斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

家庭科教育の歴史をさらってみて面白かったところを紹介します

昨年、この記事を書いたんですが、


元記事で田中先生が家庭科教育が中学校で男女必修になったのは1993年という話をされていて、そんな最近の話なのかと家庭科教育の歴史に興味を持ちました。

検索してみると、お茶の水女子大学名誉教授の牧野カツコさんの、

紀要「Peace and Culture」第6巻刊行のお知らせ|定期刊行物|刊行物|青山学院大学 国際交流共同研究センター

での紀要論文の中で、家庭科教育の歴史が分かりやすく書かれていました。この記事では、そちらの中から興味深かった点を紹介します。

性別役割分業意識は、変えられるか?─国際比較に見る日本・韓国

より精確な情報を知りたい方は、元の論文をご覧ください。その場合はこちらも合わせて読むといいかもしれません。同志社女子大学教授の村瀬学さんが書かれたものです。上野千鶴子さんによる梅棹忠雄さんの再評価のエピソードが面白い。

じゃのめ見聞録 No.56 家庭科とジェンダー 

家庭科教育史 (1972年)

家庭科教育史 (1972年)

 

 

高等教育で家庭科が男女共学であった期間は江戸時代以降で30年間だけ?

そもそも家庭科という科目自体は第二次大戦中に出来たもののようです。学校教育制度が始まったのは明治からですが、女子の就学率が低かったため、親に学校が役立つところだと分からせるために家庭科というより裁縫が教えられていました。

第二次大戦中の国民精神総動員下において、女子生徒は「家事科報國」「裁縫科報國」の名のもとに、代用品研究、国民服の制定、国民食の提唱、白米食の廃止、結婚と育児の奨励、勤労報国などさまざまな形で銃後後援の役割を果たした(常見1972)。

その後、1993年になるまで家庭科教育を男子は中学校・高校で受けていなかったかというとそういうわけではなく、GHQ占領下の1947年(昭和22年)から1958年(昭和33年)の約10年は、小学校5・6年生と中学、高校でも職業家庭科という科目で授業があったようです。目的は民主化教育だったわけですが、ここら辺はPTAと同じ歴史ですね。(PTAも民主化教育の一環で組織されたもの。)

 

それが高度経済成長期に性別役割分業教育に方向性が変わり、家庭科が女子の必修科目になりました。この間、男子が受けていたのは体育。

 

そこから、今の家庭科の男女共学に移っていくのには、国連の女子差別撤廃条約への日本の署名(1980年)、批准(1985年)があり、これを受けた学習指導要領が1989年に告示されて、まずは中学校で家庭科が共学になり、高校でスタートしたのが1994年ということです。昨年は、高校で家庭科教育が始まった20周年だったんですね。

こうやって歴史を紐解いてみると、江戸時代以降の約400年で、家庭科教育というものが高等教育で男女共学であった期間は、ざっくりと、1947年~1958年の約10年間、1994年以降の約20年間で、合計30年間です。

家庭科で取り扱う内容の変化はあるでしょうが、この20年間は歴史的に見れば、(悪い意味ではなく)特別な時代ですね。

 

貝原益軒の「女子を教ゆる法」から見える日本の女子教育

牧野カツコさんの紀要論文の中で、江戸時代の貝原益軒による「女子を教ゆる法」が紹介されています。

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画像は1733年(享保18年)版ですが、2015年に生きる自分から見ても、この内容に近いことを教えている家はまだある印象があります。小学校で親に雑巾を手縫いで用意しろというのが未だに残っているぐらいですし。

嫁や主人という言葉への抵抗感はこういう教育があったことからきているんでしょうね。老いては子に従えは女親限定だったとか、裁縫をちゃんとやれというのがこの頃から出来上がっていたのかとか興味深いです。

 

締め

貝原益軒は儒学者ですが、儒教がベースの性別役割分業教育は日本国内において本当に長い歴史があるんですよね。家庭内だけではなく、地域共同体や社会体制もそうやって出来上がっていたものを、ここ20年ちょっとで大きく意識改革がなされてきたわけです。

そういう急激な変化に対して、システムのほうは追いついておらず、共働きを要望されても女性側に負荷がかかりすぎ、結果として専業主婦希望がまた増えているということなのかなと考えています。(保育園で手縫いの手提げ鞄を用意させているところとか一体何なんですかね。)

家事を自分で苦労して身につけてると、家庭科教育では家事は身につかないと切り捨てたくなりますが、最低限のことさえも教えてもらえるのとそうでないのとでは違いますからね。しかも、今の家庭科では、授業内容は縫製や料理に限定されません。

第2章 各教科 第8節 技術・家庭:文部科学省

A 家族・家庭と子どもの成長
B 食生活と自立
C 衣生活・住生活と自立
D 身近な消費生活と環境

乳幼児と触れる機会があったり、消費行動について学ぶ機会もある。親の立場では大変ありがたいです。自分の子供には、そうやって学んだものを家庭でも応用する場を提供してあげたいですね。

 

余談

ちなみに、牧野カツコさんの紀要論文の中には、現代日本人男性が韓国人男性と同じくATM化している統計が紹介されています。男性の子育てに関するスタンスは、日本と韓国は本当に似ていますよね。

韓国の2chみたいな掲示板では、韓国人男性が「妻からATM扱いされていてツラい」みたいなトピックがあるのでしょうか。この分野での識者がいらっしゃったらぜひご教示いただきたいものです。