斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

「DeNAのキュレーション事業(MERYのペロリ、iemo等)で38億円の減損!」の簡単な解説とまとめ

エゴサーチしてたら、

WELQの嘘やデマを批判するなら、WELQを嘘や間違った情報で叩いてはならない - この夜が明けるまであと百万の祈り

そのあたり、詳細は多分らくからちゃさんかtopisyuさんあたりがまとめてくれるでしょう。

こんな言及を見かけました。

要は、DeNAが話題になっていたキュレーション事業で38億円減損をしたことについて、

ディー・エヌ・エー まとめ記事サイト停止で38億円損失 | NHKニュース

「38億円!?そんなに儲けてたのか!!」みたいな憤りをしている人がいるみたいなので、それが誤解であることを私がまとめてくれるんじゃないかということらしいです。

はてなブックマーク - ディー・エヌ・エー まとめ記事サイト停止で38億円損失 | NHKニュース

のれんの減損処理は、企業の会計処理上は重要なポイントではあるものの、一般人が知らなきゃいけないことではありません。ただ、このブログは離婚やDVが当たり前に登場する一般向けではないブログなので、せっかくなので簡単に書いておきます。

 

 

のれんは買収時に計上されるものです

NHKの記事では今回の減損をこんな風に書いています。

ディー・エヌ・エーは、医療や健康の情報をまとめた「WELQ」などの「まとめ記事サイト」に、根拠が不明確な記事を載せていたとして、去年12月、合わせて10のサイトの運営を停止しました。

これによって広告収入が見込めなくなったとして、ディー・エヌ・エーは、サイトを運営していた子会社の価値を見直した結果、ことし3月期の決算で38億円の損失を計上したと発表しました。

ポイントは、

子会社の価値を見直した結果

というフレーズです。

 

ざっくりいえば、企業や事業を買収したときのそのときの純資産より買収額が高いと、会計上、(正の)のれんが計上されます。今回の38億円の損失のうち、36億円がMERYを営むペロリとiemoとFind Travelにまつわるのれん部分でした。

つまり、この3社について純資産より36億円程度高いお値段でDeNAは買収したということです。DeNAはIFRSを導入しているので、のれんの償却はしておらず、36億円は買収時のそのまま乗っかっていたはず。

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※DeNAの決算報告書より。赤枠は筆者。

実際には、ペロリとiemoの2社だけでも買収額は合計50億円ぐらいだったと言われています。

総額50億円、ディー・エヌ・エーがiemo、MERY運営2社を子会社化ーー2社に聞く、キュレーションの「次」 - THE BRIDGE(ザ・ブリッジ)

設立1年ほどのスタートアップ2社が新しいステージに向かう。10月1日、ディー・エヌ・エーは住まいの特化型まとめ「iemo」と、こちらも女性向けファッション情報の特化型まとめ「MERY」を展開するペロリの2社を買収、子会社化したと発表した。

買収金額や内訳など、詳細については公表されていないが、関係者の話では両社の買収金額の総額は50億円ほど、株式交換などではなく全てキャッシュでの実施となる。これに伴いiemo代表取締役の村田マリ氏はディー・エヌ・エーの執行役員に就任する。

2社とも創業間もないベンチャーだったようなので、VCがお金を入れていたとしても、50-34=16億円も純資産はなかったでしょうけどね。

何にせよ、DeNAは36億円以上をこの3社の株主に支払ったということです。 

 

買収額「36億円以上」は高すぎた!?

結果として、買収時に計上したのれんを減損しているので、この件については買収額が高すぎたという風に思うかもしれません。

ただ、ペロリ、iemo、Find Travel含むキュレーション事業全体の売上高は結構順調に成長していました。

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赤字は赤字だったみたいですけどね。それが、今回の騒動で、

去年12月、合わせて10のサイトの運営を停止しました。

これによって広告収入が見込めなくなったとして、ディー・エヌ・エーは、サイトを運営していた子会社の価値を見直した

ということで、サイトを停止したので売上が見込めないので、のれんの減損もしたということです。

のれんの減損は基本的には買収したときの事業計画を下回っているときに検討するものなので、DeNAが公表しているように、

2016年度 第3四半期決算説明会資料(DeNA)

のれん等関連する資産は、現段階では事業計画が未定であることから保守的に減損処理

2017年2月8日現在

• 期間3ヵ月を目途に第三者委員会による調査中
• 調査等終了後は取締役会にて報告書を受領のう
え、速やかに公表予定

事業計画が未定=上回るか下回るかも分からない→保守的に減損という処理をしたわけです。

今回の騒動がなければ、(元がどんな事業計画だったか私は知りませんけど)今減損処理はしていなかったでしょう。今回の騒動によって事業を停止したため減損処理をすることになったということです。

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※絶賛成長中だったMERY(「MERY」アプリ提供開始から10ケ月で、500万ダウンロードを突破 | 株式会社ディー・エヌ・エー【DeNA】より)

ちなみに、第三者委員会の報告書が3月中旬に出てくるようなので、それ次第では事業の再開の可能性もあるかもしれません。ただ、減損処理したのれん部分は戻入れできないので、36億円の損失は確定してます。

 

DeNAの経営陣は見る目がなかったのか?

なお、一般にベンチャー企業は純資産がそんなにないので、のれんがばばばばーんと乗っかることはよくあります。

Google買収額の100分の1、YouTube売上高の低さに投資家が衝撃:MarkeZine(マーケジン)

The New York Timesが3月8日に報じたところによると、Googleが2006年9月に16億5,000万ドルで買収した動画投稿サイトYouTubeの2006年の広告収入が1,500万ドルだったことが明らかになった。これは、利益ではなく、売上高。買収のためにGoogleが支払った金額の約100分の1という事実に、同紙の記事は厳しい論調となっている。

Googleが2006年にYoutubeを買収したときは、買収額は売上の100倍ぐらいでした。そのとき、GoogleがのれんとかもろもろでYoutube絡みの無形資産を計上した金額は13億ドルぐらいです。そこから逆算すればYoutubeの純資産は16-13=3億ドル以下だったということです。のれんとかが大半だった。

今では、ピコ太郎が大ヒットを飛ばしたり、ラーメンズが動画を無料でアップロードしたり、企業もPRに活用するなど、比較的クリーンなイメージがあるYoutubeですが、Googleが買収した2006年当時は違いました。

ラーメンズ公式 - YouTube

その頃のYoutubeは、まだ創業1年半で、権利者が許可しない動画が無断でアップロードされている魑魅魍魎が跋扈する世界でした。そしてそのYoutubeの動画の上にコメントを付けられるということで利用者が広がったのがニコニコ動画でした。

ニコニコ動画 - Wikipedia

2007年1月15日 - 「ニコニコ動画(β)」としてサービス開始。YouTubeなど他の動画サイトにアップロードされた動画を引用して、動画上にコメントを打ちながら鑑賞するというサービスだった。

当時はYoutubeの買収価格は高すぎるという議論をよく見かけました。今となっては割安だったといえるでしょうね。ニコニコ動画も当時は相当胡散臭かったというか、完全アウトの領域でしたけど、その後ドワンゴの収益源になり、カドカワとの統合のための大きなドライバーになりました。

何が言いたいかといえば、会社を買って(新しい事業を初めて)成功するか失敗するかというのは、なかなか当時は判断がつかない部分があるということです。

 

なお、私は、当時のDeNAの経営陣の買収判断について「間違っていたかは分からない」とコメントしているまでで、その後騒動になる怪しい記事の大量生産を肯定しているわけではありません。買収当時に想定していたより事業が成長していなかったから禁秘に手を出したという可能性もありえるかも。私はDeNAのキュレーション事業のウォッチャーではないため、何とも言えないですけどね。

 

38億円の減損に憤るのは消費者ではなく投資家

ということで、意外に長くなりましたけど、結論をいうと、今回の減損に一般人が憤る必要は特にありません。怒るべきは投資家でしょうね。DeNA全体でみれば大した金額じゃないし、他にも収益源はあるので、そんなに株価には影響ないでしょうから、怒っている投資家は少ないでしょうけど。

むしろ、一般人は「ネットの力で企業に打撃を与えた!」みたいな感じで喜んでもいいかもです。別に減損処理自体で会社からお金が出ていくわけではないですけど、東芝みたいに純資産は目減りする要因になります。企業的には痛いのは痛いです。

東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか? | 加谷珪一 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

それでも、それでも、DeNAは自己資本は厚いのであまり影響ないですけどね。影響があるとすれば、キュレーションメディアの買収がネット界隈で強烈に萎んでいくことかなと思います。

ここまで社会事件になっていると、今から新規にキュレーションメディアに買収して参入しようとする企業は少なくなりますから。今時は、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)がベンチャー投資で占める割合が結構高くなっているので、「キュレーションメディアを売却して一発稼ごう!」という人たちは今回の騒動で地団駄踏んでいるかもしれません。

 

ソニーのコロンビアの減損も話題に

ちなみに、最近の減損絡みでは東芝が一番人気ですが、ソニーのコロンビアの営業権(のれん含む)の減損も話題になりました。

ソニー、映画事業で減損損失1121億円を計上 :日本経済新聞

1989年に買収したコロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメント社の営業権などが減損の対象となった。

減損判定は基本的に監査法人のチェックが入るものなので、企業が勝手に減損しないとか、するとかする性質のものじゃないんですけど、今回のDeNAのように過去の資産を保守的に見積もって監査法人と色々やりとりして減損することはあります。

「前期大赤字だったのにV字回復を果たした!」みたいなことを企業が宣伝するときに、減損でゴニョゴニョしてたみたいなことはあります。「減損したのは会社にとって打撃だ!」といった風に考えるだけでなく、「なぜこのタイミングで減損したんだろう?」と考えると、企業の見方がまた変わって面白いと思います。

 

以上、簡単な解説とまとめでした。