BBCのこの記事を読みました。
日本の年金生活者が刑務所に入りたがる理由 - BBCニュース
記事の中では、日本の年金生活者が刑務所に入りたがっていることを示すために、具体的な事例の他に一部統計が紹介されています。文章の部分と、統計のグラフはこちらです。
タカタ氏のケースは、日本の犯罪にみられる際立った風潮の代表例だ。日本は驚くほどよく法律を守る社会だが、その中で65歳以上の高齢者が起こす犯罪の比率が急上昇している。1997年には犯罪20件に1件の割合だったのが、20年後には5件に1件を超えていた。人口全体に占める65歳以上の割合が増えたペースを、はるかに上回る上昇ぶりだ(65歳以上の高齢者は現在、人口の4分の1以上を占めている)。
一般刑法犯検挙人員の年齢層別構成比。高齢者による犯罪の比率が高くなっている(情報源:日本法務省)
これだけ見ると65歳以上の犯罪が増えているように見えます。65歳以上の人口増加ペースよりも、検挙人員の中での増加ペースが早いとも書いていて、そう言われると、高齢者は犯罪をしがちだという印象を受けますよね。ニュースでも高齢者犯罪がよく取り上げられていますし。
では、本当にそうか、日本の年金生活者は刑務所に入りたがっているのか。
私は率の話をされたときは絶対数を確認したくなる習性なので、さっそく、BBCがデータソースとしている同じデータで、検挙人員の中での比率ではなく、検挙人員数を見みてみることにしました。
ご覧の通り、65歳以上の人員数は平成19年ぐらいからほぼ横ばいです。ちなみに、40代も横ばい。他の年齢層での犯罪検挙数が減っているから、相対的に65歳以上が一番目立っちゃってるわけですね。
次に、人口比で見たときに65歳以上の検挙率が増えているかと言われれば、ほとんどの人が、日本国内で65歳以上人口が増えていることは分かっていますから、これは統計を見なくても、Noと分かりますよね。一応、紹介しておきます。
65歳以上の人口比で見るとちゃんと減っていっています。(30-39歳が横引きなのが気になる。)
というわけで、BBCの記事のタイトルが、「年金生活者のうち刑務所に入りたがる人がいる理由」ということであれば、事例紹介であって誤解は与えませんが、「年金生活者が刑務所に入りたがる理由」というタイトルは、日本の年金生活者が犯罪を起こしがちだという印象を与えて、よろしくないと思った次第です。年金生活者が刑務所に入りたがっていることを示すようなアンケートもBBCはとってないみたいですし。
英語版では、
Why some Japanese pensioners want to go to jail - BBC News
ちゃんとsome Japanese pensionersと、someがついています。要するに、邦訳をした人(かタイトルを改変した人)の問題ということですね。
ちなみに、最近よく話題に上がる高齢者による交通事故ですが、これも割合で見ると65歳以上の事故が増えている印象を受けますが、年齢別発生件数で見ると、見え方が変わります。
65歳以上の交通事故の件数はそんなに変わっていません。(例えば、75歳以上に限定すると増加しているが、4000件弱と絶対数は大きくはない。)
日本では、交通事故死も殺人事件での被害者数も毎年減少しています。すごく安全になっている。一方で、高齢者は急速に増えていっていますから、他の世代が加害者・犯罪者になることは相対的に減っていく中で、高齢者が目立つ傾向がある。
こんなことはしょっちゅうなので、国が統計数値を集計ミスや改ざんしない限り、あまり個別事例の報道に影響をされすぎないで、大きな数字で物を見るようにしたいなと思う次第です。
対処がまったく不要だとは言わないけれど、個別事例に引きずられすぎると優先順位付けが困難になる。リソースは無限じゃないから。
追記
ちなみに、BBCの記事の中で、
ニューマン氏によると、高齢者の間では自殺も増えている。「身を引くのが務め」という思いを果たすための、もうひとつの方法だ。
このような記載がありますが、
日本の年金生活者が刑務所に入りたがる理由 - BBCニュース
「ニューマン氏によると、高齢者の間では自殺も増えている。」ニューマン氏によると、じゃなくて自前で統計ぐらい確認しなさいよ>BBC 減ってますhttp://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H29/H29_jisatsunojoukyou_01.pdf
2019/03/19 11:06
すでに指摘がある通り、高齢者の間での自殺は増えていません。
上で紹介されている厚労省の『平成29年中における自殺の状況』では、65歳以上の自殺者数は基本は減少しているし(平成20年で1万2千人が平成29年で8千人)、
高齢者人口が増えているから当然ですが、自殺死亡率(10万人あたりの自殺者数)で見ても、なだらかに減少傾向にあります。(19歳までが横ばいなのは気になる。)
もちろん、この集計に間違いがないという前提で、ですけどね。
集計に間違いがない前提というのを毎回触れないといけないのは、本当に辛い。集計しているデータが信じられないなら、エビデンスに基づいた政策決定なんて夢のまた夢です。はー……。
追記の追記
なお、「日本の年金生活者が刑務所に入りたがる」のではなく、「一度刑務所に入った高齢者が刑務所に入りたがる」のは、まだ言えて、刑務所への再入率を見ると、それはよく分かります。
高齢者の刑務所への再入率は減少傾向にあるものの、他の世代に比べて高いですし、
特に、2年以内での再入率が高い傾向にある。
結果として、
日本の刑務所の高齢化は進んでいます。高齢者率は平成29年度で11.8%。ちなみに、日本全体の高齢化率は約28%です。
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