斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

「自分の人生を強姦されていると思っている人は、他人の人生を同じように攻撃すると、少し気が晴れるのかもしれなかった」

タイトルは、村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』から。

 『コンビニ人間』は2016年の芥川賞を受賞して、その存在は知っていたのですが、特に読もうとは思っていませんでした。芥川賞受賞作はつまらなそうだという思い込みがあったから。

ただ、何かの機会で検索してたら面白いらしいという評判を見たので、それならばと手を出してみたわけです。結果としては5ページに一回ぐらい大笑いできるぐらい楽しめました。

『コンビニ人間』の主人公である、36歳独身処女の古倉恵子が誰かに似てるなと思って、思い浮かんだのが柳本光晴さんの漫画『響~小説家になる方法~』の主人公、響です。この漫画は映画が今度放映されるということで大宣伝されているのでご存知の方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。

作中で美人と言われる人がまったく美人に見えないとか、登場人物の来てる服のセンスが絶望的だとか、絵は色々考えさせられるものがあるのですが、主人公の女子高生『響』の暴力がハイパーインフレしていくのが爽快感があります。ネットでは、小説家になる方法というサブタイトルで興味を持って読んだ結果、「騙された!」と憤慨した人々のレビューがたくさんあります。 

響?小説家になる方法?(1)【期間限定 無料お試し版】 (ビッグコミックス)

響?小説家になる方法?(1)【期間限定 無料お試し版】 (ビッグコミックス)

  • 作者: 柳本光晴
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/09/10
  • メディア: Kindle版
 

※1巻と2巻が10月9日まで無料公開中です。 

響と『コンビニ人間』の主人公の古倉恵子について、似ているなと思ったのは、どちらも暴力を振るうハードルがかなり低いところです。恵子は小学生の頃、喧嘩している男子二人をスコップで叩いて物理的に大人しくさせようとしたり(実際大人しくなる)、自分の妹の、泣いている赤ちゃんをナイフを使えば簡単に静かにさせることができると考えてたりします。響は……上のお試し版を読んでもらえれば分かりますが、かなり気軽に前蹴りを繰り出します。

後は、世の中の見方が"普通の人"とは、ちょっと違うところとかですかね。何にせよ、どちらも魅力的なキャラクターです。

響の掛け合い相手が、同じ高校の生徒から、編集者、テレビ局……と順調にステップアップする一方で、恵子の掛け合い相手はほとんど変わりません。妹と、同じコンビニで働いている同僚と、社会的体裁を保つために家に住まわせることになった白羽さんぐらいです。

白羽さんは、婚活目的(!?)でコンビニで働き始めたものの、コンビニの仕事を底辺とうそぶいたり、女性客をストーカーしたり、遅刻しまくったりして、コンビニを容易くクビにされます。北海道の実家に時々金の無心をしにいっていたものの、弟が両親と二世帯住宅をし始め、弟の妻(つまり"嫁")と折り合いがつかず、なかなか実家に近寄れなくなり、今はルームシェアの家賃を滞納しているという人間です。風貌も相当悲惨なものがあり、かなり魅力がない人物として描かれています。

恵子が白羽さんと一緒に住むようにいたったのは(家で動物として餌を与えて飼うようになったのは)、『逃げ恥』でみくりと平匡さんが偽装結婚した理由とほとんど変わりません。恵子も白羽さんも"普通の人"から爪弾きにあっているので、世間体から自分たちを守るための共同体みたいなものを作ろうとしたわけです。

この記事のタイトルは、白羽さんが「自分は周りから攻撃されている」と言いながら、周りに攻撃的に振る舞っている姿を見て、恵子が心の中で思ったことになります。私がブログでよく紹介する、加害者が被害者性を持っているというのと同じやつですね。

恵子は"普通の人"とは違う人間だと描かれているものの、村田沙耶香さんという小説家の観察眼を反映していることもあって、物の見方はしっかりしていて、恵子から見た周りの人物の描写はかなり楽しめるものがあります。

小説自体は意外とあっさり終わってしまうので、もう少し、恵子がどうやって周りの人間を見てきたか(例えば、奇数番号の店長からは恵子が何を得たのかとか)が読めたらいいなと思いました。村田沙耶香さんの他の本を読めばいいんですかね。

ということで、以上、『コンビニ人間』のレビューでした。私のブログを好きな人なら、何度も大笑いできるはずです。 

コンビニ人間 (文春文庫 む 16-1)

コンビニ人間 (文春文庫 む 16-1)

 

※文庫版あります。Audibleもある。