まったく知らなかったんですが、クールビズの期間は環境省が定めてたんですね。
この「COOL CHOICE」の主要施策のひとつとして、平成 17年度から推進している、夏期の室温設定の適正化とその温度に適した軽装や取組を促す「クールビズ」を今年度も推進していきます。クールビズ期間については5月1日から9月30日までとし、COOL CHOICEイメージキャラクター「君野イマ」と「君野ミライ」が登場する3DCG動画「クールビズ編」の公開など、積極的に広報して、引き続き地球温暖化対策及び節電への取組を呼びかけてまいります。
「なぜ、日本のお固い企業がみな同じタイミングでクールビズを開始できているのだろうか? 金曜会からお達しでも出ているのだろうか??」と長年疑問に思っていたので、すっきりしました。
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君野イマ? 君野ミライ??
リリース文に、
COOL CHOICEイメージキャラクター「君野イマ」と「君野ミライ」が登場する3DCG動画「クールビズ編」の公開
こんなことが書いてあったので、リンク先で公開されていた動画を見てみました。
※画像はCOOL BIZ編:COOL CHOICE イメージキャラクター3DCG動画 - YouTubeの1分17秒。
左のキャラクターが君野ミライで、右のキャラクターが君野イマ。イマは物理演算の設定がおかしいみたいで、髪の毛がメデゥーサみたいにうねうね動きます。率直に言って気持ち悪い。
このシーンではミライがイマに「髪をアップスタイルにするのもクールビズなのよ」と説明しています。アップスタイルはクールビズだったのか、知らなかった。
Ministry Of the EnvironmentだからMOE(萌え)
なぜ環境省が萌えキャラでをアピールしているのかよく分かりませんが、環境省がMinistry Of the Environmentで略してMOEというのがかかっているみたい。MOEだから萌え。
※画像は環境省「COOL CHOICE」の萌えキャラを、みんなで作ろう!|COOL CHOICE 未来のために、いま選ぼう。から。Crowdworksで設定とキャラクターを募集したらしい。
設定がいかにもな上手さ
設定を考えられたのは、borges(ボルヘス)という一般の方で、4つ提案したうちの1つが採用されたみたいです。採用された提案がこちら。
「『COOL CHOICE』認知度向上プロジェクト!COOL CHOICE MOE萌えキャラクターのコンセプト募集!」へのborgesさんの提案一覧
並行世界から現れたCoolなわたしと、ズボラなわたし。
・「君野イマ」「君野ミライ」
・女子高生。「君野イマ」はぐうたらで不摂生。「君野ミライ」はクールで知的でしっかり者。部屋の電気も消し忘れ、冷蔵庫の扉も閉め忘れる。真冬の部屋で暖房をガンガンに利かせてアイスクリームを食べるのが至福のひととき。そんなぐうたらな女子高生、君野イマはCoolなChoiceとは程遠い暮らしを送っていた。
「あなた、だれ。もしかして、ドッペルゲンガーってやつ!?」
そんな彼女のもとに突如として現れたのは、姿かたちも自分とそっくりな、もう一人の自分。
「わたしの名前は君野ミライ。わたしはあなた、あなたはわたし」
「どういうこと?」
「わたしはこの世界と鏡映しの並行世界、クールワールドからやってきたの。そこでは一人一人のCoolなChoiceによって、クリーンで、豊かで、先進的で、持続可能な暮らしが築かれているわ。けれどもいつか、どこかで選択を違えた二つの世界の間には、亀裂が生じてしまったの。このままでは世界が終わってしまう。だからどうにかして修復しなければならないの」
「でも、どうやって?」
「今にわかるわ」
それから君野ミライはまるで小姑のように、ぐうたらな君野イマの生活態度を正してゆく。
「わたしがここへ来た目的は、この世の多くの人々に、CoolなChoiceをしてもらうこと。そして世界を救うこと。そのためにはまず、あなたのそのぐうたらな生活を改める必要があるの。そしてあなたには、世界の人々にCool なChoiceを伝える伝道師になってもらうわ。これはもう、この世界における決定事項なのよ。さあ、一緒に世界を救いましょう!」
「そんなこと言われても……」
果たしてミライは、イマを変えることができるのか。
イマは、変わることができるのか。
いかにもな感じで非常に上手いですよね。物凄くプロっぽい。
私も小姑な気質があるので、この人が本当に一般人かどうか確かめてみようと、ご本人が公開されている阿久沢牟礼というもう一つの(本当の?)ペンネームで検索してみたところ、Twitterをされていました。
この企画に絡んだ投稿をしているのは1tweetぐらいで、
https://t.co/nYJn4wYgAf
— 阿久沢牟礼 (@axaxaxawa_mloe) 2016年12月12日
どれかというと、これかなぁ。しかし、うーん。
似すぎていても違いがわかりづらいし、似てなさすぎても伝わらないし。
難しいところ。
他のtweetはほとんどが哲学的な視点で書かれたもの。
客観的視座をとっぱらった上でなお成される誠実さとは、もはや美学だろう。思いやりではなく、純粋な美学。もはや誰のためでもない。
— 阿久沢牟礼 (@axaxaxawa_mloe) 2016年10月24日
そういう祈りにも似た誠実さを持ちあわせた人間が、世にはいる。
例えばウィトゲンシュタイン。他人の迷惑も顧みない誠実さ。
複数のカメラの前に晒されるという体験を初めてした。複数の観察者がおり、そのレンズの先にはさらに無数の観察者がいる。そういう累進をまるごと眺める自分がいて、認識が処理落ちしそうになる。
— 阿久沢牟礼 (@axaxaxawa_mloe) 2017年2月26日
夕方のニュースの密着レポート的なコーナーに登場する「仲の良い同僚」とか「ママ友」とかって素人じゃなく劇団人だろ? と思って見てみれば面白い。
— 阿久沢牟礼 (@axaxaxawa_mloe) 2017年3月24日
すべての振る舞いがさも「それっぽく」見えてくる。
「それっぽさ」自体が浮き上がってくる。
『客観』を凄く意識されています。本業でクリエイティブなことに関われているかもしれませんが、少なくとも環境省のこの企画のために取って作られたアカウントではありえなさそう
面白そうな人だと思って小説も読んでみました。
『空の王様』阿久沢牟礼(『裸の王様』) | BOOK SHORTS
『裸の王様』をベースに昨年6月のBrexit(イギリスのEU離脱)を恐らく考慮したと思われるシニカルな政治の寓話です。何度も登場する、存在しないはずの王様の身支度の様子で笑ってしまいました。このBOOK SHORTSというサイトの2016年10月の優秀作品にも選ばれています。納得。
『君の名は。』が意識されてそう
とすれば、君野イマとミライという名前と、ミライがイマを変えるという設定も、設定をした方からすれば、昨年大ヒットした『君の名は。』をモチーフにしている可能性は高い感じがします。むしろ、ここまで意識的に物を書いている人が、この名前と設定で『君の名は。』を知らないで書いたとは思えない。
それで気付いたのが、キャラクターに声をあてているのが上白石萌歌(かみしらいしもか)さんだということ。お姉さんは上白石萌音(かみしらいしもね)さんです。『君の名は。』の主人公の三葉の声優さん。
声優経験がない、率直に言って上手くはない、上白石萌歌さんがこの件で起用されているのは、どこまで誰かの意思が働いているかは分からないけれど、『君の名は。』は意識されている気がします。
三本目の動画はCoolじゃなくて燃えた
ちなみに、動画の再生数は、今アップロードされている三本で、6000、1600、15000ぐらい。一本目はキャラクター紹介動画で、アップスタイルがクールビズだと紹介されているのは二本目。
「三本目が15000もあるなんて、多いじゃん!成功してる!?」と思われるかもですが、こちらは悪い意味で目立ったが故の再生数です。
この絶望的なポスターが国のワカッテナサを象徴してる。「だらしないから1回で受け取れない」と言いたいのだろうが、逆だよ。仕事してるから受け取れない。右の子が左になれば受け取れるの。/「宅配便、1回で受け取りを」 再配達抑制へ国呼びかけ https://t.co/4L4D2RbLUI pic.twitter.com/xaWGYKv7PI
— PICTOMANCER (@pictomancer) 2017年4月4日
「宅配便、1回で受け取りを」 再配達抑制へ国呼びかけ:朝日新聞デジタル
環境省はネット通販をよく利用する若者向けに、萌(も)えキャラによる啓発動画を公開した。
朝日新聞の書きぶりだと、環境省(MOE)はネット通販をよく利用する若者が、君野イマのように基本は部屋で"ぐうたらで不摂生"だから再配達させることになっていると言いたいのだと取れちゃいます。
実際は、再配達を依頼しているのは単に不在だからというのはよく知られていることですよね。国土交通省が作成した再配達の削減を検討する資料の中でも、再配達を依頼しているのは不在という理由が大きいのがピックアップされている。
※画像は宅配の再配達の削減に向けた検討の進め方について(平成27年6月5日、国土交通省)より。
締め
せっかく設定もキャラクターも一般に公募して進めたのに、アウトプットがこの動画で、メッセージがこれだとがっかりしますよね。
以前、厚労省が企画した労働法のパンフレット漫画を紹介しましたが、
これ発行してるのは本当に厚労省ですからね。
— 斗比主閲子 (@topisyu) 2016年5月19日
「妊娠したら辞めてもらう」ということで辞めさせて、それを同僚が寿退社とお祝いするのって、ホラーだけど実在する。 pic.twitter.com/2Ovufs2VFT
こちらは凄く良い出来で、tweetもどちらかといえば好意的に拡散されていました。
国としてはCool Japanを進める中で『萌え』を取り込むのは基本路線なんでしょうけど、あまりテキトウにやると、こういうお寒い例も増えそうな気がします。