斗比主閲子の姑日記

姑に子どもを預けられるまでの経緯を書くつもりでBlogを初めたら、解説記事ばかりになっていました。ハンドルネーム・トップ画像は友人から頂いたものです。※一般向けの内容ではありません。

JAL客室乗務員マタハラ裁判での休職は破格の待遇か

こんな依頼をされました。

JALが妊娠を機に客室乗務員を休職扱いにしたことについて背景が分からないということですね。関係者・専門家ということでもないんですが、依頼に応えて考えてみます。

特に説明するまでもなく、個人の日記です。

http://www.flickr.com/photos/47789610@N04/5541914291

photo by Christian Junker - AHKGAP

※再生後のJALはシステム・サービスがかなり改善していて結構好きです。

 

JAL客室乗務員マタハラ裁判とは

6月16日にJALの客室乗務員の方が妊娠後地上勤務を希望したもののJAL側が休職扱いしたことについてマタハラとしてJALを提訴したものです。

JAL客室乗務員「マタハラ」で会社提訴 NHKニュース

日本航空の客室乗務員の女性が妊娠後、体に負担が少ない地上勤務への配置転換を希望したのに認められず、休職扱いにされるというマタニティーハラスメント、いわゆる「マタハラ」を受けたとして、会社に慰謝料などを求めて16日、東京地方裁判所に裁判を起こしました。

 

休職扱いは破格の待遇か?

それでJAL側が配置転換をしなかった背景には、

日航CA、「マタハラ」提訴…休職命じられ無給 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

同社によると、妊娠が判明した客室乗務員は、母性保護のため休職させるが、本人が希望し、かつ会社が認めた場合は、地上勤務ができる制度を設けている。2007年度までは希望者全員が地上勤務に就くことができたが、業績悪化により、08年度から「会社が認めた場合」という条件が加わった。

こういう社内規程があったからだそうです。昔は希望者全員が地上勤務できたけれど、今は会社が認めた場合に限る。JALは再生後利益率が大幅に改善しているものの、必ずしも順風満帆というわけでもなく一度厳しくした以上簡単に規程を緩められないんでしょうね。

それでは、休職扱いが破格かといえば、これで解雇や不利益な配置転換でもしたら、それこそ男女雇用機会均等法違反です。(そもそも正社員を簡単には解雇できませんが)

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※画像は、リーフレット:例えば・・・「妊娠したら解雇」「育休取得者はとりあえず降格」は違法です[407KB]  より。

そのまま働かせ続ければいいかといえば、

過労死行政訴訟 被災者側勝利判例No.164

 イ 気候の急激な変化,振動・タービュランス,床面の傾斜
 客室乗務員は,温暖地から寒冷地へ,湿地から乾燥地へと短日時で移動している。
 飛行機は,常に振動しており,また,航行中の気象等の条件によりタービュランスが発生することがある。
 航行中の飛行機については,機首上げ飛行が一般的に行われており,通常機首を約3度上げている。そのため,機内の床は前後に傾斜している。
 ウ 食事・休憩
(ア)客室乗務員の食事・休憩時間は定められておらず,食事は概ね10分ないし20分くらいの間に,調理室内又は清掃中の客席で取る。
(イ)休憩は,短距離便では無く,長距離便でも不確定である。
(ウ)機体内に臥・小休憩に使用できる休憩室はなく,客室乗務員専用のトイレもない。

国内線か国際線かでも違いはあるにせよ、気圧や気温の変化は著しいですし、休憩時間も少なく、妊婦が働ける職場ではないでしょう。本人もそれは希望しないことから、休職というのは最低限の待遇だと思います。

なお、労働基準法では、

(産前産後)
第六十五条  
○3  使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

企業側に配置転換の義務があります。ただ、これも通達(昭和61.03.20基発 第151号)では、新たに軽易な業務を創設して与える義務まではないとされているので、今回のように、地上勤務で行う業務がないということが説明されていれば、必ずしも労働基準法違反にそのまま該当しないとも考えられます。

 

まとめ

ここまでのことをまとめると、

  • 妊婦だからといって不利益変更をするのは男女雇用機会均等法違反
  • 客室乗務員の業務は妊婦が続けられるものではない
  • 労働基準法上、雇用者は妊婦が請求したら軽易な業務に転換させる義務がある
  • ただし、雇用者は新たに軽易な業務を創設する義務はない
  • JALの社内規程上地上勤務は会社が認めた時に限る

こんなところです。

JALとしては休職までは最低限(最大限?)の対応であるものの、仮に軽易な作業をするポストがあるにも関わらず配置転換させていないという事実があれば、労働基準法違反という話にもなりますかね。客室乗務員の女性は妊娠による不利益変更がある(マタハラである)として男女雇用機会均等法違反を主張しています。

訴状を見ていないのでこれ以上何とも言えませんが、仮に妊婦の休職も労働基準法上不利益変更であるという判決でも出たら、インパクトは大きいでしょうね。労働事件では判例が重要なので。