10. どこに支援を求めることができるのかということについて情報を提供する

自殺報道の終わりの部分には、支援を求める際に有用な情報を掲載すべきである。報道の内容にもよるが、かかりつけ医、保健専門家、地域の社会資源、そして電話相談サービスに関する情報が含まれるとよいだろう。利用可能な社会資源をリストに挙げることで、報道によって悩み、自分を傷つける状況に直面しているような人がすぐに支援につながることになるだろう。

例えば、こんな電話番号を紹介してみたり。

○  こころの健康相談統一ダイヤル(内閣府)
0570-064-556(相談対応曜日・時間は都道府県によって異なります。)
  • 電話をかけた所在地の都道府県・政令指定都市が実施している「心の健康電話相談」等の公的な相談機関に接続します。
  • 平成25年11月現在、44都道府県・政令指定都市(北海道、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県、札幌市、さいたま市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、熊本市)に共通の電話番号を設定しています。 

締め

インターネットの良いところは個人が簡単に情報発信できるところですよね。ただ、あまりに簡単なことから、自分自身がメディアになっていることに気付きにくいものがあります。WHOのクイック・リファレンスを読んだほうがいいと言われても、その必要性については理解しにくい。

ほとんどの人は模倣者を避けたいと考えているでしょうから、意図的に誰かに自殺をさせたいという人でもなければ、ネット上での公開は十分事前に検討してからの方がいいと思います。