斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

ソニーのパソコン事業売却報道とその後の開示情報から"飛ばし"だったかどうかを判断する

一昨日こんな報道がありました。

ソニー、投資ファンドにパソコン事業売却へ :M&Aニュース :企業 :マーケット :日本経済新聞

はてなブックマークコメントでは、

はてなブックマーク - ソニー、投資ファンドにパソコン事業売却へ :日本経済新聞

日経新聞の"飛ばし"記事(裏付けのない憶測報道)ではないかという意見が大半です。

 

topisyuは報道もそうですし、加えてソニーのその後の開示資料を見て、「これは飛ばしじゃなさそうだな」と思っていたら、昨日正式に公表されていました。

Sony Japan | ニュースリリース | PC事業の譲渡に関する意向確認書の締結について

 

ということで、どうして、飛ばしじゃないと思ったのかを紹介するのがこの記事です。結論は、「メディアと企業の攻防が垣間見られる、企業の開示資料もウォッチすると面白いよ!」です。後出しジャンケンで、「飛ばしとか言ってた人恥ずかしい!」と言いたいわけではありません。また、ブログタイトルにある通り、レポートを発表する場ではなく、個人の日記です。日記を読みたくない方はそっ閉じを推奨します。(id:Tomosugi

f:id:topisyu:20140207024740p:plain

 

スクープ報道に対するソニーの対処比較

実はPC事業の取り扱いについては、こんな話も出ていました。

ソニー パソコン事業でレノボと提携交渉 NHKニュース

 

こちらは、同じくはてなブックマークコメントでは、飛ばし記事だという指摘はあまり見かけませんでした。

はてなブックマーク - ソニー パソコン事業でレノボと提携交渉 NHKニュース

 

しかし、ソニーは、これに対し、

2014年2月1日付の一部報道内容に関して

2014年2月1日(日本時間)に、当社がPC事業についてレノボ・グループと合弁会社の設立に向けた交渉に入った旨の一部報道がありました。これまでお知らせしている通り、当社はPC事業についてさまざまな選択肢を検討していますが、PC事業に関する当社とレノボ・グループの提携に関する報道は事実ではありません。

Sony Japan | ニュースリリース | 2014年2月1日付の一部報道内容に関して

このように否定しています。

 

一方で、一昨日のパソコン事業のファンドへの売却報道に対しては、

2014年2月4日、5日付の一部報道内容に関して

2014年2月4日、5日(日本時間)に、当社が国内PC事業について日本産業パートナーズ(JIP)と新会社を設立する方向で検討しているという一部報道がありましたが、当社の発表によるものではありません。これまでお知らせしている通り、当社はPC事業についてさまざまな選択肢を検討していますが、これ以上のコメントは差し控えます。

Sony Japan | ニュースリリース | 2014年2月4日、5日付の一部報道内容に関して

歯切れが悪いコメントとなっています。

 

元の報道は、同じような不確定報道だったにも関わらず、明らかにトーンが異なります。開示情報を比較し、言葉の使い方の違いに注目してみると、企業が意図していることが透けて見えます。

 

否定しているのか、明言を避けているのか

前者と後者を比較して何が一番の違いでしょうか。ポイントは、"報道は事実ではありません。"と、"当社の発表によるものではありません。"です。事実ではないというのは明確な否定ですよね。一方で、当社の発表ではないは、否定ではない。

 

"事実ではない"というのはその通り受け取れますが、"当社の発表ではない"とどうして曖昧に開示する必要があるのでしょうか。それを考えるには、自らを投資家視点に置くと分かりやすいと思います。

 

仮に、あなたが投資家だったとして、"飛ばし"記事を読んだとしますよね。「お、これでソニーの株を売ろう/買おう!」と考えたりするかもしれません。そんな時に、ソニーが公式で、「この報道は事実ではない」と言ったとします。「何だ、誤報か。では、取引するのを止めておこう」と思っていたら、後になって、ソニーが「本当でした!」と公表したとします。そうすると、あなたは「あの時、『事実ではない』と言ったのは嘘だったのか!あれで取引ができなかったから、私は損をした!!」と言いたくなりませんか?このように事実となる可能性があるものを事実でないとしてしまうと、ソニーは投資家の信頼を失うことになります。(下手をすれば虚偽報告)

 

(IRの)開示情報というのは、投資家向けに出されているものですから、企業側も、当然こういう反応があることは想定しているわけです。だから、事実ではないことを事実ではないとコメントするのは問題ないけれど、(まだ決まっていないけれど/公表できないけれど)事実であることについては事実でないとも事実であるともコメントできないわけです。

 

ということで、開示情報の中に、"報道は事実ではありません。"とあれば"飛ばし"と考え、"当社の発表によるものではありません。"とあれば事実の可能性もあると見て取れるわけですね。

 

 

検証編

それでは、これが本当に合っているか、ソニーの過去の開示と実際の取り組みをチェックしてみましょう。

 

まずは2013年。

2013年4月25日(木)付 日本経済新聞

『次世代TVで21社連合 20年本放送へ技術確立 NHK・ソニー』について

弊社から発表したものではありません。報道へのコメントは控えます。

 

2013年1月25日(金)付 読売新聞

『リチウム電池 統合交渉 ソニーと日産・NEC 革新機構仲介』について

当社からの発表に基づく内容ではございません。本件に関するコメントは差し控えさせて頂きます。

Sony Press Room

これらは2013年のスクープ報道後の開示です。残念ながら、現在進行形なのか、未だこれらがどうなっているかは確認できません。

 

続いて、2012年です。

2012年9月14日付の一部報道内容に関して

2012年9月14日(日本時間)に、当社とオリンパス株式会社との資本提携に関する一部報道がありましたが、当社が発表したものではありません。報道に対するコメントは控えさせていただきます。

http://www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/news/NoCommentStatement_J_Olympus_TSE0915.pdf

これは、"当社が発表したものではない"で、その後実際に、

Sony Japan | オリンパスとソニーの業務提携及び資本提携合意に関するお知らせ

と公表されました。報道は正しかったようです。

 

続けて、

2012年1月7日付の一部報道内容に関して

2012年1月7日に、ソニー株式会社の経営陣の人事に関して一部報道がありましたが、当社が発表したものではなく、経営陣の人事に関して現時点で決定事項はありません。

Sony Japan | ニュースリリース | 2012年1月7日付の一部報道内容に関して

この報道はどうでしょうか。これも、"当社が発表したものではない"ですね。一部報道とはこちらです。

ソニー社長に平井氏 ストリンガー氏は会長続投 :日本経済新聞 

結果は、日経が報道していた通りでした。

Sony Japan | 役員人事

 

まだまだ探せばあるんでしょうが、"当社が発表したものではない"が、"未確定だけど可能性がある"という時に使われる言葉であるというのは言えそうです。

 

応用編

ついでですから、ソニーだけではなく、他社事例を見てみましょう。ソニーが特別ということもありえますしね。

 

日経の"飛ばし"の被害を受けることの多い任天堂ですが、明確に否定していますね。これぐらいの開示なら、明確に元記事が"飛ばし"だったと考えられそうです。

本日の日本経済新聞の報道について

本日の日本経済新聞の報道(「任天堂、スマホに対抗」)は、当社が発表あるいは事実確認したものではなく、数多くの間違いが含まれた、日本経済新聞社の全くの憶測記事です。

尚、当社の公式発表は当社ホームページに掲載しており、世界最大のビデオゲーム展示会であるE3ショー(米国時間6月5日開催)における当社発表会の模様も、当社ホームページにて6月6日午前1時より生中継予定です。また、新製品に関する情報といたしましては、6月4日に「Nintendo Direct Pre E3 2012」ビデオの中で当社社長岩田聡が直接お客様に対してメッセージをお届けしており、そのNintendo Directビデオは当社ホームページにてご確認いただけます。

ニュースリリース : 2012年6月5日

でも、こんなに一所懸命に否定してしまうと、本当のことをリークされた時に困りそうです。

 

続いて、同じく、日経の被害者となることが多いドコモ。ドコモは何度も何度もiPhoneを取り扱うかで、日経と攻防を繰り広げていたわけですが、実は、年を経てニュアンスが変わっていってるんですよね。適時開示ウォッチャーならたぶんご存知の方も多いはず。 

 

確認できる一番最初の"飛ばし"への開示がこちら。

弊社に関する一部報道について 2011年12月1日

平素はNTTドコモグループのサービス・商品をご利用いただき、誠にありがとうございます。

 

本日、一部報道で、当社がアップル社の「iPhone」及び「iPad」の取り扱いを開始する旨の報道がありましたが、

現時点において、「iPhone」及び「iPad」の取り扱いについて、当社がアップル社と基本合意したという事実はございません。

 

また、現時点において、「iPhone」及び「iPad」の取り扱いに関し、アップル社と具体的な交渉をしている事実もございません。

ドコモからのお知らせ : 弊社に関する一部報道について | NTTドコモ

これは明確に否定しています。

 

これ以降何度も日経からは"飛ばし"報道がされていましたが、(確認する限り)ドコモは沈黙を守り続けていたわけです。否定をしなかった。そして、昨年9月。 

2013年9月6日 本日の一部報道について

本日、一部報道機関において、当社がアップル社の「iPhone」を発売する旨の報道がありましたが、

当社が発表したものではございません。

また、現時点において、開示すべき決定した事実はございません。

http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr2/tdnetg3/20130906/89iqpt/140120130906020385.pdf

"当社が発表したものではございません。"が出ました。この後間もなく、ドコモがiPhoneの取り扱いを公表したのは、皆さんのご存知のとおりです。

 

もちろん、この流れ自体も興味深いのですが、実はそれだけではなく、元の開示書類では、プロパティ情報が話題になっていました。

docomoのiPhone発売の「本日の一部報道について」のpdfにツッコミどころが2つもある件

いよいよiPhoneがdocomoから発売?と話題になり、否定のリリースを出してまた話題に…と情報が錯綜している中で、docomoが出したリリースのpdfデータに残っている情報にツッコミどころがあるとのことなのでご紹介。

要は、作成日が2012年6月11日になっていて、AppleのWWDCでの発表日と被っていたという話です。本当のところは分かりませんが、色々察することができそうですよね。

 

締め

一見すると"飛ばし"記事でも、こうやって企業の開示と照らし合わせると見えてくるものがありますよね。ドコモのように過去のリリースとの比較をすると、更にメッセージが伝わってきたり。

単に、日経だから"飛ばし"とするのではなく、こうやって企業側の開示をウォッチすることで、報道機関と企業の鍔迫り合いも見て取れるのでは?ということで、紹介させて頂きました。

皆様の"飛ばし"ウォッチが充実することを願っています。

 

なお、こちらは、topisyuが個人の立場で書いたものです。所属していた組織から得た情報で発表したものではありません。個人のバックグラウンドを詮索する質問を頂いたとしても回答は差し控えます。

 

 

 

余談

"飛ばし"記事に対する政府の反応については、別の観点での検討が必要となります。

「もんじゅ」見直し、方向性を決めた事実は全くない=菅官房長官 | Reuters