日本学生支援機構(JASSO)の奨学金(貸与型奨学金≠給付型奨学金)が議論になっています。
奨学金が返せない|特集まるごと|NHKニュース おはよう日本
気づいてますか?子どもの貧困 【番組冒頭】奨学金が返せない!?|NHK あさイチ(この報道へのJASSOの公式コメントは魚拓をどうぞ)
何が問題?
どういうことかというと、日本育英会から事業を引き継いだ日本学生支援機構の提供する奨学金という名の『借金』について、返済できない人が増えているというものです。
おさえておきたい一つのグラフ
最近話題になっていることから、topisyuも、ネット上での議論、報道、論文、JASSOの規約などを読んだりして、後でまとめようかなと思っているのですが、まずは以下のグラフをおさえておくといいのではということで紹介するのがこの記事の目的です。
※JASSOが投資家向けに作成した『日本学生支援機構について』(PDF)(平成26年5月)P14より
緑が第一種奨学金(無利子の方)、赤が第二種奨学金(有利子の方)の平成8年からの貸与金額と人数の推移です。
グラフから読み取れること
ご覧のとおり、無利子の方の第一種は微増程度ですが、有利子の方の第二種は平成11年から急増し、金額ベースでは平成8年は500億円ぐらいだったのが平成25年には9000億円になっています。約20倍の増加です。
第二種が第一種を人数ベースで上回るのは平成14年で、以降は第二種が第一種を引き離し、平成25年は約2.5倍の開きとなっています。
その平成11年に何が起こったかというと、第二種について『きぼう21プラン』と呼称が変わり、貸与基準が緩和され、希望者は基本的に全員、奨学金が貸与されるようになりました。
奨学金制度の沿革と、制度に対する認識
第一種がスタートしたのは昭和18年、第二種がスタートしたのは昭和59年です。今と違って第一種が第二種を、貸与金額でも貸与人数でも大幅に上回っていたのは、第二種が導入された昭和59年から平成10年までずっと続いていた傾向でした。昔は、育英会の奨学金といえば、第一種だったんです。無利子の方。
平成10年以前は、奨学金を希望しても、第一種は当然ながら、第二種も条件が厳しくてなかなか貸与されませんでした。topisyuも第二種を希望したものの、親の年収から弾かれた記憶があります。(父は当時年収2千万円ぐらいでしたから通ると考えていたこと自体愚かでしたが)
それが平成11年の第二種の基準緩和によって奨学金に対する門戸が広がったわけです。大学進学率の上昇と平均年収の減少もあいまって、貸与を受ける学生は急増しました。今では、大学生の2.6人に1人がJASSOのこの貸与型奨学金を利用しています。給付型奨学金も含めた全奨学金市場で、JASSOの奨学金のシェアは5割は超えているはず。
認識のギャップが議論のギャップに
だから、何が言いたいかというと、この平成11年以降の第二種の急増について認識がないと、奨学金問題の議論をしても、なかなか噛み合わないのではないかということです。
30代後半以上では奨学金といえば「第一種で無利子のもので貸与のハードルが高い」、30代以下では「第二種で有利子のもので貸与のハードルが低い」と認識している可能性がある。
そうすると、「『奨学金』は『借金』だ」と言っても、無利子と有利子では、(有利子の方の利率がどれだけ低かろうが)借金としての重みが変わってきますし、どれだけ借りている人間がいるかのイメージも変わってくる。しかも、滞納について厳しくなったタイミングもまた別にあるんですよね。(3年ぐらい前に審査基準が変わったりもしました。)
締め
奨学金問題を議論する上では、学費の高止まり、所得の低迷、奨学金の勧誘方法の危うさ(販売窓口は金融商品を扱える環境なのか)、第一種と第二種の財源の違い(第二種は基本民間調達と回収金)、回収方法の問題点、過去の奨学金の延滞率の高さ、JASSOの中での奨学金事業の区分(と会計)などなど論点はかなりあります。
そういった議論をするためにも、初歩的な認識にギャップがあるとどうしようもないので、まずはそこら辺を修正できたらいいなと思って先ほどのグラフを紹介してみました。
若者を食い物にしているとか、JASSOが儲け過ぎとか、JASSOの従業員の給料が高すぎるとか、そういった話だけで、この貸与型奨学金を取り扱うのは勿体無いと、topisyuは考えています。
参考文献
自分でまとめられるのがいつになるか分からないので、参考になる文献を備忘録的に紹介しておきます。興味のある方はどうぞご覧になって下さい。
奨学金制度の拡充とそれに伴う財政的視点からの課題(PDF)
奨学金が学生生活に与える影響(PDF)
高等教育費の負担軽減をめぐる諸問題(PDF)
財政投融資と奨学金制度・政策の関係についての研究(PDF)