以前に取り上げたキッズラインについて、
新たな不祥事が発覚していました。
キッズライン、児童福祉法のシッター届出未確認4年半。経沢社長「コンプライアンス第一でなかった」 | Business Insider Japan
不祥事のざっくりとした内容
ベビーシッターをする個人は都道府県に届出が必要で、マッチングサイトはその届出をしたシッターのみを登録し、届出を確認するよう厚労省がガイドラインを定めています。
ところが、キッズラインに登録していたベビーシッターで届出をしていない人がいて、それをキッズラインが把握していなかった。
今年1/13に確認できただけで50人弱が届出を未提出で、750人が届出をしたか未確認の状態。キッズラインは5000人弱のシッターが登録しているので、かなりの割合。未確認期間は4年半……!
記事によれば、キッズラインの中では昨年7月時点ですでに懸念があって、8月13日に自治体から届出のないシッターが登録されている指摘があったそうです。
しかし、同じく昨年8月7日の社長の謝罪文では、
社長より一連のお詫びと、安全対策、今後について- キッズライン
(3)の性犯罪データベースの共有に関しては、現在GPSの可能性など様々な議論がされており、里親登録制度では実施されていること、弊社登録のサポーター全員が、訪問型保育者として、都道府県自治体への登録をしていることなどから、希望を持っておりました。
などとベビーシッターが全員自治体への登録はしていると書いちゃっている。
その後しばらく経って昨年12月になって法令違反があるのではようやく認識し、厚労省と内閣府に確認して問題があると分かり、未登録のシッターの予約受付停止を行い、12月28日にようやくリリースをした……ということです。
もともと、この届出制度自体が結構ザルだという議論は昔からあって、ガイドラインにも罰則がないためマッチングサービスによる登録確認が完璧に行われているかは疑問視されていたのですが、それが明らかになった事案です。
実際、厚労省が外部委託している企業による当該ガイドラインの適合調査では、キッズラインに限らず、登録確認を守れているかの判定に○がついていない企業・サービスは複数あります。
※子どもの預かりサービスのマッチングサイトのガイドライン適合状況一覧より
体質が改善していないし、創業理念が崩壊しているのでは?
そういう意味では「みんなも守っていないかもじゃん!」という面はあるわけですが、私が気になったのは大きく2つです。
1つ目は、すでに書いたように、社内で昨年7月に問題を認識していたようなのに社長がその翌月に全員登録と言っちゃっていること、公表は社外から指摘されて時間が経ってからの12月だったこと。
それまでに複数の問題が発覚していて、顧客含めた社外への説明に問題が物凄く遅れていたことが利用者の不安に繋がっていたのに、また同じことを繰り返したわけです。企業体質が改善していないことが判明した。
1件目のベビーシッターによる性犯罪を公にせず2件目の事件が起こり、
— 森戸やすみ⠒̫⃝♡* 小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK (@jasminjoy) 2021年1月15日
利用者からの問い合わせに直ちに対応するはずの緊急電話がつながらず、
シッターの審査や教育がトレーナー宅には行っておらず虚偽だった。
だけど内閣府と自治体からの助成金は返さなかったキッズラインが、新たな不祥事。
あの仏のような森戸やすみさんも怒りっぱなしです。
2つ目は、厚労省のガイドラインを4年半も遵守していなかったのは創業理念に反していて致命的じゃないかということです。
この点をもう少し詳しく書きます。
キッズラインが創業したのは、みなさんも記憶に新しい2014年の富士見市ベビーシッター事件があったのがきっかけです。
【直撃】キッズライン経沢社長50分間インタビュー「社員教育の不徹底」「深くお詫び」 | Business Insider Japan
——キッズラインは2014年の匿名掲示板でのベビーシッターの男による男児殺害事件(※)のことも踏まえて立ち上げられたサービス。今回のような事件が発生することは、社内で想定されていましたか。
(中略)
あのプラットフォームは現実的に何の第三者の目も通らない。(実際には)問題がありましたが、自分が作るプラットフォームは第三者の審査も、経歴、反社チェックも全部行い、レビューなども含めて、できる限り透明性が高く、安全性のある、他の利用した人がわかるようなプラットフォームを作ろうと決めました。それによって、安全性が担保されるという認識をしていました。
※赤字は筆者
この事件の影響は大きく、その年の6月に厚労省が冒頭でも紹介したガイドライン(正式名称は『子どもの預かりサービスのマッチングサイトに係るガイドライン』)を定めます。
1 ガイドラインの目的
平成 26 年3月に発生したベビーシッターを名乗る男の自宅から男児が遺体で発見されるという事件を受け、社会保障審議会児童部会子どもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会を設置し検討したところ、議論のとりまとめ(平成 26 年11 月 19 日公表)において、子どもの預かりサービスのマッチングサイト運営者(以下「マッチングサイト運営者」という。)が遵守すべきガイドラインを作成することが適当であるとされた。
(中略)
(1)保育者のマッチングサイトへの登録について
保育者のマッチングサイトへの登録は、児童福祉法(昭和 22 年法律第 164 号)第 59 条の2により都道府県知事、指定都市市長及び中核市市長(以下、「都道府県知事等」という。)に届出を行った者に限るようにすること。そのため、マッチングサイト運営者は、保育者の登録を受け付ける際に、都道府県知事等への届出を証明する書類、都道府県知事等が定める者の実施する研修を修了したことを証明する書類、及び身分証明書の提出を求めること。また、マッチングサイト運営者は一定期間ごとに保育者の研修の受講状況等について、確認すること。
※赤字は筆者
普通に考えればキッズラインは事件を受けて作ったのだから、同時期に策定された厚労省のガイドラインはもっとも注目していてよく、確実に遵守しようとするはずです。創業の背景から考えれば当然の行動。
しかし、実態は直近4年半もガイドラインを守っていなかったことが判明したわけです。
もちろん、罰則はないけれど、このガイドライン違反は起業したご本人からすれば到底あってはならないことでしょう。「コンプライアンス第一でなかった」というのもあきれましたが、コンプラだけでなく、起業する上で重要な創業時の理念も忘れちゃっているのではないと私は思いました。
締め
キッズラインが最初に問題視されたとき、「マッチングのプラットフォーマー自体が抱える問題であって同じような不祥事は起きうる」と擁護する声がしばしばありました。
もちろん、管理コストが抑えられているからこそ利用者がリーズナブルな価格帯でサービスを利用できるというのはあります。
ただ、キッズラインの一連の不祥事というのは、プラットフォーマー一般の問題というより、キッズラインという会社単体が抱える隠蔽体質が背景にあるように私は思いました。利用者の評価を偽造するプラットフォーマーって相当ヤバい。プラットフォーマーって評価を利用者に任せることで悪貨を駆逐するものですよね。
昨年7月に、私は外部の調査を入れることを老婆心ながらお勧めしましたが、
事が明るみに出る度に、後手後手で改善策を打ち出している風のキッズラインは、企業体質が隠蔽体質であるようにしか見えない。
— 斗比主閲子 (@topisyu) 2020年7月1日
まだ本気で事業を回復させる気があるなら(付け焼き刃で茹でガエルにさせたくなければ)、外部による調査をさせて結果を公表したほうがいい。
※外部≠お抱え弁護士
残念ながら当時膿を出し切ることはできなかったがために、また不祥事を起こしたわけです。
今回の件の謝罪文の中には対策として、
弊社登録ベビーシッターの一部の届出状況に関するお詫びと対応について- キッズライン
代表取締役として管理監督する立場にありながらこのような事態を招いてしまったことを深く反省するとともに、事態の再度の発生を招かぬようにシステム変更のみならず、私自身の意識向上および、組織体制の強化や社内教育を徹底して参りたいと思います。
この度は皆様にご迷惑やご心配をおかけいたしましたことを、重ねてお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。
システムの変更、社長の意識向上、組織体制の強化や社内教育の徹底が挙げられているものの、根本にある隠蔽体質をどうにかしない限り、利用者から見れば同じような問題があってもまた隠すのではないかとサービス利用に不安を覚えるはずです。
ところで、このような状態でもキッズラインはまだ上場を考えているかもしれません。
あくまで個人投資家として10年以上投資をしてきた人間の戯言としては、隠蔽体質のある企業というのは恐ろしくて投資する気が起きないということは書いておきます。