斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

"「子供が楽しそうに調べてたんで中止させた」母親の話"で親の人格否定をするのではなく、良かったところに注目する

このTwitterのまとめを読みました。

子供にネットで調べ物させてたけど「子供が楽しそうに調べてたんで中止させた」母親の話 - Togetter

勉強は楽しむものではなく苦労するものという考え方

NHK教育のウワサの保護者会という番組での、ある母親と尾木直樹さんのコメントを抜粋したものです。NHKのWebページでも紹介されています。

どうして勉強しないといけないの? <番組内容> | 番組内容 | ウワサの保護者会:NHK

<勉強は無限にひろがる遊び?>

ももさんの息子は、各地の名産品をネットで調べたいと言い出した。それでやる気が出るならと許してあげたところ、へらへら楽しそうに1~2時間も調べ続けていた。そんな息子をももさんは、勉強じゃなくて遊びになっていると思い「漢字をやりなさい」と止めさせたという。

だが、これに対し尾木ママは、
尾木
 「可能性を全部潰しちゃった。勉強は遊びですよ」
 勉強は遊びだし、無限にそうやって広がって、永遠に続くもの。
 彼はその入り口まで入ったのに」

と子どもが興味を持って勉強に入っていくチャンスを親が妨げたと指摘した。

子どもが楽しんでいるから勉強ではなく遊びになっていると考えて、親が止めたというもの。

能動的な勉強を否定する親への批判

これを受けてのネットの反応は、この母親のスタンスはよろしくないというのが大勢のようです。

確かに、昨今は勉強は能動的にやるものだというのが一般的になっていますから、この母親のスタンスに批判的なのは、まあそうかなという印象です。尾木直樹さんも"可能性を全部潰しちゃった"と批判的にコメントしてますね。1~2時間はネットでの調べ物ができていたわけですから、"全部"潰したというのは極端だと思いますけど。

それで、ネットの反応にはこの母親の人格を否定をするようなコメントもちらほらありまして。例えば、子育て能力がないとか、親としての資格がないとか、頭が悪いとか、そういうの。非常に限定的なエピソードで、すべての情報を手に入れているわけではないのに、この母親についてネガティブな方向にかなりふれた評価をする人がいる。

これはこれで極端であるものの、そう思う人がいるのも理解できる部分はあります。この話は結構トラウマを刺激するところがあるんですよね。

この母親だけではなく、ドラえもんでののび太のお母さんみたいに勉強のために遊びを中断させる親はいて。楽しいことを止めさせられるわけですから、子どもとしては結構な苦痛です。これを何度も経験していたら、大人になっても親には恨み節の一つは言いたくなる。

人格否定的なコメントをする人の中には、自身の楽しみを妨げられてきた人はいるんだろうなと思うわけです。みんながみんなというわけじゃないだろうけど。

上手くできないことではなく良くできたことに注目させる

元に戻って、この母親について。

この人は、番組内で自身の勉強に対するイメージを質問されたところ「勉強=苦しい」と答えています。自分で苦しんで勉強してきたから、子どもが勉強するときも苦しまねばならないと思っているだろうことは容易に想像ができます。

この人の姿勢を変えさせるために、「あなたの考えは全部間違っていて、親としての資格がない」と伝えたらいいかといえば、そうではないですよね。そのやり方は、この人に苦痛を与える方法としては有効だけれど、この人に能動的に子育て方法を身につけさせることには繋がらない。

では、どうやって介入するか。

たまたま読んでいた本で、良いなと思うやり方が紹介されていました。親が子どもと接しているのをビデオに撮影し、その親が子どもと上手く接することができているシーンをピックアップし、見直させるというプログラムです。詳しく知りたい人は本を読んでみてください。以下の本の第9章~第10章です。

私たちは子どもに何ができるのか ― 非認知能力を育み、格差に挑む

私たちは子どもに何ができるのか ― 非認知能力を育み、格差に挑む

  • 作者: ポール・タフ
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: Kindle版
 

この介入プログラムを研究するオレゴン大学の心理学者フィル・フィッシャーの言葉が次の通り。

「たとえ逆境そのものの家庭環境でも、子供のためになるやりとりは起こっています。そうした家庭の親に、うまくできないことばかりを意識させるよりも、たった一つのプラスの瞬間に照準を合わせるのです。その瞬間をスロー再生し、目を向けてもらう。親に伝えたいのは、"新しいことを覚える必要はなく、あなたがすでにしていることを見ればいい"ということです。そういう瞬間をもっと増やせば、子供は変わります」(p.63-64) 

私はこの考え方が非常にいいなと思いました。

うまくできないことをできるようにするのって凄くシンドいんですよね。子育てにおいては、親自身も無自覚に身に着けている悪習慣はあるし(怒鳴るのとか)、そもそも、肉体的にも精神的にも時間的にも余裕がないことがある。

自分がすでにできていることを良い例として認識するぐらいなら負荷は低い。自分で自覚できるのがいいけれど、それはなかなか大変だから、ビデオで撮影して、ピックアップして外部が可視化させているというわけです。

家庭で実際にやるとしたら夫婦でやるといいかなと思いました。撮影まではしなくても、育児の良いなと思ったところを伝えるだけとかでもよさそう。あのNHKのケースなら、1~2時間調べ物に付き合ったことを良いこととして指摘するとかですかね。

締め

子どもに勉強を苦しまないで楽しませようとするのだから、親に対しても苦しまないで楽しく子育てできるように指導すればいいと思うんですけど、親に対して厳しいスタンスのものをしばしば見かけます。

子育ては苦労があるものという前提があったり、意趣返し的なところがあったりするかもですけど、それって、学習には苦労がつきものという発想とあんまり変わらなくて。苦労の再生産になっちゃいます。

子育ての苦労をすべて取り払うことはできないにせよ、どうやって楽しくできるかについてはもっと注目が集まるといいなと思う次第です。